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そして、一度くるりと周囲を見回すと氷室君は僕の方にやって来た。
「おう、ちゅーた。テストやってたのか?真面目だな」
真面目だって言われても……テストは学生共通のことなんだけどな。
「保体か……懐かしいな。結構際どくマジメに性の内容が図解で解説されてンだよな。高校のはどうなんだよ?」
ニヤリと僕に顔を近づけてからかうように言われる。そんな僕は鼻っ柱を指で掻いて「同じだよ」と、小さく答えた。
どうも僕はそう言う話しは苦手だ。
「教科書でわからねぇ事があったら遠慮なく聞けよ。 オレの躰を使って部位を詳しーく教えてやるぜ?」
「テテッ、テストが終わったから大丈夫だから! それより昂ちゃんに会いに来たんだよねっ?」
「アハハハ、めんこいな〜 ちゅーたは。ああ、そうなんだが昂輝いねぇな、どこ行ったアイツ?」
「それが、昂ちゃんは朝のタイムサービスに行ってて遅れるって連絡来てたけどまだ戻ってなくて……きっとスーパーハシゴしてるみたい?」
「チッ アイツの貧乏性ってどうなってンだよ」
「でもね、昂ちゃんは凄いんだよ! 主婦の人たちに伝授するほどカリスマ高校生なんだって」
この前、100円袋の野菜入れ放題でめちゃくちゃぎっちし詰めて主婦層から褒め称えられたって自信に満ちた顔で教えてくれた。昂ちゃん節約術を極めていくなぁ。
「……オレ、日曜に連れて行かれたんだが、卵…持ってな。もう二度と嫌だわ」
「え!そうなの、氷室君が!?」
想像したらちょっと笑っちゃうな……どこから見ても怖い不良さんだし、金髪で赤のメッシュ…二重の涼しげな瞳でイケメンだけど強面。身長だって188センチの抑力ある人がおばちゃんたちに紛れてレジに並んだんだ……卵持って。
「まぁ……アイツんち、食べ盛りの兄弟多いからな」
そういえば昂ちゃんは小学生の弟や妹がいるって言っていた。氷室君は昂ちゃんとは幼馴染みで中学まではヤンキー仲間だったって不良に絡まれた時に偶然に発覚したことなんだけど、今の昂ちゃんはその面影もないくらい平凡然としていて、更に主夫化も増してるけども。
僕が紅総長の氷室君と恐れ多くも親しく普通に話せているのは、昂ちゃんの友人として僕を認めて気を許してるからだと思う。
「あ、あのー 氷室さん」
他の生徒が声を掛けた。
「…あ?」
「あ、あの、お話し中にすみません。放課後なのですが2年露組と3年四組の修理査定に付き合っていただける話は……」
「ああ、わかってるぜ。オレともう一人つくから」
「はい!助かります。宜しくお願いしますっ」
「もっと…ユルくいこうぜ?」
「め、滅相もないことです!!」
ぺコンと3年生の先輩は2年生の氷室君にお辞儀をした。上級生の先輩でも氷室君に敬語で低姿勢になってるのはただ不良だからじゃなくて、尊敬してるって言っていたから。
「ンぁー、硬てぇ喋り方ってむず痒いな。じゃあ、昂輝が戻って来たらオレに連絡しろって伝えてくれ。電源がーってケータイ止めてるからよ、アイツ」
「うん、わかったよ」
「あ。」
氷室君は振り返って、僕だけではなく周囲に目配せて見せて、
「そういや最近、1年がまとめてっから気を付けて行動しろよ」と氷室君は言って戻って行った。
まとめてるって事は1年の不良チーム?
僕たち、平凡組はシーンと静寂に包まれた。けども……。
「紅総長の氷室さんがいるからさ!!」
「そうだよ、あの強さは半端じゃないからね」
「なんたって、誰もが成し得なかった凶悪の黒チームを潰したんだからさ!」
氷室君は平凡組にとっての大きな砦で善のヒーローだった。
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