35. カオルとシキ

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「オレなら、例えば好きな人が学校では負の存在だとしても彼の笑顔が見れるのなら公表してもいいと思う。それが茨になるとわかっても……」 「公表……でも茨になるかもしれない……?」  灰鬼さんは学校では怖がられているけど、今は氷室君が学校統一(てっぺん)って不良クラスは思ってるから、氷室君と平凡クラスのみんなと敵になっちゃうのかな……それは辛いかも……。 「なんて言って見たけど、そういうのはお勧め出来ないね」  僕は頭を項垂れた。内面に溜まっていたネガティブな要素を口に出してしまった。 「どうして、僕みたいな鈍くさくて走るのも遅くて、いくら喧嘩騒動に慣れていても怖いって思うくらい弱腰で、平凡クラスの中でも面白くもない人間であって、灰鬼さんとは全くの真逆なのに、どうして僕を選んだんだろう」  平凡クラスからって言うなら、昂ちゃんならわかるのに……。  昂ちゃんは平凡の僕とそれほど見分けがつかないけど、内面は強くて暴力に対しても自分は弱いと思っても怯まない。 「それは好きになった方じゃないと分からないかも……全く相手に対して美化なんてしてないし、どこかで見つけた素の部分だけ受け止めてそれを両手で支えて抱きしめたいって一人を可能に思えるだけ。理屈なんてないんだ」  また、どこか消えてしまいそうな儚い笑顔をする薫君の話にただ黙って耳に傾けたけど、好きになるには理屈なんてないって大きく耳の奥底に残ったよ。  薫君ってもしかして……まさか……でも一般生徒からあんな怖い不良に恋するなんてないよね?  恋愛ーーって今まで一方的に気になるだけで告白どころか、声掛けも出来ないくらい初心な僕だった。 「好きになって……いろいろ知りながら。灰鬼さんはオレから見たら情の深い人だと思う。家庭環境によって自ら紫鬼君に会おうとしないのもそういうところがあるように思うんだ。あの二人、幼い頃は両親が離婚する時に離れたくないって反抗して二人で家出までしたらしいよ」これは言わないでね。と薫君はウィンクした。  だから、交際がバレることがあっても灰鬼さんには考えがあると思うし、茨にはならないから心配しないで!と僕を安心させてくれた。  薫君の言葉は優しい口調からなのか不思議と勇気が湧く。  殆ど初対面なのに……きっと、同じ学校なら友達になれそうな…ううんなってくれそうな!!  そう思ったのはきっと理屈じゃないって事かな?  あと……。  首の鎖骨から覗かせてる黒の鎖のチェーン……グタグタしてた時にやっぱり見えたようで……「オレは太ももに名前を彫られてるよ」って耳を疑うようなことを言った。 「ペンは消えるからね、まだ可愛いよ、ふふ」  !!!!! ・・・・・・・・  意気投合して遅くまで薫さんの部屋で話していたら、話を聞いて貰って安心したのかな、なんだかウトウトと眠くなっていた。  遠くでドアの開ける賑やかな音が聞こえて、ぼんやりと眺めていたら誰かが入ってきて。 『 カオル、お前の友人知人連れてくんなって!ナンもしてねぇしされてねぇだろうな?スマホ寄越せよ』 『松田君、よく見てよ……彼を。知ってるでしょう?』 『あァ?はぁ? ナニこのちんくちゃ。ナンで俺の家にいんだよ!!』  戻せよ……電話しろ電話ッ!!  なんて酷いこと言ってる気がするけど、僕は眠くて返事が出来ない……もしかして不良のボスがお出ましなのかもしれない。  どうしようってそう思って瞼に力を入れて我慢したけど、ブラックアウトした。  「すぅ・・・」
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