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38. 心臓がどっくんどっくんって暴れる
何をされたのか頭ではわかってるつもりだけど、思考が追い付いてないのか路地の地面に放心状態のままに座っていた。
そんな僕を灰鬼さんが全ての身なりを整えてくれて、改めて僕と同じ視線にまで屈むと両腕で包み込むように僕を抱きしめた。
灰鬼さんの唇が耳に触れて吐息の様に何かを小さく囁くと、顔が見えなくなるまで僕の胸に額を押し付けた。
僕はこの時、少し肩が小さく震えてた。
「約束、違うだろ」
くぐもった灰鬼さんの言葉にハッとして、顔を前に向けた。
やっぱり、怒っていた。
灰鬼さんに約束したことは、僕が昂ちゃんとのお買い物に付き合う事だった。
なのに、シマ関係の薫君や恋人の紫鬼さん……あと、きっとあの喫茶店での事を言ってる。
僕は薫君に出会って、もやもやしていた気持ちが軽くなったからか灰鬼さんと同じくシマの人と関わる人だったから安心しすぎて……でも、初対面で着いて行くのは怒られても仕方ない。もう少し状況を考えれば良かったんだ。
僕ってお酒を飲んだらポンコツだ……それも未成年で……うんんと反省しなくちゃいけない。
「勝手に行くな。どんな奴でも」
口調は強いけど優しい声だった。
「はい……」
頭を項垂れていたらはちみつの色の髪が頬にサラっとかかった。チャリって鎖の揺れる音もする……たぶん、お互いの?
さっきまで恐怖で肩が小刻みに震えていたのが嘘だったように、今度は心臓がトクトクと震えてる。
僕は自然の行動で、灰鬼さんの背中に腕をそっと回して抱きしめた。
そうしていると、どっくんどっくんってどちらかの心臓が跳ね上がって暴れてる。
こ、これ…僕……?
「どうだった?」
「え″……」
び、吃驚して腕を離しちゃった……気づいてないと思うけども。
「さっきの、気持ち良かった?」
「そっ…あ、こ、こわか…た…」
それは、怖いのと、ははは恥ずかしいのと……!
「気持ち良かった?」
「こわ…はず」
「濃かったし、気持ち良かったって?」
「は、はははいっ……!?」
灰鬼さんと至近距離になって、艶めかしい唇にドキッとした。
さっきの激しいキスをされた唇が近づく……。
でも、今度は触れたかわからないような感じで唇に熱が伝わった。
「あのぐらいならまだユルい……もっと央汰にシテやりたい」
「!!!」
「だから、怖がるな。硬くするな(注・緊張するな)」
もう一度ギュッて抱きしめられた。
さっきは無抵抗にならざるを得なかったけど、怖さはあってもキライになれない。
『好きになって……いろいろ(彼の部分を)知って』
薫君から言われた言葉を思い出した。
灰鬼さんは怖いところもあって、優しいところもある。
もっともっと傍に居ると灰鬼さんを知ることが出来る。
灰鬼さんのことをもっと判るようになれば、いいな……。
そんな気持ちになって、そっと灰鬼さんの首に腕をまわしたーーその時。
「ああ、居た! 暫く出て来ないから心配したよ」
路地から響く声は、さっき車で送って貰った灰鬼さんのお兄さん!
それも呆れた顔でーー。
「それとも、こんなところで野宿する気なの?」
僕は案の定、灰鬼さんの首元でピキッと硬直していた。
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