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39. せっかちな運転手
「お、お兄さん……」
「……」
「そんなさ、何でいるんだって威嚇しないでよ、心配して戻って来たのにな。ってかホントその子猫くんには懐いちゃってまぁ……おにいさん悔しいなぁ」
ピンクの髪のお兄さんは、道端でしゃがんで顔を両手で覆ってしまった。
「あ、あの……」
僕は灰鬼さんとお兄さんを交互に見ながらもどうしようと考えていた。灰鬼さんはまったく気にそぶりも無くて、返事もなく僕を抱き締める力は緩めなくて……。
そんな時、またまた路地に人が現れて、走っていたようでその路をおにいさんが塞いでいるので急に止まった。
「朋さん、邪魔ですよそんな座り込んで!早く来て下さい!駐車違反の切符切られそうですーー!!」
泣きマネだったのかクルッと声の人に振り向くお兄さんは、「あ、そっか!」と言ってスクッと立ち上がった。その人と知り合いなのかのように話してる。
「あのね、帰る途中にソコで陵くんを見かけて声かけたんだ。運転変わってくれそうだし車ソコだから早くおいでよ! 野宿は子猫くんが可哀そうだよー」
「誰が野宿するんだよ」
ボソッと呟いた灰鬼さんの声がディスボイスだった。兄弟なのに仲が悪いのかな……。
駐車違反の切符ってヤバいんじゃ……えっと、灰鬼さんが動かないとおにいさんも動かないみたいで、それでもう一人の男の人が困ってる……。
「灰鬼さん……あの、そ、そう言ってるから……行った方が……と、思います」
「……俺の家?」
……ん?
「はーやーくー!!」
「もう陵くん、せっかちだなー。仕事関係でもこんなの良くあるはずなんだけどー?」
「来い」
「えっ ぼ、僕?」
「おれは仕事だからって、こんなところでは路駐はしませんよ」
「またまたー、そういえばこの前可愛い女の子を乗せてたよねぇ」
「仕事ですからね。……ッ!来ないなら出ますよっ」
なんだか同時の会話で聞こえなかったけど、おにいさんの方のもう一人がめっちゃ早いスピードで走って行った。
「う…あ……っ」
それに、僕の腕をおにいさんが急に引っ張って、「ごめん。子猫くん人質ね!」
おにいさんと走らされた。
「てめ……」
ディスボイスの灰鬼さんが後ろから追いかけて来てる。
おにいさんも走るのが早いんですけど……!!
路地から出ると200メートルくらい先に路駐してる車に真っすぐ突進していった。
そして、さっき乗った車の後部座席に慌てて乗せられたけど、灰鬼さんも滑り込みで前の方に乗れたようだった。
タイヤをキュルキュル、キーって鳴らしながら車を急発進して、僕の体は少し浮いた。
なんだかめちゃくちゃ、ㇲ、スリルだった……。
運転してる人は真面目でスッキリとした顔の人なのに……運転が怖い。
後部座席にはトラさんが移動していて、さっきはなかったと思うカメラが半分覗かせたバッグを踏みつけて座っていた。トラさんとお兄さんに挟まれてめっちゃ狭い……。
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