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40. 懐かせてみたい狼
み、道が悪いのかな、それとも機嫌を悪くしているのかな……車内では体が左右に傾いて何かに掴まっていないと体が投げ出されそうになったけど、傍にいるトラさんがクッションになってくれてどうにか座ったままの状態でいることが出来た。
始終、グルル…ってトラさんの絞り出すような唸り声が聞こえていたけど、僕には手で撫でて少しでも気持ちを落ち着かせることを祈ってた。
「陵くんに運転させちゃうのは誤ったかなぁ」
マンションの駐車場に入ると、車から出てよろけながらも頭を抱えて天を見つめながらそうつぶやく灰鬼さんのお兄さんは頭部をぶつけたようだった。
「すみません、前方で走っていた車…GTRを見たら昔の血騒いじゃって」
ぺこぺこと謝って運転席から降りてきた穏やかな……真面目って言ってもいいくらいの人なのに、あの凄まじい運転をしてるような人には到底みえないのだけど。
「暴走族。走り屋、彗星のリョウ?」
ぽつりとつぶやいた灰鬼さんは、特に変わったところも無くて普通だった。
「いやいや、その名前はもう~」
ぼ、ぼぼぼぼ暴走族!?
「そうだよね、高1の無免許でクルマ走らせてたもんね……でも今はプロのフリーカメラマンなんだから気を付けないと、オレでも庇えきれないよ。そうそうハイキもねー…あ、どこ行くの!?」
灰鬼さんが僕の腕を取るとスタスタと歩き出した。後ろをトラさんが付いてくる。
駐輪所だとわかると灰鬼さんの黒のバイクに辿り着いてポスッとヘルメットを手渡された。
「……マリ、戻ってろ」
足元で長い尻尾を動かして灰鬼さんの方向をじーっと僕にはまるで関心が無いように灰鬼さんだけを見つめている。トラさんは灰鬼さんに懐いてるようで言葉がわかったのか一度振り向きながら、灰鬼さんのお兄さんの所へ戻って行った。
「あれ? 車であの少年を送る予定だったんじゃないですか」
「懐かない狼だったのだけど……ウチのオトウトは」
「毛色は違うけど懐いてますね、少年に」
「うん驚いたよ。もっと詳しく知りたいのになぁ」
「……“おれたち”のようなパートナーになったら面白いですよね」
灰鬼さんのバイクに跨る時にふと見えたお兄さんたちの二人とトラさんが、マンションのエントランスに入って行った。
「帰したくない」
発進する直前に、言葉を紡がれたけどエンジン音と一緒に掻き消された。
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