45. 嫉妬なんかして

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45. 嫉妬なんかして

 カチャっと浴室の内ドアが開くと香奈ちゃんの腕が見えて、絶体絶命に駆られた僕は灰鬼さんに捕らわれていた腕や腰を、17年生きてきてから今迄で一番の力で跳ねのけて、浴槽のお湯に顔から身を沈めた。  ブクブクと大きくて細かな泡が浮き立っていくーー * * * 「――た」    う……っ 「央汰(ひろた)」  重たかった瞼がパチッと開くと目の前には灰鬼さんの顔があって、胸を押されていることに気が付いた。 「……はい、きさん……?」  そうだった、僕は浴槽に体を屈めて入る時にツルって足が滑ってちょっと溺れたようで、少し意識が朦朧としてたみたい。  灰鬼さんの腕が顔に寄せてきて触れられるのかと思ったら拳を握られてぐっーって感じで頬を押っ付けられた。力は入ってないから痛くないけど……もしかして、殴りたいくらい怒ってるのかな……。  僕は裸ではなくてスエットに着替えてて、目の前の灰鬼さんは浴衣を着ていた。藍色で笹と亀の古典柄の模様……きっとじいちゃんのだ。でも、似合ってるしなんだか違った感じの灰鬼さん見える。  ぼ、ぼーっとしてられないよ、えっと……首を動かして周囲を見渡せば既に僕の部屋で、布団に寝かされていた。 「あ……僕、溺れた見たいで……た、助けてくれたんですよね?」 「……」  灰鬼さんが話してくれない……。  眉間に皺を寄せてるのでやっぱり怒らせれてしまったんだ。いろいろ言い訳はあるけども……浴室から力の入ってない僕を部屋まで担いでくれたんだと思うと、情けないし申し訳なかったって思う……。 「……灰鬼さん…あの、ごめんなさい」  灰鬼さんの腕がスッと伸びてきて脇に差して上体を起こしたので吃驚したら、僕の肩に顔を埋めた。  そして、優しく包み込むように抱きしめられた。  僕はまだ体に力が入らなくて腕が宙ぶらりんでぶら下がっていたけど、灰鬼さんは怒ってるんじゃなくて、僕を心配してたんだとわかったのは、 「ーーなんかして……危ない目に合わせたのは、俺だ」  呼んでも起きないしめっちゃ青い顔だった。って掠れるような声で絞るようにつぶやいたから。
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