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50. 立ち止まりたくない
灰鬼さんに着いて行くと、やっぱりと言うか屋上に足を踏み入れることになってしまって、でも僕の足はドア付近で躊躇して立ち止まった。腕を引かれてるのでピーンと伸びた腕に灰鬼さんは振り向く。
「あ、あの屋上は……僕は平凡クラスだから……」
平凡クラスの掟の一つで屋上は立ち入り禁止の領域。考えなくても屋上は不良クラスの溜り場なのだから……それも幹部とか強い不良が集まってるって聞いてる。
少し首を傾けた灰鬼さんだけど、首を振って怖気ついている僕の腕を躊躇なく引くので尻込みしながらドアにしがみ付いて「入れないです」と伝えた。
「……なんで?」
そ、そうだ、灰鬼さんだって知っていると思うんだけど……誰一人平凡クラスの生徒は立ち入り禁止なはずだから……!
「…ダメで…掟だから」
前に昂ちゃんが氷室くんを探しに入ったのは……あれだけは特別だったようだけど。
「うわわっ!?」
腕を離されて、僕の体がふわりと浮いた。
「めんどくせ。いいんだよ」
うあああああ……!お、おおお屋上に入ってしまった、それも、灰鬼さんに抱えられてる~~~!?
「うるせぇこと言ってきたら俺がソイツら……×スから」
「……そ、それはっ」
朝にも関わらず、屋上には不良クラスの生徒が数人でたむろしていて、ギラギラって視線で僕……灰鬼さんを見てる。僕は異物?ゴミ??とかって感じだよね……。
(誰だアイツって聞こえる)
ヤバい状況だってわかってるし、今は灰鬼さんを凝視して様子を伺ってるんだ。今の灰鬼さんの姿では黒総長だってわからないんだと思うけど、正体に気が付いたとしてもまったく平和にならない気がする。
ビシビシと刺さる視線が辛いので灰鬼んさんの胸に当たる制服に顔を埋めた。
灰鬼さんはこんな状況でも平然として目的のところまでひたすら歩く。
屋上は広いけど奥の方に凹凸の屋根があってその奥の方に向かうようだった。その間をちょっとの屋根を飛び越えて飛ぶ!……ところだったけど、後方から不良たちが迫ってきて声を掛けた。
「おいてめぇ、何年の誰だ?堂々と通過しやがってよ。凡クラ連れて奥で夜露四苦しちゃうってどうゆ~ご身分だ?あ″?」
ど、どうしよう…ちょっとガラの悪い不良が、き、来た!!!!
さっき、灰鬼さんは『うるせぇこと言ってきたら俺がソイツら……』
なんて低い声で言っていたけど、実行はしないよね!?
「鶉先輩たち、ここに居たんスか?」
僕たちの方に大きな声が響いて、絡んできた不良を呼んでるようだった。
「あぁ?てめ、九条かよ。つかてめーもノコノコ入ってくんじゃねぇよ」
「すんません。つかナンか水沢さんって人がガッコ来てるから先輩ら探して来いって言われたっスけどー」
「あ?今なんつったよ」
「水沢? おいマジかよ。アイツ店番してんじゃねーのかよ」
今まで灰鬼さんを睨んでいた二人組の不良は、呼びに来た不良によって興味がなくなったように走って行ってしまった。
呼びに来た不良にジッと見られて気付いたのだけど、この前パンをもらった不良組1年生のクジョー…くんって人だとわかったけど、不良たちの後を追わないで何故かその場で立ち止まるとポケットから煙草の箱を出したのが見えた。
「え……まさか、ハイキさんっスか?」
その声が聞こえたはずだけど、灰鬼さんは再び歩き始めると僕を抱えたまま段差のある屋根を軽く飛び越した。
悲鳴を漏らさないうちに向こう側の屋根に飛び乗ってしまった。
クジョーくんの姿は遠くなった。
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