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歯がジンジンする……。
小学生の時、椅子に顔をぶつけて歯に当たった時の痛さを思い出した。
「灰鬼、べろちゅーしてやれよ、腰抜かすぜソイツ」
ジンジンする歯並びに涙目になったけど、すぱっと唇がすぐに離れた。
僕のファーストキスが……悲惨に終わった。
「ヤチさっきから煩い……貴様、ピーをピーしてピーを串焼きにしてピーしてやる」
「ハッ 容赦ねぇ。キン●しゃぶられんならカオルがイイな、アイツうめぇしやっぱ」
「八知、灰鬼はてめぇの●に、キン●を串焼きにして刺してやるって言ってんだよ」
い、今のは聞かなかった事にしよう……大丈夫だ、ここでは良くある不良たちのブラックジョークだから……。
灰鬼さんは、僕の腰に腕を回して歩幅がまったく合わない足取りで僕を誘導する。
「あ、あの、授業あるんですけど……」
午後からの授業はテストもあるし、放課後の清掃や今日は生徒会の集まりもある。
「……」
無言で、それもしばらくジト目で見られてる。
で、で、でも、ここで観念して着いて行くことなんて出来ない。
いきなり僕が教室からいなくなったらちょっと大騒ぎすると思うし、今はそういう日常になったんだ。
平凡でも勇気を持てと……言われたし!
「わかった……今は、解放する」
「は、はいっ」
良かった……!黒の総長であっても話が通じる人で良かった。
「今度はお前に嵌める鎖を持ってくるから」
んん?
学ランのズボンを細めに改造してチャラリと鎖を繋ぐ脇に手を入れながらくるっと踵を返すと、二人の不良も後に続いて校庭を抜けて校舎前に向かって行った。
校舎の中には入らないでバイク置き場に向かって行く。
僕の目の前には食い散らかされた雑草……クローバーが無残。
夢見ていたはずのキスの感触は歯の当たった痛さと切なさとあとは……微かにミントの味がした。
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