281人が本棚に入れています
本棚に追加
怖い。ただただ怖い。これから何をされるのか、どんなことが起こるのか、先のことが分からなくて、ただただ怖い。
「……そうか」
何かされるのではないかと身体を震わせた私は、たったその一言で会話を終わらせたことに呆気にとられる。
男性は窓の外を眺める。しばらくの静寂が続いた後、私はまた、勇気を出して話し掛けた。
「……あなたは、私をどうするんですか? ……殺す……んですか?」
“殺す”という単語を口にした時、恐怖で声が震える。男性は真っ黒な右目をこちらに向け、私に問うた。
「……何故?」
「……え?」
「……何故、俺は篠原(しのはら)さんを殺さなければならない? 殺さなければならない理由が、どこにある?」
……この人は……私を殺すつもりでこんなことをしたんじゃない……のだろうか。それはそれで安心せざる得ないのだけれど、今……彼はなんて言った?
“篠原さん”、と……“私の苗字”を……口にした?
「どうして、私の苗字を……?」
私がたまたまあの道を歩いていたから狙われ、誘拐したわけではなく、以前から私のことを知っていて……それで誘拐をしたの?
ということは、やっぱり彼は私のストーカーなのだろうか……?
「……俺は篠原さんのことなら、大抵のことは知っている。……すべて、調べてきた」
「調べてきた……って、そんな。私のこと、どれくらい知って……」
彼は1度だけ目を伏せ、そして再びこちらを見た。
最初のコメントを投稿しよう!