第五節 第三の計画『邪魔』

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20分前。 池畑が村上のいる取調室に入り、取り調べをしていた杉田と話をすると、杉田は霧生を連れて取調室から出ていった。池畑は、兼原に頭を軽く下げると、杉田が座っていた村上の対面に腰掛けた。 村上は池畑の顔を見るなり、視線を逸らした。 「…そんな顔すんじゃねぇよ。俺はお前を救いに来たんだ。」 池畑の言葉に、村上は目を丸くした。兼原も怪訝そうな表情で立ち上がり、2人に近付いた。 「池畑、今のはどういう意味だ。」 「…現場にこれが落ちてました。」 池畑は、利一が握っていたライターが入った袋を出した。 「…これは、早乙女と豊崎の事件の時と同じライターか?」 兼原は袋を手に取りまじまじと見た。 「恐らくは。…これがあったのはリビングでした。状況から判断して、村上が家に上がってライターを置くタイミングは無いかと。」 「…村上くんじゃなくても、共犯者がやったかもしれん。」 「それは、目撃者に聞きましょう。」 「…目撃者?」 村上は池畑の目をじっと見ながら呟いた。すると、池畑はスマホを取り出し電話を掛けた。 「…俺だ。彼を通してくれ。」 池畑が電話を切ると、ノック音がしてからドアが開き、女性警官が利一の手を引いて取調室に入ってきた。 村上は立ち上がって、利一を見つめた。 「…池畑、この子どもは誰だ?」 「なんだ、村上も知らなかったのか。崎村係長の養子の利一くんだ。」 「養子?…初めて聞いた。」 驚いている村上を差し置いて、兼原は立ち上がって利一に近付き頭を撫でながら池畑に質問した。 「池畑、この子どもが目撃者ってのはどういうことなんだ?」 「利一くんは、リビングに隠れて犯人を見たそうです。そして、そのライターを持っていたのも利一くんでした。」 池畑が机に置いてあるライターを指差しながら言った。そして、利一の前で屈んで利一の目を見ながら優しく問い掛けた。 「利一くんは、お家で変な人を見たんだよね?」 「うん、見たよ。」 「利一くんはどこに隠れてたの?」 「知らない人がいたから椅子の下に隠れたの。」 「椅子…ソファーのことかな。変な人は何人いたの?」 「…うーんと…。」 利一は考えながら指を曲げたり伸ばしたりして、数を調整し池畑に見せた。村上と兼原も近付いてその指に注目した。 「「「4人。」」」 3人は同じタイミングで呟いた。すっかり村上が自分たちと同じ立ち位置にいることに気が付いた兼原は怪訝な表情をして、椅子に座るように指示をし、村上は大人しく従った。 池畑は、兼原の態度に納得いかなかったが、我慢して利一への質問を続けた。 「…利一くん、今あそこに座っている男の人はその中にいたかい?」 利一は、池畑が指差す方に視線を向け、村上の顔をじっと見つめた。村上も、微笑むこともせずに、利一の目をじっと見つめた。 「…利一くん、どうかな?」 利一は、しばらく考えてからゆっくりと首を横に振った。 「ちがぁう。」 池畑はニヤリと笑った。すると、兼原は興奮した様子で立ち上がり、池畑に向かって怒号を上げた。 「池畑!この子の発言が何の証拠になる!村上もその4人の仲間かもしれない疑念は消えないじゃないか!!」 すると、屈んでいた池畑はスッと立ち上がり、兼原の目をじっと見ながら冷静に答えた。 「現状を俯瞰して見れば、村上刑事がその4人にハメられたと考える方が自然ですよ。仮に村上が犯人グループの一員だとしたら、過去の事件との繋がりはどう説明するんですか?これ以上、村上と崎村さんを拘束するには、それなりの証拠が必要だと自分は思いますが。統括は、利一くんが見た4人と村上が繋がる証拠を何か少しでもお持ちですか?」 一切視線を逸らさずに問い掛ける池畑に対し、兼原はフンッと苛ついた様子で取調室から出ていった。 池畑は、緊張の糸が解けて大きな溜め息をつきながら椅子に座った。村上は、立ち上がって池畑に深く頭を下げた。 「ありがとう、池畑。」 「ふん、俺にも兼原統括が引き下がる確証なんて無かったよ。…利一くんのおかげだよ。な、ありがとうな。」 池畑は微笑みながら利一の頭を優しく撫でた。
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