第五節 第三の計画『邪魔』

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ー 小田原警察署 ー 40分後。取調室1では村上を池畑、兼原が、取調室2では崎村を霧生、杉田がそれぞれ取り調べを行っていた。 崎村は、何故自分が取り調べを受ける立場にいるのか理解して今ここにいるわけではなかった。物事を何も考えられない状況であり、自宅に着いて利一を抱き締めてからすぐ、言われるがまま署に呼び戻されたのだ。利一は、署内の女性警官が面倒をみていた。 取り調べが始まってから3分が経った。その間、霧生がずっと経緯を話しているが、崎村の頭には何も入ってこず、ずっと黙ってうつ向いていた。 「…崎村さん?話聞いてますか?」 崎村はゆっくり頭を上げたが、じっと霧生の目を見たままで何も答えなかった。すると、今まで黙って後方に座っていた杉田がしびれを切らして立ち上がり、崎村の頭をガッと掴んだ。 「崎村!!シャキッとしろ!!」 「杉田課長!乱暴はダメです!」 杉田はゆっくり崎村の頭から手を離した。 「…崎村、しっかり答えて疑いを晴らしてくれ!今、村上とお前が共謀してお前の旦那を殺した容疑が掛けられてるんだぞ。」 初めて聞く杉田の涙ぐむ声で、崎村はハッと我に返った気持ちになり、今の杉田の言葉の意味を漸く理解した。 「…な、何で私が村上くんと共謀して旦那を殺さなくてはならないの?」 すると、霧生は先ほど村上にも見せた2人がホテルから出てきた場面の写真の画像を見せた。 「これは、あなたの旦那さんの机の中に入ってた写真。現場の小松くんから送られてきたの。この写真、身に覚えは?」 崎村は画像を凝視して確認したが、当然身に覚えなど無く、首を横に振った。 「私が村上くんと不倫関係にあったって言いたいの?冗談でしょ?」 「…なら、この写真はどう説明するのかしら?」 「こんなの合成よ。私と村上くんがたまたま2人でいたところを撮って背景を弄ったんでしょ。…神に誓って、私と村上くんは潔白な関係よ。」 「…そう。なら質問を変えましょうか。あなた携帯を失くしたと言っていたみたいだけど。」 「えぇ、ずっと行方不明よ。」 「村上さんは、あなたの番号から電話があって、その内容をきっかけにあなたの自宅に言ったと言ってたの。」 「なら、尚更私じゃないわね。私の手元には携帯無いんだから。犯人に盗まれ…」 トンッと霧生はあるスマホを机に置いた。崎村はそのスマホを手に取った。 「…これ、私の携帯。」 「あなたが今持っていた鞄に入ってたわよ。」 「…え?」 崎村は固まった。杉田も顔色を更に悪くし、ゆっくり席に戻って腰を下ろした。 「崎村さん、もう嘘を付いても仕方ないわ。1つでも矛盾が見付かれば、その綻びから傷はどんどん広がっていく。…村上さんは、あなたからの着信を合図に犯行に及んだ、違うかしら?」 崎村は何故か追い詰められている今の状況を打破する言葉が見付からなかった。考えれば考えるほど、胸が苦しくなり、呼吸も荒くなっていた。 「…霧生さん、一度休憩しよう。」 崎村の様子を心配した杉田がそう言うと、霧生は立ち上がって取調室から出ていった。崎村の頬には涙が伝っていた。
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