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stage6:君しかいない
二人はリビングに戻ると、駆はダイニングキッチンから椅子を2つ持ってきて大都会の夜景を見下ろせるテラスに並べた。
「綺麗。。スカイツリーとか行かなくても毎日、こんな夜景を見れるなんて。。やっぱ違う世界だなぁ‼」
広美は夜景に感激しながら呟いた。
「そろそろちゃんと互いの話をしょうか。。」
駆は真剣な表情で呟いた。
「広美さんは、俺のことを遠い人だと思ってる。それは当然だと思う。少しでも俺に近づいてもらいたくて今日、来てもらった。」
「嬉しいよ、楽しかった。。」
「ぶっちゃけちゃうけど今までの女性たちはこけしルーム見たら、皆、逃げた。ココで振られる。理解してくれたのは広美さんが初めてなんだ。コレまで見せるのは本命と思う人だけだから。。」
「でもね、カケさん。。私とは、やはりいるところが違い過ぎるよ。。アイドルと下町のOLなんて釣り合うわけがない。。カケさんには黙っていたって女性がいくらでも寄って来るでしょ?」
「。。正直いくらでも来るよ。タレント、女優、モデル、女子アナ、外ならCAさんとか。。それはアイドル羽沢駆に寄ってきているだけ。もう俺は彼女らを、相手にはしない。」
「だけど‼。。私なんかじゃなくても」
「広美さんは飾らない、取り繕うとしない。アイドルとして見せたくない俺の素顔を見ても動じなくて自然でいてくれた。俺がアイドルだって分かっても変わらない。そんな女性に初めて出逢って。。俺はもう広美さんに惹かれてしまっている。」
…私になんて惹かれるって。。何で?
アイドルって知った時は、ぶったまげて狂いそうになったよ…
「。。信じられないよ、そんなの」
「アイドル羽沢駆だから、こうで当たり前、こうしてくれて当たり前という女性はお遊びはしたとしても本命には出来ない。だから恥ずかしいけど俺自身が自然体丸出し過ぎて、実は振られてばっかだよ。
だから自然体の俺と自然体の広美さんは全然釣り合う。」
「。。。ゴメン、それっていい気になってるとしか思えないかも?」
「広美さん。。?」
「女子は、アイドル羽沢駆を求めて当然だよ‼私だってアイドルに興味があったり女優とかだったら多分一緒だよ?アイドルならアイドルらしくしてなきゃ、そりゃ幻滅されるよ‼」
広美は何故かムキになってしまった。
…アイドルに素人さんがお説教
俺に真っ直ぐに何でも言ってくる‼
尚、いいねぇ‼ますます惚れちまうよっ…
「じゃあ、田沢広美さんはどっちの羽沢駆を求める?実はアイドルの俺なわけはないよね?アイドルの俺は遠いから無理だって言ってるもんね?」
「私は。。。」
広美は言葉を詰まらせた。
「これは俺の生き方なんだ。アイドル羽沢駆は芸能界で生きていくための自分。そして今、ここにいる自分は一人の野郎として普通に生きていくための本当の羽沢駆。」
…言いたいことは充分分かったよ。。
でも現実は違うんだよね…
「こないだも言ったけど奇跡と思うなら俺たちのこの出逢い、大事にした方がいい。俺だってローカル線の中で広美さんに出逢ったのは奇跡だと思うから大事にしたい。」
…私に出逢ったのが奇跡って…
「俺が、日原さんと接点がなければアノ、ローカル線に乗ることは絶対にない。
そしてあの日、伯父さんの御不幸がなければ、アノ、ローカル線には広美さんは乗っていない。そう思わないかな?」
「カケさんに奇跡的にこうして出逢えて夢みたいだよ。憧れのアイドルという方とこんな風に一緒にいれて嬉しいよ。
だけど。。こんな私じゃなくても同じように分かってくれる女性とこの先出逢えるよ!
ちゃんと見合う人、絶対いるって」
「確かに一般人の広美さんには時にはイヤな思いをさせるかも知れない。でも俺にはもう君しかいない。出来る限り広美さんを守って乗り越えていきたいんだ。ソレだけは云っておくよ。」
「ありがとう。。この奇跡とカケさんのその気持ち一生の宝物にする。。でもお付き合いは。。私にはやっぱ無理だよ。。」
「いいよ。分かった。今、無理に応えてくれなくていい。でもせめてものLINEは繋がっておきたいな。
俺、広美さんのこと時間掛かっても爺ちゃんになってでも待っている。」
…待っているって。。。…
広美は自宅に帰ってから、ひたすら茫然としていた。
…私だって。。ステージの上じゃない
ブラウン管の向こうじゃない
羽沢駆にとうに惹かれているんだ。。
羽沢駆の思いに。。ホントは何も考えずに素直に飛び込みたいよ‼
でも。。男は、コリゴリ。。もう傷つきたくないよ。。どうしたらいいの?
ましてや羽沢駆は、皆の憧れ
手に届かない世界にいる人。
こんな私が迷惑かけちゃダメ。
だから。。やはりすべて奇跡の良い思い出にするのが一番だよ。…
広美の頬に涙が溢れた。。
それから駆からのLINEは、
一言のことわざだけが来るようになった。
駆なりの考えたアプローチ
KACE:案ずるより産むが易しだよ:
:袖振り合うも他生の縁だね:
:雲の上はいつも晴れだった:
:思い立ったが吉日じゃん:
…言いたいことは充分、分かるけど。。
ゴメンね…
広美は既読スルーを続けた。
…男の気持ちは100%から始まる。
モノにしたい最初だけ。。
そして100% だったテンションは緩やかに
下がってゆく。。男は、そんなもの
数少ない恋愛経験でも、それは勉強して身に染みた。
どうか私のことは忘れて。。
突き放していけば。。アイドル羽沢駆は私のことなんてスグに忘れていくと思う。
だって違う世界にいる人なんだから…
やがて駆からのことわざLINE、連絡は、途絶えた。
…これでヨカッタんだよね…
広美は切なくても辛くても言い聴かせていくしかなかった。
二股破棄された時よりは少しだけマシ。。
私、強くなったのかな…
月日は流れて。。
ある日、ほほえみ不動産勤務中、
社長の息子、裕貴が
「広美ちゃん‼昨日新しいラーメン屋がオープンしたんだよね。不動産屋としちゃ地元情報知らなきゃならないし、たまには一緒に昼飯行かない?」誘ってきた。
「あぁ、前、呑み屋だったとこだよね‼有名店の暖簾分けらしいよ‼行こっか‼」
社長の息子、裕貴は既に妻帯者だけど短大時代の友人で、商社を退職して転職に戸惑っていた広美を救ってくれた恩人だ。
だからこの不動産会社で働けることになった。
開店したばかりのラーメン屋はやはり行列が出来ていて待った挙げ句やっと店内に入れた。
店内にテレビが設置されていた。
間もなく午後2時、チャンネルは昼のロングセラートーク番組、大御所タレントがゲストと、トークする『鉄子の部屋』が、
始まるところだった。
『皆さん、コンニチワ‼本日のゲストは国民的トップアイドルグループ、ハリケーンの、羽沢駆さんで~す‼どうぞ~いらっしゃ~い‼』
広美、すすり始めたラーメンを吐き出しそうになり噎せる。
「広美ちゃん、大丈夫すか?」
「。。ゴメン!ダイジョウブ、ゴホッ‼」
『羽沢駆です‼鉄子さん、お久しぶりですね‼』
『2年振りくらいかしらね?
アータ、もう35歳になられたのねぇ、
早いわねぇ‼でも相変わらず爽やか好青年、素晴らしい活躍でいらっしゃってねぇ‼』
…私。。この人と。。一瞬の奇跡のご縁があったんだよね。。家まで行っちゃって。。やっぱ夢みたい…
ブラウン管の向こうの羽沢駆を見つめていた。
『最近、ジ二ーズのコたち年齢的にも電撃結婚発表するようになったじゃない?
駆君はその辺どうなの?』
『いや~、なかなか難しいですねぇ』
『どんな女性がお好みなんだっけ?』
『取り繕ったり、飾ったりしない自然体の方がいいですね‼』
『アラ!アータ、大人になったわねぇ!やはり変わるのねぇ、で?どんなお顔がお好みなの?』
『。。変ですけど、こけしみたいな顔の人ですね‼好きですねぇ。。』
『アータ?何?こけしって、面白いことおっしゃるのねぇ?初めて聴いたわよ‼』
鉄子は笑いが止まらない。
『で、カレーライスとか上手に作ってくれたら最高です‼』
…わ、わ、わ-----っ私か?…広美
『そういう女性をお嫁さんにしたいのね、でもアータ、やはりこけしは可笑しいわよ‼
よく分からないわ‼』
…やっぱこのコって、変わったコよね…鉄子
『何か、落ち着くんですよ‼あ、あと歳上の方が理想です。安心感があるというか』
『カレーライス、皆、大好きですもんね‼
ファンの皆さ~ん‼カケルさん好みのカレーライス作れるようガンバってみましょ~‼』
さすが‼大御所‼ナイスフォロ~
そして話題を変えた。
広美の箸は止まったままだった。
ラーメン伸びるよ~~
その日の晩、広美は覚悟を決めた。
…羽沢駆は。。私に本気なんだ。。
私を忘れないでいる。。
こんな平凡過ぎる私をどうしてそんなに。。
もう、いい‼
どうなってもいい‼
私だって。。カケさんが堪らなく好き。。
になってしまっていた。。
素直になって。。
貴方と行けるとこまで行くよ。。
いいよね?カケさん。。
奇跡を信じていいんだよね?…
タワーズマンション2001号室のドアが開いた。運良く帰っていた駆が出てきた。
「。。広美さん?」
「もうっ!テレビで言っちゃダメだよっ‼
こけしなんて可笑しいよっ‼超シークレットでしょうが⁉」
広美は顔を真っ赤にしていた。
「鉄子。。見てくれたんだ?」
「たまたま、見ちゃっただけっ」
「たまたま、見てくれてヨカッタ。。」
「電波使ってアイドルがあんなこと言っちゃダメだよ‼」
「誰にも分からないって」
「。。私には分かっちゃったんだもの‼」
「分かってくれたんだ。。」
「カレーライスなんて言うんだもん。。」
「。。歳上も言っちゃったんだけどね」
暫く沈黙。。。
「カケさん。。まだ遅くないよね?」
「ん?」
「私。。今さらだけど。。この奇跡を大事にしたい‼」
広美は駆を真剣に見つめた。
「広美さん。。」
駆は一瞬驚いた表情をした。
「奇跡を信じたい。。カケさんと。。」
「広美さん。。奇跡は、変わってないから」
「。。えっ?」
やがて広美を優しく見つめて
「待っていたよ。。。」と呟いた。
「。。待たせてゴメンね」
広美は、はにかんでうつ向いた。
「色々辛い思いもさせてしまうけど、二人で一緒にこの奇跡を大事にしていこ。。」
駆はそっと広美の頭を撫でた。
広美はうつ向いたまま頷いた。
「広美さん。。抱きしめて。。いいよね?」
「。。抱きしめて欲しいよ」
広美はふと駆の胸の中に飛び込んだ。
駆は、広美の身体を強く抱きしめた。
「広美さん、俺には君しかいない。。来てくれて。。本当にありがとう。。ありがとう」
ついにデキちゃった‼おめでと-‼
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