王国戦争編

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「貴様が専属商人を返すというのならば、兵を呼ばないでやろう。さあ、どうするのだ?」 私は、はあ、とため息をついて口を開いた。 「返すとか返さないとか、そういうんじゃないでしょ。ミョウンさん自身があんたじゃなく私を選んだ、それだけのことでしょ?」 「な!?」 いや、そこ驚く? 私、当たり前のことを言ってるだけだと思うんだけど。 「ふん…やはり、身を以て知らねばガキは分からぬようじゃ。兵に連絡を」 「それ無駄だと思うよ」 私がそう言うと、国王はフンと鼻で笑った。 「脅しなど効かぬぞ?今に、この地に余の国の大軍が押し寄せるであろう」 いやだからさ、その呼ぶ対象である兵がもういないんだって」 すると、国王と近衛が大笑いし始めた。 「実際の数を知らぬから言えるのだ。いや、二万ですらもガキには荷が重すぎるわ!」 …やっぱコイツら、アホすぎる。 自分の兵の状況を、勝利を確信しているがために把握しないなんて…。 「別に呼んでもいいけどさ、私知らないからね?」 「ふん。伝令!」 国王の命令で、大きな鳥に乗った一人の兵が飛び立った。 「さて、余は少し離れたところで見物するとしようかの」 国王が背を向ける。 国王の目の前に魔法撃って、ビビらせてみるか。 「火魔法、フレアス…」 「光魔法、爆陽!!」  ドォンッ!! 「ひ、ひぎゃああぁあ!!」 国王の前のひなたが爆ぜ、国王が驚いて尻餅をついて後退る。 私は後ろを振り向いた。 「主君に無礼をはたらく者は、誰であろうと許しません!」 そこには、白い髪の美少年が立っていた。 「リヒト!」 私は思わず、怒りを忘れて笑顔になった。 「毒は治ったの?」 「はい!心配をおかけしてすみません…」 「リヒトが元気になったのならそれでよし!」 よかった。 薬、効いたんだ。 私が作った薬は、カーリュの木の葉の粉と雲石を混ぜた薬、つまり、クインダライズラズの毒の特効薬だ。 ジュリアさんに感謝だ。 「なんだと?」 喜びをかみしめていると、国王の声が耳に入ってきた。 「そ、そんな!あの大蜘蛛の毒が解毒さ」 「今お前の声は聞きたくない。黙れ」 きっと睨むと、近衛兵たちが殺気立った。 「こ、国王になんと無礼な!」 「使い魔頼りのガキが!」 「調子に乗――」 「うるさいって」 私は近衛たちに向かって魔力多めで風魔法・ストリームを放った。     ッゴォオッッ!! 風とは思えないほどの轟音。 風が兵士たちを次々に切り裂き、余ったエネルギーが海面を抉った。     ド―――ッバァンッ!! 風によって上空で波打った海水が、一拍遅れて海に落ち、大量の飛沫を上げた。 勢いの余波で波が大きく波打つ。 兵や国王が乗ってきていた船は、もう影も形もなかった。 国王と、八名残った兵士たちが絶句して私を見る。 「に…人間の、魔力じゃない…」 「し、C+ランクの魔物に相当するぞ…」 そんなことはどうでもいい。 私は近衛兵を消したかっただけだ。 「流石は主君です!」 「やっぱり主は…ん?」 ケイトが上空を見上げて目を細めた。 何かいるのかな? 「どうかした?」 「カイリュウが」 「え?」 ケイトの視線を追って、空を見ると、 「きゅい、きゅいーっ!」 「キミラ?」 キミラが焦るように飛んできていた。 背に乗っているのは、 「カイリュウ!」 しまった、ザラドとカイリュウのこと忘れてた!
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