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私達家族が個室へ帰ろうとすると、食堂の方からピアノの音が聞こえてきた。
食堂へ行ってみると、薄い赤色のドレスを着た女性がピアノを弾いていた。
わ-、なつかしい。
私も前世では趣味でピアノを耳コピしてたからな(ほぼ主音だけだけど!)
どうやらそのピアノは、ストリートピアノのように誰でも弾いていいようだ。
今ひいていた女性が演奏を終え、拍手が起こる。
その女性のあとは、誰もイスに座らない。
チャンス!
「あの、ひいてもいいですか?」
母上に聞いてみると、にっこり笑ってうなずいてくれた。
久しぶり、久しぶり。
身長が若干たりなかったので、ピアノの椅子にとびのる。
ふむ、大分久しぶりだけど、まだひけるだろうか?
えーと、まずはあの王道(?)というか、私が初めて両手でひけるようになった曲から。
ねこふんじゃったー、ねこふんじゃったー、ねこふんずけちゃったらないちゃったー。
…はい、有名ですね。
とりあえずゆっくりひいてみる。
「お嬢さん、ピアノが上手だねえ」
近くのテーブルでコーヒーを飲んでいた六十才くらいの男性がそう言ってくれる。
さて、ゆっくりじゃおもしろくないので、どんどんスピードアップさせていく。
私がよく前世でやっていた。
適当でもいいからどこまで速く弾けるかチャレンジ!みたいな。
どんどん速く。もっと速く。
この疾走感がたまらない。
ねこふんじゃったねこふんじゃったねこふんずけちゃったらないちゃった…
あは、もう自分でも何を弾いてるのか全然分からないや。
これがピアノの正規の楽しみ方じゃないのは分かってるんだけど、やめられないのです。
ふー、指が疲れたからやめよう。
と、さっきピアノが上手だねーとほめてくれた男性が目を輝かせて私にかけより、私の手をがしっとつかんだ。
え、何?
何このオジサン。
あれ年で言えばオジイサン?
もうわからんわ、ワッツ?
「あなたぜひ、ミルバの学園にいらっしゃってください!」
…はぁ?
「お名前はっ⁉」
「…ソルレーナ・フォン・ナトゥアです」
「ナトゥア家…ナトゥア家か…いや」
オジイサンが名刺を取り出し、私に渡してきたので受け取ろうとすると、横からスッと手がのび、名刺をさらっていった。
あ、ゼルク兄様。
「学園長。うちの妹は三才です。まだ十分に親や兄弟の保護下におくべきでしょう。幼児期は心身や人格の形成に重要な時期なのですよ?」
学園長?
あ、この人もしかして、エーデル姉以外の姉様二人と兄様三人が通っている学園―王立ネシュレ学園の学園長さん?
ネシュレ学園は王国の首都ミルバにある、領主や貴族の子供が十才から十八才まで通う学園。
広大な敷地の中には小さな森や川があり、学園長には国の政治に介入できるほどの権力があるんだとか。
で、その学園長がこのオジイサン。
え、でも、学園に…って、ネシュレ学園に入れるのは十才からでしょ?
「いや、ぜひ飛び級を!この子には音楽の才能がある!そしてネシュレの音楽科には、その才能をのばすことのできる教師がいる!」
ああ、飛び級ね。
いやでも、私三才だよ?
七年分飛び級とかいくらなんでも、
「きゃああぁああぁあぁ!!」
私が先程いたテラスの方から悲鳴が響いた。
何?
「兄様は行ってくる。ソルレーナはここで待っていなさい」
「嫌です!私も行きます!」
「危険すぎる」
「そうなったら逃げます!」
ゼルク兄様にかけよると、分かった、と私を抱き上げてくれた。
「ダンク、シュルト!」
ゼルク兄様は、テラスに向かって走り出した。
ダンク兄様とシュルト兄様も、急いでゼルク兄様の後を追った。
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