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私は目を見開いて固まった。
「わしはラオントス王国の王宮専属魔導士の一人、ザラドじゃ。これでもかなり魔法使いの中では有名なんじゃよ」
〈ザラド Lv.72〉
種族 人族
HP 鑑定に失敗しました
MP 312/6004
スキル 鑑定に失敗しました
称号 鑑定に失敗しました
更地になった平野に黒竜が降りる。
いや、違う。
ケイトじゃない。
ケイトの姿をしているけれど、中身は別だ。
「兵たちは、味方じゃないの?」
「邪魔だったのでな」
黒竜の背には、一人の老人が立っていた。
ふるえる声を絞り出す。
「…ケイトに、何した」
「何、ちょっとした魔法をかけたのじゃよ」
怒りがふつふつとわきあがる。
「お嬢さんも知っておろう?心理魔法、精神支配じゃよ」
「な…!」
「弱っていたので、竜の亜人といえど、ろくに抵抗はできなかったようじゃぞ。まぁ、この魔法でわしの残存魔力はほぼ空じゃが」
竜の亜人?
ケイトは正真正銘の竜でしょ?
いや、今大事なのはそこじゃない。
「魔法を解け」
「イヤじゃな。黒竜よ、この少女を消せ」
ぎらり、と私をうつした黒竜の目に、息をのむ。
ダメだ。
絶対に勝ち目がない。
黒竜が腕を振り上げる。
「…っ!」
心臓がきゅっと縮こまった気がした。
と、私の前に龍の姿のカイリュウが現れる。
「殿の盾にくらい、なってみせますぞ!お逃げくだされ!」
「い、嫌だ!」
カイリュウを見殺しになんてできない。
ケイトを失って、リヒトまで失いかけていて、その上カイリュウまでなんて、嫌だ。
私は首を横に振った。
「黒竜よ、やれ」
黒竜は、腕をカイリュウの鱗目がけて振り下ろす。
岩より、鉄より、ずっと硬いはずの青い鱗が爪に切り裂かれた。
「と、殿!早く遠くへ!」
カイリュウが黒竜の腹に体当たりをする。
が、黒竜はカイリュウの首元に鋭い牙を突き立てた。
ばき、と音をたてて鱗が砕かれ、地面に血が滴る。
「ぐ、ぐぅ…」
牙がカイリュウの首に深く沈み込む。
「水龍の亜人があまるで赤子同然か。予想以上じゃな」
満足げにうなずくザラド。
怒りがぼこりと音を立てるが、どうすることもできない。
自分の無力さに腹がたつ。
ちくしょう、ちくしょう!
「さっさと起きてよ、ケイト!!」
―――――――――
背を抉られ、カイリュウのHPが減っていく。
それでもカイリュウは逃げようとしない。
「魔法を解け!」
「イヤじゃと言っとろうが。無理な頼みじゃな」
私はザラドを睨みつけた。
「さて、この水龍はもういいわい。黒竜よ、他の者をやれ」
「ガルゥ」
黒竜がカイリュウを離すと、カイリュウは力なく地面に倒れた。
黒竜の目がマリィとネリィをうつす。
「「思念魔法、思念獣!」」
虎の思念体が現れ、黒竜に飛びかかった。
「ガォオォォッ、ガ…」
黒竜の爪の一閃で虎が消滅する。
「ト、トラさん消えちゃった…どうしようネリィ!」
「ど、どうしようマリィ」
黒竜は動かない。
まさか魔法?
『スキル「魔力感知Lv.5」を発動しました 』
予感が当たった。
「風魔法、ウィンドウォール!」
ドォンッ!
「闇魔法・爆影」により、マリィとネリィの影が爆ぜた。
煙が引く。
「げほ…だ、大丈夫?ネリィ…」
「だ、だいじょぶだよ、マリィ…」
二人はかろうじて生きていた。
大丈夫と、声をかける暇もなく、黒竜の目がカメ達をとらえる。
カメ達に黒竜の牙が迫った。
魔法の壁じゃ防ぎきれない!
『スキル「分身Lv.1」を発動しました 』
「土魔法、クレイガン!」
土塊を黒竜の口の中に押し込む。
「ガルァ!?」
黒竜は身を引き、土塊を吐き出して、私に狙いを定めてすぅと息を吸った。
ブレスだ。
防げない。
こうなっちゃあどうしようもない。
ごめんね皆。
私は全身から力が抜けて地面に座り込んだ。
「ガァアッ!」
「殿ォ!」
え、
ド ゥオッ
私の前に出たカイリュウにブレスが直撃する。
「カイリュウ!!」
どお、とカイリュウが地面に倒れた。
もう一目見ただけで瀕死だと分かる状態だ。
「じっとしててよ、今治療するから」
「そうはさせぬよ。黒竜、やれ」
ザラドの言葉を聞き、黒竜が再びブレスを放とうと息を吸い込んだ。
あ、もう無理だ。
もうどうやったって回避も防御もできない。
私は諦めて目を閉じた。
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