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…ん…?
目が覚める。
あれ、俺、なんで寝てたんだっけ?
ええと、リヒトと買い物に行って、毒飲まされて…そうだ、じいさんに何か魔法をかけられた。
それから意識が飛んだんだ。
早く主のところに…って、ん?
痛みがない。
あれほど痛かったのに、今はそれを全く感じない。
何でだ?
徐々に目が見えてくる。
…あれ、ここどこだ?
見覚えのない景色。
俺は困惑する。
そして、次に視界に入ったものにさらに困惑する。
あれ、
なんで主が怯えてるんだ?
主が、恐怖を湛えた目で俺を見ていた。
俺、何かしたっけ。
理由を聞こうと口を開く。
と、
(…!?)
意図してもいないのに、カイリュウの首に俺は噛みついた。
な、何で!?
体が思うように動かない。
牙が鱗を砕き、血の味が口の中に広がる。
右腕の爪がカイリュウの背を抉る。
何で!?
何で体が動かないんだ!?
このままじゃ、カイリュウが俺に殺される…!
主が何か叫ぶ。
主、違う、これは俺じゃない、俺がやってるんじゃない!
体を動かそうとすると、鎖に縛られているみたいで身動きがとれない。
と、視界の端に男がうつる。
あの男、俺に魔法をかけたじいさんだ!
あの野郎…!
俺は自らを縛っている鎖を千切ろうと試み、身を捩ろうとする。
が、もがくこともできない。
マリィとネリィももう倒れた。
俺のブレスを受けたカイリュウがどお、と倒れた。
ダメだ、もうこれ以上は駄目だ!
と、じいさんが何か言った。
今度は何をする気だ!?
俺の体が勝手に動く。
主と目が合った。
(え、)
俺は息を吸い込む。
(い、嫌だ!)
ぴくり、と俺の喉が震えるが、止まらない。
(嫌だ!
俺を縛っている鎖がぴき、と音を立てた気がする。
俺はブレスを放った。
(止まれ止まれ止まれえぇえぇぇ!!)
ドォッ
「ガフッ」
ブレスが口の中で爆発した。
よ、よし。これで主は助かった。
―――――――――
ドォッ
「ガフッ」
爆発音が聞こえた。
驚いて私は目を開ける。
見ると、黒竜が口から血をぽたぽたと滴らせていた。
ブレスを、自分の口の中で爆発させた…?
ケイトの意思が、戻りかけてる?
「チ…黒竜よ、さっさとやってしまえ」
ザラドの指示に従い、黒竜が手を振り下ろす。
肩に激痛が走り、爪に切り裂かれたのだと理解した。
―――――――――
主にブレスを当てなくてよかったと安堵していると、またじいさんが何か言った。
俺の手が振り上げられる。
(な、)
俺の手が主に向かって振り下ろされた。
爪が主の肩を掠める。
爪に肉を断った感覚。
体の芯が、カッと熱くなる。
俺を縛っていた鎖が、砕け散った気がした。
「ガァルゥウァアアァァアッ!!」
黒竜が咆哮をあげた。
空気がビリビリと震える。
「何じゃ?」
黒竜の背に乗っていたザラドが怪訝な顔をした。
「ガルァアアァアッ!!」
黒竜が尾を振り、翼を広げて暴れる。
「ぐぁ!」
ザラドが降り落とされた。
「貴様、何をした!?」
「知らないよ!」
ザラドが私を睨むが、身に覚えなどない。
「く…一体何なのじゃ!黒竜よ、暴れるでない!」
「ガルァアッ!!」
背に登ろうとしたザラドを、黒竜は尾で叩き落す。
「がはっ!?」
地面に叩きつけられるザラド。
それをさらに黒竜は横から尾を叩きつける。
「ぐふっ!」
ザラドがくの字になって飛んでいく。
木の幹に勢いよくぶつかり、落ちたザラドに幹から折れた気が重なって倒れる。
「ぁがっ!な、何故だ…魔法は完璧に発動したはず…」
黒竜が人の姿に戻り、怒気を超したどす黒い殺気を込めた目でザラドをキッと睨んだ。
生物の根幹の恐怖を喚起するような殺気を孕んだ声がザラドに向く。
「殺す」
ケイトの意思は、完全に戻った。
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