373人が本棚に入れています
本棚に追加
俺はとにかく翼を動かすことだけを考えた。
息が苦しい。
主との闘いでできた傷も痛む。
それでも翼を動かし続ける。
背に乗っている主が落ちないように速度を加減したいが、「最速で」という主の命令に従い、考えを振り切る。
森が見えてきた。
海との境に小さく拠点が見える。
もうすぐだ。
翼にぐっと力を入れる。
「あ、」
主が風になぶられて後方に飛ばされた。
俺は宙返りして背で主をキャッチする。
そのまま勢いを消さずに砂浜目がけて飛ぶ。
砂浜がすぐ近くに迫ったところで、
バサッ!
翼を広げ、可能な限り勢いを消して着地した。
ずざぁっ!
砂が、着地の衝撃で生じた風に絡みつき、砂嵐が起こった。
主は俺の頭をぽんと軽く撫でて背から飛び降り、周囲に集まってきていたラビトット達をかき分けて拠点の中へ入った。
俺も急いで人化し、後を追う。
「毒ノ種類サエ分カラヌトハ…オ役ニ立テズ、スマナイ」
「気にしないで、大丈夫」
リヒトの部屋の前で、主はラビトットの長老から水の入った器と棒を受け取って、中へ入った。
「しゅ、君…?」
リヒトは顔を土気色にし、浅い呼吸を繰り返していて、見るからに苦しそうだった。
主は床に座り、腰の袋から粉の入った袋と黒光りする石を迷うことなく取り出した。
その小瓶の粉を器に入れ、棒で混ぜ始めた。
主が何をどうしているのかは分からないけど、薬を作っているらしいことは分かる。
俺はできることがないので、主の作業をながめていた。
「風魔法、鎌鼬」
現れた風の刃が、石を粉々に切り裂く。
主は、その石を粉砕してできた粉も器に入れて、再び混ぜ始める。
緊張と沈黙がおりる。
と、こと、と主が混ぜていた棒を置いた。
薬ができたんだろうか。
主が器を持ったところで、
バンッ
「志織ちゃん!」
ドアが勢いよく開き、神様が慌てた様子で主を見る。
「な、何?どうしたの神様」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら神様が答える。
「ラオントスの国王が来てる」
主が目を見開いてがばりと立ち上がる。
「ケイト、これリヒトに飲ませといて」
「わ、分かった」
主は俺に器を渡し、部屋を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!