王国戦争編

28/42
前へ
/202ページ
次へ
「解毒など、無駄なことを…まぁ、そのおかげでわしは逃げられるんじゃがな」 わしは喉を一度さすってセキをし、立ち上がった。 「さて、どちらへ逃げようかの」 顎を撫でつつ呟く。 「逃がしはせぬぞ」 「ぬ?」 すっかり死んだと思っていた水龍がゆっくり頭を上げる。 首の傷から血だまりに赤いしずくが滴った。 「…ふ、死にかけの水龍に何ができるというのじゃ?」 「試してみればよい」 ギラリとわしを睨みつける水龍。 全く愚かな…。 「重力魔法、グラビティ」 「ぅぐぁ!」 水龍が再び地に伏せる。 フ、やはり死にぞこないの水龍などわしの敵ではないわ。 水龍に背を向ける。 この状態では、十分でも放置すれば息絶えるじゃろうて。 「…む?」 「キュォオオォオッ!」  ざぱぁ! 海が一瞬大きく盛り上がり、二体の水龍が姿を現した。 「長老殿、人間に負けたのであるか?」 「な…」 な、なんじゃと…? 水龍が二体? 魔力が切れかけた今のわしでは厳しい。 あの水龍が呼んだのか? 「とりあえず、アイツ倒すのだ」 「そうであるな」 残りの魔力では重力魔法グラビティが一発撃てるかどうか。 「「キュゥウォオオッ!!」」 「重力魔法、グラビティ!」 二体のブレスに合わせて、わしはそこりの魔力全てを吐き出した。 ブレスが重力で押し返され、わしの前で止まる。 が、前進が止まっただけで、今魔法を解けばすぐわしを呑んでしまうじゃろう。 ちくしょう、どれもこれもあのガキのせいじゃ! 魔力が減っていく。 「む?人間が吾輩らのブレスを一時的にとはいえ止めるとは」 「でも、もう魔力切れそうなのだ」 「ふむ、所詮は人間であるな」 水龍の言葉どおり、魔力が減って魔法の威力が弱まり、じりじりとブレスが迫ってくる。 「ぐ、ぐぅう…」 ブレスが目の前まで迫った。 わしは再び押し返すべく魔法の威力を高める。 ブレスが少し、後退した。 「よし、」 その瞬間、魔力が切れた。 魔法が解け、ブレスがわしを呑み込んだ。 「ぐぁぁああぁあぁぁあ!!」 くそ、くそ! 「このわしが、ガキ如きに、ガキごときに、っぁぁあぁぁあぁ!!」 「消えたのだ」 水龍二体がカイリュウのところへ来る。 「助かりましたぞ」 「人間ごときにここまでやられるとは…体調が優れないのであるか?」 「兄者、じじいなのか?」 「魔力が切れただけですぞ!妹よ、兄をじじいなどと…」 「わははじじいなのだ!兄者じじいなのだ!」 「長老殿に失礼であるぞ!もう帰るのである」 「むー…分かったのだ」 そう言うと、水龍二体は海の中に入って行った。 「さて…殿のところに行きますかな」
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!

373人が本棚に入れています
本棚に追加