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「解毒など、無駄なことを…まぁ、そのおかげでわしは逃げられるんじゃがな」
わしは喉を一度さすってセキをし、立ち上がった。
「さて、どちらへ逃げようかの」
顎を撫でつつ呟く。
「逃がしはせぬぞ」
「ぬ?」
すっかり死んだと思っていた水龍がゆっくり頭を上げる。
首の傷から血だまりに赤いしずくが滴った。
「…ふ、死にかけの水龍に何ができるというのじゃ?」
「試してみればよい」
ギラリとわしを睨みつける水龍。
全く愚かな…。
「重力魔法、グラビティ」
「ぅぐぁ!」
水龍が再び地に伏せる。
フ、やはり死にぞこないの水龍などわしの敵ではないわ。
水龍に背を向ける。
この状態では、十分でも放置すれば息絶えるじゃろうて。
「…む?」
「キュォオオォオッ!」
ざぱぁ!
海が一瞬大きく盛り上がり、二体の水龍が姿を現した。
「長老殿、人間に負けたのであるか?」
「な…」
な、なんじゃと…?
水龍が二体?
魔力が切れかけた今のわしでは厳しい。
あの水龍が呼んだのか?
「とりあえず、アイツ倒すのだ」
「そうであるな」
残りの魔力では重力魔法グラビティが一発撃てるかどうか。
「「キュゥウォオオッ!!」」
「重力魔法、グラビティ!」
二体のブレスに合わせて、わしはそこりの魔力全てを吐き出した。
ブレスが重力で押し返され、わしの前で止まる。
が、前進が止まっただけで、今魔法を解けばすぐわしを呑んでしまうじゃろう。
ちくしょう、どれもこれもあのガキのせいじゃ!
魔力が減っていく。
「む?人間が吾輩らのブレスを一時的にとはいえ止めるとは」
「でも、もう魔力切れそうなのだ」
「ふむ、所詮は人間であるな」
水龍の言葉どおり、魔力が減って魔法の威力が弱まり、じりじりとブレスが迫ってくる。
「ぐ、ぐぅう…」
ブレスが目の前まで迫った。
わしは再び押し返すべく魔法の威力を高める。
ブレスが少し、後退した。
「よし、」
その瞬間、魔力が切れた。
魔法が解け、ブレスがわしを呑み込んだ。
「ぐぁぁああぁあぁぁあ!!」
くそ、くそ!
「このわしが、ガキ如きに、ガキごときに、っぁぁあぁぁあぁ!!」
「消えたのだ」
水龍二体がカイリュウのところへ来る。
「助かりましたぞ」
「人間ごときにここまでやられるとは…体調が優れないのであるか?」
「兄者、じじいなのか?」
「魔力が切れただけですぞ!妹よ、兄をじじいなどと…」
「わははじじいなのだ!兄者じじいなのだ!」
「長老殿に失礼であるぞ!もう帰るのである」
「むー…分かったのだ」
そう言うと、水龍二体は海の中に入って行った。
「さて…殿のところに行きますかな」
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