挨拶式

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「それでは改めて」 ゼルク兄様は真剣な面持ちで、眼鏡を人差し指で押し上げる。 ぶおーーー。 ざざーん。 数瞬の沈黙。 それを埋めるように波が立ち、スクリューが唸った。 ゼルク兄様の前に三人の人物(?)が横一列に並んでいる。 ゼルク兄様から見て一番右にいるのは、白髪に深緑の瞳で、色白な美少年のリヒト。実は古代竜の光竜だけど、今は「人化」のスキルで人の姿。Tシャツに長ズボンというシンプルな格好で、不安そうにゼルク兄様の足元を見つめている。 その横にいるしっとりした黒髪に深緑の瞳の美少年は、リヒトの双子の兄のケイト。古代竜の闇竜で、リヒトと同じく「人化」のスキルで今は人の姿。緊張した表情でゼルク兄様を見ている。 そのまた横、つまりゼルク兄様から見て一番左にいる、金髪碧眼の美青年が、神様。自称とかじゃなくて、正真正銘の神様。しわのないベストにブラウス、ズボンに身を包み、笑顔でゼルク兄様を見ている。 三人とも海からテラスに引き上げられたばかりなので服も体もびしょぬれで、髪から水が滴っている。 私はゼルク兄様の一歩分くらい前で、シュルト兄様に抱っこしてもらいながらゼルク兄様と三人の様子を見ている。 「状況を整理する。」 ゼルク兄様が話し出した。 リヒトに視線を向ける。 「古代竜の光竜、リヒト。」 リヒトが嬉しそうにうなずく。 兄様はケイトに視線を移す。 「同じく古代竜の闇竜、ケイト」 ケイトが緊張した表情のままうなずいた。 兄様は次に、ゆるゆると神様に視線を向ける。 「で、…神様。」 「うん!」 神様が笑顔でうなずく。 ゼルク兄様が再度、人差し指で眼鏡を押し上げた。 「質問したいことは沢山あるが…まず、何故自分の妹のソルナと知り合いなんだ?」 「それについては僕が説め」 「えっとそれはですね!」 神様の声を遮る私。 だって、神様が説明したら余計にややこしくなりそうだしね。 「まずことの発端は、神様が私を竜の巣に召喚したことです。その竜の巣には、幼竜と、その幼竜を守るリヒトとケイトがいました。」 私は三人が船テラスに引き上げられていた間に文章を考えていたので、すらすらと説明できた。 「私はリヒトとケイトと戦い始めたのですが、二人が謝ってくれたので戦いをやめました。戦いのあと、二人に使い魔にしてほしいと頼まれたので、私は黒い竜に『ケイト』、白い竜に『リヒト』と名前をつけ、使い魔の契約を結びました。」 「使い魔、だと!?」 ありゃ、まだ言ってなかったっけ。 「あはは、冗談の上手い嬢ちゃんだなあ」 「で、本当はどうなんだ?」 な、なんだとぅ。信じてもらえない。 「冗談なんかじゃありません!」 「あっはは、古代竜を使い魔にするなんて、勇者でもほぼ不可能なのに、それを嬢ちゃんが?ふっはは!」 勇者とかやっぱいるんだー。 …勇者でもほぼ不可能、か。 いやまあ、自分でも古代竜を使い魔に、それも二頭となると、かなり稀有な例だという自覚はあったけど、これ稀有なんてレベルじゃなくね? …気にしない! 「ならば、自分が彼らを…古代竜たちを鑑定して、主を確認すればいいだろう」 流石ゼルク兄様! …で、主って何? 「あ、あの」 リヒトが手を挙げる。 「主って、なんですか?」 リヒト、ナイスぅ! 「使い魔の主のことだ。鑑定で見ることができる」 「な、成程」 へー。 「ど、どうぞ!鑑定お願いします!」 「…頼みます」 「分かった」 ゼルク兄様がまずリヒトを見、両眉をハネあげる。 次にケイトを見、目を見開いた。 「…そうやら、ソルレーナの言うことは本当らしい」 テラスの人たちがざわつく。 「つまり、この嬢ちゃんは召喚された先で古代竜を二頭も使い魔にしたって、そういうことか…!?」 「嘘に決まっている」 「しかし、あのゼルク様が嘘を…?」 「ふん、所詮はナトゥア家の人間だということだろう」 ゼルク兄様が何かを言おうとしてか口を開け、しかし何も言わないで口を閉じた。 「証拠を見せろ!」 「そうだ!」 しょ、証拠といわれましても…。 「ジャンケンをしてみてはどうです?」 ジャンケン。 あまりに唐突なシュルト兄様の提案に、テラスにいたシュルト兄様以外の人たちは、ゼルク兄様でさえぽかんとしたなんとも間抜けな表情で、しばし無言でシュルト兄様を見つめていた。 え…? 何故…? 何故唐突にジャンケン…? 「え?」 提案をしたシュルト兄様本人が、テラスの人たちにきょとんとした表情で、自分を見つめている人々に疑問符を投げかける。 え、と聞かれましても。 こちらも「え?」としか言いようがないんですが…? シュルト兄様がやっとテラスの人々が自分を見つめている理由―何故に今ジャンケン…?―に気付き、説明し始める。 「いやだってほら、使い魔の主って使い魔の考えてることをよみとることができるじゃないですか。だから、『何十回連続で勝てたら』みたいなかんじで条件をつくって、その条件を達成できたら、ソルレーナの使い魔だと信じる、というふうにしてみてはいかがです?」 「そりゃいい!」 「なるほどな!」 シュルト兄様を見つめていた人々がジャンケンの意味を理解し、ああ成程、という声があちこちから聞こえてくる。 …ていうか、使い魔の心が読み取れるなんて初耳なんだけど。 「そうだ、どうせなら古代竜だってことも確かめようぜ!」 「そうだな!」 「それでは、古代竜の姿に戻ってもらってから、ソルレーナとジャンケンで五十回連続であいこであれば、ソルレーナの使い魔として認めるというのはどうだろう?」 ゼルク兄様が具体的な案を提案した。 でも、見た目だけで古代竜と見分けるのは難しくない? ゼルク兄様にこっそり聞いてみる。 兄様いわく、竜は大概、自らの主大五属性の色…水なら青系、土なら茶色系、火なら赤系、のようにある程度決まっているんだそう。でも、黒い竜と白い竜は古代竜の闇竜と光竜のみだということ。 勉強になりました。 しかし、古代竜の姿に戻ることが古代竜であることの証明とするんだったら、幻覚とか催眠術とかだと疑われないんだろうか? シュルト兄様に聞いてみると、「幻覚や姿変化など、己の姿を別のものと偽る際には、自分より霊格等が高位のものだと偽ることはできない。つまり、自分を自分じゃないものに見せかけるときは、自分より偉かったり、強かったりするものに変身することはできないんだよ。だから、もしリヒトくんとケイトくんが古代竜の姿になれたら、少なくとも古代竜より強かったり偉かったりする、ってことになるんだよ。」との答えが返ってきた。 分かりやすい説明をありがとうございます。 「さて、君たちはこの案をどう思う?」 「あ、はい!僕はいいと思います!」 「俺も、賛成」 「はいはーい!僕もそれ、いいと思うなぁ!」 ゼルク兄様がリヒトとケイトにこの案でいいか確認すると、二人とも難色を示すそぶりもなくOKしてくれた。 …最後に一人、関係ない人が交じっていた気がするが。 神様、YOUは今の話題に一番関係ねえぞ! 「それじゃいきますね!」 「ん」 リヒトの体が光に、ケイトの体が闇に包まれる。光と闇がどんどん大きくなり、先程竜になっていたケイトと同じくらいの大きさになったかと思うと、光も闇も徐々に薄まりはじめ、光は引き、闇は晴れた。 そこには、日光を反射し、うっすら優しく光る鱗の白竜と、昼間の中に夜があるようにも見える程艶やかな黒い鱗の黒竜がいた。 「おいおい…」 「まじかよ」 目を見開くテラスの人々。 「さあ主君!」 「ジャンケンしようぜ!」 さーあ始まりました、ジャンケンタイム! おっとぉ、先制はケイト選手のようです! この戦いを制するのはどっちだー!? …うん、やめよう、実況。 自分で実況(もちろん心の中でだけだけど)とか、寂しいってもんでしょう。 ていうか、今回の条件は「五十回連続あいこ」だから、どっちかが制しちゃったらダメなんだけどね。 なんて私が考えてるうちに、本当にジャンケンが始まってしまう。 え、ちょ、待っ!? 私、使い魔の考えの読み取り方、知らないんですが!? 「じゃーん」 ええい、もうヤケクソじゃー! ケイトの目をじっと見つめる。 「けーん」 ふと、頭に声が響く。 『主、俺グー出すからな』 ケイトの口はピクリとも動いていない。 え、成功? 成功だよね?信じていいんだよねケイト!? 「ぽんっ!」 私が出したのはグー。 そしてケイトは…グー。 やった、あいこ! 『主、やったな!』 また声が響く。 でもどうやらこの声は私以外には聞こえていないようだ。 ふむ。 どうやら、「心をよみとる」というより、主と使い魔の間では、声に出さずに会話ができる、ってなかんじっぽい。「念話」とかってやつかな? 「じゃーんけーん、」 『主、パー!』 「ぽんっ」 両方パー。 はい次! 「じゃんけーん…」 こんなふうに、ひたすらジャンケンをすること五十回。 結果は全部あいこ。 ケイトとの五十回ジャンケンを終え、次にリヒトとも同じようにジャンケンを五十回し、全部あいこ。 ということで。 「…信じるしかなさそうだな」 テラスの人たちに信じてもらえるようになりましたと。 「あの、お願いしたいことがあるんですが」 「なんだい嬢ちゃん」 「騒ぎになるのは嫌なので、古代竜とか使い魔とか、今の一連のやりとりに関して、良ければ秘密にしていただけると」 「ああ、いいぜ」 良かった。うん。 良かったんだけど。 なんていうか、ちょっと当分ジャンケンは遠慮しとこうかな…。 「よかったねソルナ!皆さんに信じてもらえて」 「はい!」 微笑むシュルト兄様。 あー、なんかほっとするんだよな、兄様の笑顔見てると。これが人徳ってやつだろうか。 でもね。 まだ、アイツの件(?)が残ってるんだよ。 ほら、神様がいるんだよ。 まあでも、神様の件(?)を解決したら一件落着になるってことだし、 『スキル「姿変化Lv.1」「魅了Lv.1」「演技Lv.1」「学習Lv.1」「周囲把握Lv.1」「威圧耐性Lv.1」「隠れ蓑Lv.1」「賞味Lv.1」「忍び足Lv.1」「隠密Lv.1」「直感Lv.1」「殴打Lv.1」「弦楽Lv.1」「竜使いLv.1」を獲得  称号「竜を従える者」「知者」を獲得 スキル「統率者Lv.1」「指揮Lv.1」「指示Lv.1」「並列思考Lv.1」「思考加速Lv.1」を獲得 経験値を取得しました 経験値がレベル総量を突破しました 人族 ソルレーナ・フォン・ナトゥア は Lv.1になりました』 ちょ、音声さん(仮)、ワンモアプリーズ…。 え、と言うひまもなく、次々と言葉を並べ立てる音声さん(仮)。 これで一通り音声さん(仮)の話(?)が終わったかと思ったけど、まだ続いていた。 『持ち越し可能ステータス 人族 ― Lv.2 は  人族 ソルレーナ・フォン・ナトゥア Lv.1 に吸収されました  スキル「周囲把握Lv.3」「冷静Lv.3」「推測Lv.4」「鑑定Lv.4」「直感Lv.1」「発案Lv.3」「対竜戦Lv.2」「怒Lv.2」「説教Lv.1」「無力化Lv.2」「一人芝居Lv.1」「庇護Lv.1」「学習Lv.2」「判断Lv.2」「命令Lv.1」「竜使いLv.1」「身の程知らずLv.2」「共感Lv.1」「統率者Lv.1」「指揮Lv.1」「指示Lv.1」「並列思考Lv.2」「思考加速Lv.3」「拘束Lv.2」「脅迫Lv.1」「殴打Lv.5」「忘却Lv.1」「記憶変化Lv.1」「体内時計Lv.1」「就寝Lv.1」「回復Lv.4」「治療Lv.1」「再生Lv.2」「物理耐性Lv.2」「外道耐性Lv.1」「頑強Lv.1」「痛覚軽減Lv.1」「忍耐Lv.1」「音変化Lv.1」「怪力Lv.1」「疲労耐性Lv.1」「疲労回復Lv.1」を獲得 称号「竜と戦う者」「竜を従える者」「竜使い」「知者」「傍観者」「サディスト」「打撃者」「回復者」「マゾ」を獲得 経験値を取得しました スキル「学習Lv.1」は「学習Lv.2」を吸収し    「学習Lv.3」にLvUPしました スキル「周囲把握Lv.1」は「周囲把握Lv.3」を吸収し    「周囲把握Lv.4」にLvUPしました スキル「直感Lv.1」は「直感Lv.1」を吸収し    「直感Lv.2」にLvUPしました スキル「殴打Lv.1」は「殴打Lv.5」を吸収し    「殴打Lv.6」にLvUPしました スキル「竜使いLv.1」は「竜使いLv.1」を吸収し    「竜使いLv.2」にLvUPしました スキル「統率者Lv.1」は「統率者Lv.1」を吸収し    「統率者Lv.2」にLvUPしました スキル「指揮Lv.1」は「指揮Lv.1」を吸収し    「指揮Lv.2」にLvUPしました スキル「指示Lv.1」は「指示Lv.1」を吸収し    「指示Lv.2」にLvUPしました スキル「並列思考Lv.1」は「並列思考Lv.2」を吸収し    「並列思考Lv.3」にLvUPしました スキル「思考加速Lv.1」は「思考加速Lv.3」を吸収し    「思考加速Lv.4」にLvUPしました 称号「竜を従える者」を複数所持しているため 称号「竜を従える者」の効果が強化され スキル「竜使いLv.1」「統率者Lv.1」「指揮Lv.1」を獲得 称号「知者」を複数所持しているため 称号「知者」の効果が強化され スキル「並列思考Lv.1」「思考加速Lv.1」「博識Lv.2」「発案Lv.1」「速読Lv.1」「熟読Lv.1」を獲得 スキル「竜使いLv.2」は「竜使いLv.1」を吸収し    「竜使いLv.3」にLvUPしました スキル「統率者Lv.2」は「統率者Lv.1」を吸収し    「統率者Lv.3」にLvUPしました スキル「指揮Lv.2」は「指揮Lv.1」を吸収し    「指揮Lv.3」にLvUPしました スキル「並列思考Lv.3」は「並列思考Lv.1」を吸収し    「並列思考Lv.4」にLvUPしました スキル「思考加速Lv.4」は「思考加速Lv.1」を吸収し    「思考加速Lv.5」にLvUPしました スキル「発案Lv.3」は「発案Lv.1」を吸収し    「発案Lv.4」にLvUPしました 経験値を取得しました 経験値がレベル総量を突破しました 人族 ソルレーナ・フォン・ナトゥア はLv.2になりました 人族 ソルレーナ・フォン・ナトゥア はLv.3になりました 人族 ソルレーナ・フォン・ナトゥア はLv.4になりました 人族 ソルレーナ・フォン・ナトゥア はLv.5になりました 』 何でこう、次々に兄弟達やテラスの人たちに説明しなきゃいけないことがバンバン起こるのかね? 目を見開いたゼルク兄様と目が合う。 私はため息をつき、このステータスを得たいきさつや理由(?)を説明するための話を考えるのだった。
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