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「麻美はとうとう来なかったか」
「母親の葬式ん時は来たんだがな」
ばあちゃんの葬式には来た?
覚えてない。
「椿くんの事は了承してんだろ?」
「えぇ、ちゃんと引き取るって話です」
実の母親と、今更一緒に暮らすとか……。
勘弁してほしい。
「だいたい産んですぐ親に預けに来たんでしょ?信じられないわ」
「あの頃は女優として駆け出しだったから、スキャンダルは困るとか言ってな。
全く無責任な」
だからと言って、今女優として大成できているかと言うと正直微妙だ。
「あんなのに育てられよりは椿くんも良かっただろうが……
まさか岳さんまでこんな早く逝くとはなぁ」
「麻里さんが事故で亡くなった時も椿くん、まだ小学校に上がったばっかりだったわね」
ばあちゃんが死んでからは〝良かった〟とは言えなかった。
画家だったじいちゃんと会話するのは年にほんの数回で、絵に夢中になると存在を忘れられた。
良い思い出は、絵を褒められた事くらいだ。
低く垂れ込めた雲からついに落ちた一粒が、頬を叩いた。
明日、自分がどうしているのか。
きっと誰に聞いても知らないだろう。
ならば、身を任せるのみだ。
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