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「言っとくけど、家の中で絵は描かないでね。
わたし絵具の臭い大っ嫌いだから」
あんたの香水もヤバイから。
「時々、客が来るけど……そん時は大人しく部屋に篭っててネ」
ウインクとか気持ちわるっ。
「あといちいち言われるの面倒くさいから……
お金、勝手にとって」
言いながら、泥棒が入ったらまず最初に開けそうな引き出しに、財布から出した10万円を投げるように入れた。
「それから、明日わたし行けないから……わかるでしょ?」
この人の家に引っ越した事で、転校しないといけなくなった。
これまでだって、参観日も運動会も卒業式も誰かが来た事などなかった。
もう、誰かが自分のために何かをしてくれるということ自体が、脳内の思考にはなかった。
「大丈夫です」
自分に与えられた部屋は、広くはないが高層からの眺めが最高だった。
でもビル群や下界に見える小さなモノたちを眺めていると、一人異空間に取り残されたようで不安になった。
寝る場所があり、食べるものがあるのに。
不安だった。
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