けむる部屋

3/12
前へ
/12ページ
次へ
「言っとくけど、家の中で絵は描かないでね。  わたし絵具の臭い大っ嫌いだから」  あんたの香水もヤバイから。 「時々、客が来るけど……そん時は大人しく部屋に篭っててネ」  ウインクとか気持ちわるっ。 「あといちいち言われるの面倒くさいから……  お金、勝手にとって」  言いながら、泥棒が入ったらまず最初に開けそうな引き出しに、財布から出した10万円を投げるように入れた。 「それから、明日わたし行けないから……わかるでしょ?」  この人の家に引っ越した事で、転校しないといけなくなった。  これまでだって、参観日も運動会も卒業式も誰かが来た事などなかった。  もう、誰かが自分のために何かをしてくれるということ自体が、脳内の思考にはなかった。 「大丈夫です」  自分に与えられた部屋は、広くはないが高層からの眺めが最高だった。  でもビル群や下界に見える小さなモノたちを眺めていると、一人異空間に取り残されたようで不安になった。  寝る場所があり、食べるものがあるのに。  不安だった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加