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3.外の世界
「密さん、最近なにかありました?」
食事のあと、タツがこう話しかけてきたので、密はあやうく味噌汁をこぼしそうになった。
「えっ。な、なんで?」
響也とのことがバレてしまったのだろうか。そういえば、部屋の中に響也からもらったものが増えてきた。タツの目につかない場所に置いているつもりだが、食事の世話や掃除などで蔵に上がったときに、もしかしたら見られているかもしれない。
「毎日楽しそうですから。いいことですよ、生活になにかを見付けることは大事だと、母も言っています」
タツは我が子を見守る母のように、嬉しそうにフフッと笑った。
(タツ……)
そうだ、タツは密の幸せを願ってくれる一握りの者だ。響也にもらったものを見付けてしまっても、彼女は黙って見過ごしてくれるだろう。
「タツ、ありがとう」
「あら。なにもしていないのにお礼を言われてしまいました」
クスクスと朗らかな笑い声が暗い蔵の中に響いた。
響也とタツに優しく接される一方、澤村が密にすることは、日を追うごとにエスカレートしていった。
はじめは着物のあいだから体を弄られるだけだったが、今では着物を当然のようにすべて取り払われ、あられもない姿で胸や性器をさわられる。
今日も授業が終わるやいなや着物を剥がされ、澤村の目の前で射精まで促された。蛇のような掌が己の肌を滑るあいだ、密はじっと耐えて澤村の望むような態度をするしかない。
――助けなど来ないことは知っている。
それに、相手は立派な体躯をした大人だ。抵抗するとなにをされるか分からない。密は世間から離されて暮らしているから、こんなことをされるのがおかしいと感じる自分が間違っているのかもしれない、と思った。
密の小ぶりな性器に付着した白濁を拭いながら、澤村が息を荒げる。
「幼い頃からきみを見守っていたけれど、こうやって私の手で射精してくれるなんて感無量だ。こんなに従順なら、もっと早くから仕込んでおけばよかったのかもしれないな」
(仕込むって……!)
自分は曲芸をする動物並みに思われているのだと衝撃を受けた。そんな密の怒りに気付かず、澤村は頬を撫でてくる。
「今度の授業まで、きちんと勉強しておきなさい。……もうすぐきみが大人になる誕生日だ。待ち遠しいよ」
意味深な言葉を残して澤村が去ったあと、密は抜け殻のように、裸のまま板間に転がった。澤村の湿った手の感触が、今でも残っていて気持ちが悪い。
(いやだ。助けて。だれか助けてくれ……!)
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