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嫌だと断ればきっと、先輩は優しいからそれ以上は求めてこないはず。
けれど私にはそれを断る理由はなかった。
一度ためらったあと、冷たい指先が頬へ静かに触れ、先輩の整った顔がそっと近づいた。
私の額に、一瞬だけ掠めるように唇が触れる。
指先と同じで、冷えた――柔らかな唇。
私の瞳から涙が零れ落ちていく。
一体何の涙だろう。自分でもわからない。
「じゃあ、元気で。……幸せになってね」
背を向けて去って行く先輩は、一度も振り返ることはなかった。
その背が見えなくなるまで、ずっと私は先輩のことを見送っていた。
*
*
*
(……なんで私、先輩のこと振ってるの?)
聞き慣れたアラームの音で夢から覚めた途端、まず始めに思ったのはそれだった。
先輩は傷ついて切なそうな目をしていたのに。夢の中とはいえ、どうして断ってしまったんだろう。
あのとき、先輩からの告白にうなずいていれば。先輩は優しく笑ってくれたかな。
私の大好きな……、彼の本当の笑顔が見たかった。
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