Prologue~忘れられない

4/18
前へ
/182ページ
次へ
 隣に並んだ先輩は、ふと何かに気づいたように私のことをじっと見つめてくる。 「あれ? 白坂さん、髪の毛はねてる」 「えっ、寝癖?」  慌てて髪に手をやると、偶然先輩の手に触れてしまい、さらに慌てる。  ちょうど先輩も、私の髪に手を伸ばしていたのだった。 「わ……、すみません」 「ちょっとごめんね」  軽く断りを入れた先輩は、何を思ったのか私の後ろの髪を数回すいて、はねている部分をわざわざ直してくれた。 「もう大丈夫だよ」 「ありがとうございます……」  触れられたことが恥ずかしくて、下を向く。癖のあるセミロングの髪が顔の横に垂れ、私の表情を隠してくれた。  少しの間、学校までの道を一緒に歩くことになり、話題はほとんど部活のことについてだった。  それでも、私にとっては特別な時間。 「蓮、おはよう」  校舎が見えてきたとき。門の前で人を待っている様子の女子生徒が柏木先輩に声をかけ、小さく手を振った。 「――じゃあ、また放課後に」  先輩は私にそう告げ、その女の人と一緒に歩き出す。 「あ、……はい」
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

157人が本棚に入れています
本棚に追加