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須賀海斗が通う昇陽高校を宮原涼一が訪れたのは、一ヶ月ほど前のことだ。
7月はじめ頃、学校が企画した“人気作家による講演会”。
ちょうど期末試験が終わった時期でもあり、生徒たちに読書習慣をつけさせる試みとして作家を招くことになった。
宮原はいま注目の新進ミステリ作家で、デビュー作は映画化もされている。
国語教師の太田が宮原の大学時代の同級生で、いまも交流を持っていることから白羽の矢が立ったらしい。
本好きがこうじて図書委員まで勤めていた海斗は、大のミステリファンでもあった。
宮原の講演は素晴らしかった。
隣で聞いていた友人の松野は眠そうだったが、海斗は感動で震えがくるほどだった。
宮原のホームグラウンドであるミステリの話から日本の文豪の話、過去の様々な推理小説のトリックや作家の日常など、どれも興味深く楽しい話ばかりだった。
海斗は太田に無理にお願いをして、宮原からサインをもらう計画をたてた。
講演の後、職員室の応接コーナーにいた宮原のもとへ、意を決して駆けつけた。
サインしたあと、宮原は愛想笑いしながら、
「実はうち、ここから結構近所なんだよね」
と言って名刺までくれたものだから、海斗は天にも昇る心地でそれを受け取り、おずおず口を開いた。
「あの、また……また来てくれませんか。お忙しいでしょうけど」
宮原はちょっと意外そうな顔をし、
「なら君が来てくれればいい。名前は?」
そんなふうに二人は出会ったのだった。
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