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疲れただろうから風呂に入るといい、と促され、海斗は先に入浴を済ませた。
外観に似合わず、別荘の内部は完全な現代住宅だ。
お洒落といっていいくらいのバスルームを出ると、洗面所がある。
山の中腹に建てられているだけあって面積もゆったり設計されているのが気に入った。
鏡に映った顔を確認し、海斗はため息をついた。
長い睫毛に縁どられた、黒目がちの大きな目。
形の整った鼻筋と、ややぽってりした唇。
日焼けしていない滑らかな頬には赤みがさしている。
海斗は幼い頃から周りの人たちに“女の子みたい”と言われ続けていた。この顔のせいだとこれまでは簡単に片付けてきたことも、逃げだった気がしてくる。
結局海斗は本の世界に逃避し、情けない自分をしばし忘れることで精神のバランスを保っていた。
宮原が海斗の外見について何も言わないのは、有り難かった。
居場所がない、と常々思っていたところで出会った宮原は、ある種救い主みたいなものだった。
「どうだった?」
大きな暖炉のついたリビングルームへ行くと、宮原はソファに寝そべっている。
まるで大型犬が居眠りしているようで、海斗は少し笑った。
「顔が白くなりました」
「ほんとだね」
宮原は手に持っていた本をテーブルに置き、立ち上がった。
代わって海斗がソファに座ると、バスルームから水音が聞こえてくる。
別荘には生活に必要なものがほとんど揃えられていて、数日なら住んでもいいくらいには快適だった。
海斗は辺りを見回し、テレビがないことに気付いた。
さっき見てきた旅館にもテレビがなかったが、山の上なので電波が届かないせいだという。
この辺まで下りれば電波は届くだろうが、環境を楽しむため、あえて置いていないのだろう。
窓の外には蒼い夕暮れが広がっていた。
海斗は階段を昇り、寝室を見つけた。
大きなベッドが部屋の中央にどんと置いてある。
二階の他の部屋は書斎とクロゼットで、お金持ちの夫婦が使っているらしい。クロゼット下の棚には、何足かの高そうな靴が並んでいた。
再度一階へ降り、浴室以外の部屋を巡る。
リビングの奥はキッチンで、自炊には十分な設備が整っていた。
客室があるだろうという予想は当たっていた。夫婦と客とで山道を散策し、部屋で料理や会話を楽しむのだろう。
客の寝室は夫婦の半分くらいの広さで、シングルサイズのベッドが1台備えつけてあった。
海斗はクロゼットを開けて探してみたが、中はすっかり空だった。
「どうしたの?」
風呂を終えて出てきたらしい。後ろから宮原の声がした。
海斗がベッドを指差し、困った顔をすると、
「だから?」
と笑っている。
ベッドには枠組みしか残っておらず、布団はおろかマットレスさえない状態だった。
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