7 断崖の殺人

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旅館でめちゃくちゃなキスをされた時から、そうなるとは思っていた。 宮原は海斗をベッドルームにつれていき、服を脱がせ、体中のあらゆる場所にキスをした。 「……んっ、あ……」 静かな室内に、シーツの擦れる音と掠れた吐息が響く。 まだ日も高いというのに、宮原は自らも服を全部脱いで海斗を強く抱きしめてきた。 この行為のたび感じる劣等感。 か細く白い少年の体に男を欲情させる要素があるとは思えない。 宮原は正直なところ海斗の体をどう思っているのか。 「海斗くん?」 「ああっ!」 「こんな時に上の空とはいい度胸だな」 股間をゆるゆると揉まれただけで、反応する。 海斗のほうでは怖いくらいに宮原を求めているのだから、仕方ないのだ。 海斗が手探りで宮原に触れようとすると、素早くよけられてしまった。 「君が気持ち良さそうなのを見てるのが好きだから、俺はいいんだ」 そんなことを言ってなかなか触らせてくれない。 快感をこらえる宮原の様子が色っぽくて好きなのに、うまくいかないものだ。 「あ、んッ……!」 上に乗った体がずれていって、宮原は海斗の中心に頭を寄せた。 そこはもうしっかりと天井を指して、先端から蜜をこぼしている。 指先が敏感な部分をしつこくなぞるたび、海斗の華奢な腰がぴくりと震えた。 ぬるりとした温かい場所に包み込まれるともう、意識は一点に集中する。 「はぁ、あ……ううっ、」 気持ち良すぎて、とろけそうだ。 宮原の口の中で転がされ、好きなだけしゃぶりあげられて我慢も限界だった。 「だめっ、離してく……」 自分でも信じられないほど早く、射精感がおとずれた。 宮原は生き物のように脈打っているものを口から抜き、指で支えた。 「くっ、んん……!」 海斗はシーツをギュッと握りしめて、溜まっていた熱を吐き出した。 温かく重い液体が、腹に落ちてくる。 宮原の手がそれを集めてすくい取り、どこかに塗りつけているようだった。 快感の余韻で少し経つまで目が開けられなかった海斗は、うつぶせで脚を揃えて寝かされた。 海斗の体の上に覆いかぶさった宮原は、両腿の間に猛った分身を挿し入れて前後に動き出す。 さっき自身の放った液体が、擦れるごとにいやらしい音を立てた。 背中に宮原の体温を感じ、止まらない腰の動きに揺さぶられながらまた興奮が蘇ってくる。 宮原は出し入れをさらに早めながら、海斗の昂りを同じリズムで扱いた。 「ん、う……!」 声をこらえたくて口を閉じても、喉の奥から出てしまう。 力強い宮原の律動に巻き込まれたまま、海斗は再び吐精した。 体から芯が抜けたようになった海斗を後ろから抱き止めて、宮原も達した。 満足し、しばらくは二人とも汗ばんだ体をくっつけて寝転んでいた。 「君が相手だと、どうも調子が狂うな……」 独り言のようなつぶやき。 「服を脱ぐと急に天使から悪魔に変わるみたいだ、海斗くんは」 「え……」 何を言われているのかわからず、問い返そうとする。 しかしさっきまで激しく喘いでいたために、喉が乾燥して声にならなかった。 「普段は清潔で綺麗で、絶対に汚しちゃいけないと思うんだ。でも裸を見ると、めちゃくちゃにしたくなる」 とすると、宮原は充分、海斗の体に欲情しているのだ。 露骨にその事実を突きつけられ、今度は逃げ出したくなるほど恥ずかしくなった。 シーツをかき寄せて体を覆う。 「海斗くん。あの時、本当は嬉しくて海に飛び込みたいくらいだったんだよ」 ドラマの撮影見学でリゾートホテルに泊まったとき、海斗は決心を伝えた。 自分の体を好きにして構わないと宮原に告げたのだ。 宮原は「そんなことしない」と言い、結局これまでどおりのやり方で快楽を分け合った。 せっかく覚悟を決めた海斗としては肩透かしをくった形で、それからずっと引きずっていたのだ。 子供っぽい独占欲を見抜かれ、悔しかったせいある。 男同士で付き合っているといってもお互いを縛るものは何もないから、せめて体で縛りつけたいと。 海斗が大切だからこそ無理をさせたくないという宮原の言い分は理解できても、ずっと納得できなくて、あれからだんだん足が遠のいたまま夏休みになっていた。 「もし不安にさせてたんなら、俺が悪いね」 溜息が出た。 抱いてほしいとお願いしたことなど、忘れてくれればと思う。 「大人っていろいろ無理をするもんなんだ。やきもち焼いてても必死で隠してるし、会いたいっていうメールも送れないし……」 したいことがあっても我慢するのが大人の意地。 それとやはり、かなり年下の海斗に振り回されてはいけないという矜持だろうか。 「今は冷静ぶってるけど、そのうちバレるだろうな。仕事以外には、ひとつのことしか考えられなくなってるって」 顔を隠したシーツを引き剥がし、宮原は海斗の髪を撫でた。 「あのさ……もう一回いいかな……?」 冷めかけた体の熱がまた、その一言で急上昇するのがわかった。
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