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顔色がよくないと仕事場に戻された海斗は、じっと座ったままでいた。
宮原はパソコンを完全に閉じて、隣に座った。
「告白は君からだったね。俺はもう少し待ってもよかったんだ、例えば社会人になるまで。君がネクタイ締めて会社に通うようになったら、もう相手にされないかもしれないけど、一応好きだって言おうかと考えてた」
「俺、フライングですか?」
「それは、そうとも言い切れない。だって海斗くんが4つ年を取るまで待ってたら、俺も同じだけ取るわけだから」
海斗だって想像しないわけにはいかなかった。もし告白しないでいたら、高校生の時のような生ぬるい関係が続いたのかと。
憧れの作家といろいろな体験ができ、楽しかった。けれど、宮原は海斗の中で、もう肉体を持った存在に変わってしまったのだ。
「俺に手を出したとか後悔するのだけはやめてほしいです。誘ったのはこっちだし、なんとかして宮原さんに触りたかった」
「あー、やめやめ!それ以上は言うな。ムズムズしてくる」
海斗の体は宮原の腕に包み込まれた。
体全部が宮原を求めているのに、今日はなんだかんだ言って触れてくれなかった。
海斗が怖がっているのとは違う意味で、宮原も怖いのだと思う。
ひとりの人間をすっかり変えてしまうことや、他人にすべてを晒すことが。
「遠慮されてる感じが駄目なんです。こんなことなら、告白しなきゃよかったのかって」
好きと言う前までの苦しさを思えば、そんなのは無理だとわかっていた。
だけど友達でいた頃の気楽さも少し懐かしかった。
「俺の人見知りは根深いんだよ。知り合ってまだ2年だから」
「そうなんですか……?」
好きだったら心を開ききるのが普通だと海斗は思っていた。
言われてみれば、宮原は過去に裏切りにも遭い、苦難を経験している。
「……俺、もっと本心を話していいですか?」
宮原が口をつぐんでいるなら、海斗が開かせるしかないだろう。
「いいよ。同い年の友達みたいに、思ったことそのまま言えばいい。君だって遠慮してる。俺は世間の31歳と比べたらそれほど大人でもないし、君を子供だとも思ってない」
頭を撫でられ頬にくちづけを受けると、少し気持ちが落ち着いた。
「……夏休みの後半は、いっぱい会いに来ます。そのために今頑張ってるんで」
「旅館ではごめん。君が来ないと寂しくて。……いつでも待ってるよ」
海斗が来たら宮原は仕事にならないと分かっていても、本当は毎日でも通いつめたかった。
「ほんとに遠慮するなよ。仕事は一人の時にちゃんとやってるし、会えたら気分よく進むんだから」
恋愛関係になってから変わったことというのは、案外多くはないのかもしれない。
以前から宮原は子供っぽくて寡黙で、海斗に優しかった。
ふたりの間で育っていった甘い空気を、はっきり言葉にしただけだ。
それはそれで、以前から恋人みたいだったというのは、なんとなく恥ずかしいけれど。
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