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エピソード21
ドアを開けた瞬間、クラス中の視線が私に突き刺さった。
一体、何があったのか。教室を見回し、黒板に貼られた紙に目が止まる。
『矢森梓は 嫌われると死ぬ』
「…!」
息を飲み、一歩、後ずさる。
何故。誰が。
宇佐木を見る。彼は慌てたように首を横に振った。
「誰よ?こんなイタズラしたのは」
委員長の声だ。
「桐原じゃねえの?こんな事するのお前くらいだろ」
「は?誰がこんなガキみたいな事するかよ」
「意味が分かんないよな。嫌われると死ぬって」
「そんなんで死んだら、そこら中死体だらけだろ」
ギャハハ、と笑う声を打ち消すかのように、よく通る声が響いた。
「ねえ、これ…」
由香里だ。真っ青な顔をしている。
「美桜の字…だよね?」
一瞬にして教室は静まり返った。
頭の中が真っ白になる。
確かにそれは、見覚えのある丸文字だった。
ガラリとドアが開き、皆が一斉にそちらを向く。入ってきたのは担任教師だ。彼は険しい表情で告げた。
「帰りのホームルームで、クラスミーティングを行う」
その日は、誰もが私と目を合わせなかった。至る所で、蝶達の囁きが漏れ聞こえる。もしかして美桜の呪い?そんなわけないでしょ。でも、どうして矢森さんが…。
ホームルームの時間になる。ミーティングの内容は、やはり黒板に貼り付けられた紙に付いてだった。この紙を黒板に貼ったのは担任教師だという。昇降口の簀子の下に落ちていたのを、今朝、別のクラスの生徒が見つけて彼に届けたそうだ。
「こんな悪質な嫌がらせ、先生は許せない。これを書いた生徒は正直に名乗り出るように」
先生の声に、誰も、何も言わなかった。時間だけが過ぎる中、私はただ俯いていた。
やがてチャイムが鳴った。担任は納得していない様子で、それでも今日のミーティングの終わりを告げた。
帰り支度をするクラスメート達の表情は硬かった。皆、わけの分からない不安と恐怖に苛立っているのだ。
と、誰かが叫んだ。
「ちょっとお前ら、何びびってんだよ」
「そうだよな。こんなの誰かのイタズラに決まってる」
取って付けたような笑い声が広がる。
「イタズラって、誰のよ?」
「誰のでもいいだろ。とにかく、これは古具間さんが書いたものじゃない」
「でも、美桜の筆跡よ」
「真似して書いたんだろ」
教室に渦巻く重たい空気を切り裂くように、殊更明るい声が響いた。
「検証してみようぜ。そしたら、ただのイタズラだって分かるだろ」
私に向けられる、幾つもの目。
耳元で美桜が私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
これは、報いなのだろうか。美桜を殺した私への。だとしたら、私は…。
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