エピソード22

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エピソード22

「桐原くん、やめなよ」 「いや、こんなの気分悪いだろ。早いとこはっきりさせた方がいいって」  桐原はドスドスと私に近付いてくる。 「別にいいよな?矢森さん、まさかこんなイタズラ信じてないだろ?」  これは、報いなのだろう。美桜を殺した、私への。  だとしたら、私はそれを受けなければならない。  私はゆっくりと頷いた。  由香里が目を逸らすのと、宇佐木の驚いた顔が目に入る。 「えーと、でも、どうすればいいんだ?」  桐原は頭をかきながら言う。私は俯いたまま、その時が訪れるのを待った。既に麻痺してしまった心はもう、何も感じない。 「とりあえず叫んでみるか。よし。俺は、矢森さんが、き…」  ガタン、と音が響く。桐原は飛び上がった。 「うわっ…と、脅かすなよ。音住」  言いながら桐原は胸を押さえ、急に立ち上がったクラスメートを睨み付ける。 「お前ってそういう悪ふざけする奴だっけ?」  音住はボソリと呟いた。 「…とは限らない」 「え?」 「嫌われると死ぬ人間は、矢森さんだけとは限らない」 「何言ってるんだよ」  桐原が呆れたように言う。 「こんなの嘘に決まってるだろ。なあ、皆。こうなったら、一人ずつ死なないかどうか試してみるのはどうだ?」 「やめろ!」  叫んだのは宇佐木だ。 「…桐原、もしお前がそうだったらどうする?」 「え?」  桐原は、途端に青い顔になる。 「そういえば、私、あの日…美桜が死んだ日、中庭で音住くんが美桜と話しているの見た」  そう言ったのは委員長だ。 「じゃあやっぱり、あれは美桜が書いたの?」  「まさか本当だったりして…」 「そんな…」 「もしかして、美桜も…」 「私は大丈夫だよね?」  恐怖はさざなみのようにクラスに広がっていく。  やがて、誰も何も言わなくなった。  長い沈黙の後、桐原が呟く。 「音住、お前、何か知ってるのか?」 「…言ってもいいの?」 「いや…」  桐原は押し黙り、教室には再び静寂が訪れる。 「私、帰る」  やがて、耐えきれなくなったように一人の女子が、カバンを持って部屋を飛び出していく。  それに続くように、皆、無言で教室を出て行った。 「何してんだよ」  私の他に1人残った音住が、長いポニーテールの先を弄りながら言う。 「なんで頷くんだよ。断れば良かっただろ。桐原の理由によっては、あんたは死んでた」 「…病気の事、知ってるの?」 「ああ。妹がその病気だった」  だった、ということは、もしかして亡くなったのだろうか。 「美桜の事も?」  音住は頷く。もはや、驚きはない。貴先生の話を聞いて以来、驚きも恐怖もどこかに行ってしまったようだった。 「私、死んでも良かった」  そう言った私を、音住は睨み付ける。 「はあ?」 「だって…」  由香里と貴先生。2人の悲しみが、頭にこびりついて離れない。美桜の母親もそうだ。涙ぐんだ目で、愛おしそうに由香里の話す美桜の話を聞いていた。  知ってしまったのだ、私は。美桜の命の重みを。  私は、皆の大切な人を奪った。だから、償わなければならない。美桜を愛する人達の顔を思い浮かべる。ほんの少しだけ、美桜が羨ましくもあった。私にはあんな風に泣いてくれる人はいない。 「私、美桜を殺したから」  これは知らなかったのだろう。音住は僅かに眉を寄せる。 「ぶつかったの、肩が。そのまま走り抜けた」 「そんなの殺したことにはならないだろ。嫌われたと古具間さんが勝手に思い込んだだけだ」 「違う」  後悔は私にもある。あの時の貴先生のように。 「私は、何年もかけて…美桜を殺した」
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