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エピソード7
教室の喧騒が、一瞬にして遠のいた。
まさか、ばれたのだろうか。美桜が私のせいで死んだ事が。
由香里は微笑み、静かに、というように口元に指を立てる。
「…髪、気になってたのよね」
私を椅子に座らせ、ポーチから取り出した櫛で私のボサボサの髪を梳かし始める。私は人形のように彼女のなすがままだった。
髪を梳きながら、由香里は私の耳元に口を寄せる。
「1組の斉木さんがこっそり話してくれたの。お姉さんが看護師なんだって。美桜はあの日、病気で死んだんじゃない。…自殺、したんだって」
ごくり、と唾を飲み込む。
「まさか、そんな…だって…」
振り返ろうとすると、動かないで、と髪を引っ張られる。
「でも美桜は簡単に自殺なんてしない。大人しく見えて芯がある子だもの。だから、よっぽど追い詰められてたのよ。…誰かがあの子を追い詰めた。あの日、この学校の、誰かが。だって、ホームルームが終わるまで、美桜はいつもと同じに笑っていたんだから。帰る前、美桜はここで何か書いていた。あれを見つければ…きっと…」
動揺を気取られないように、私は言う。
「でも、先生が病気だって…」
「病死の診断書を書いたのは美桜のお母さんなんだって。お医者さんなの。どうしてそんな事をしたのか分からない。美桜の名誉のため?世間体のため?だけどそのせいで、真実は隠され、あの子の苦しみは無かった事になる。そんなの絶対に許せない!」
「…っ」
私の髪を握る由香里の手に力が入る。その痛さに涙が滲んだ。
「…美桜だけだったの、私には。美桜しかいなかった。両親は私には関心が無くて、クラスメート達は表面しか見ない。美桜だけが、本当の私を見てくれた。私の全てを受け入れてくれた。…私、美桜が死んで、もう生きている意味なんてないんだって思ったの。だけど、美桜の仇を討つ。そのためだけに生きようと思った」
泣いているのだろうか。声が湿っている。
「ねえお願い、一緒に探してくれる?」
ぽたりと、肩に雫が落ちる。
「…探して…どうするの?」
「美桜と同じ目に合わせてやる」
びくっと肩が震えた。全身から血の気が引いていく。
「と言いたいところだけど、とりあえず、どれだけ私がそいつを憎んでいるか、嫌っているか、分からせてやるわ」
ズキンと頭が痛む。それは、私にとっては心臓を刃物で貫かれるのに等しい事だ。
さあ終わり、と言って彼女は私から離れる。
差し出された手鏡を見て私は目を見開く。
「似合うでしょう?」
鏡の中の少女は、美桜と同じ髪型をしていた。
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