エピソード8

1/1
前へ
/44ページ
次へ

エピソード8

 大丈夫、大丈夫だ。未だ激しく脈打つ心臓を抑え、自分に言い聞かせる。あのメモは燃やしてしまった。美桜を殺した犯人が私だと分かるわけがない。…いや、そうとも限らない。静まり返った放課後の教室で、私は一人、頭を抱える。そうだ、貴先生。彼が全てを知っている。もし、美桜の身辺を探る由香里が、幼なじみである貴先生の所まで辿り着いたとしたら…。頭を掻き毟る。彼は私の事を喋るだろうか。分からない。だけど私は、彼の大切な人を殺した。爪を噛む。鋭い痛みが走り抜けた。駄目だ。急がなくては。由香里が真実に気付くより先に、同じアザを持つ生徒を見つけるのだ。…でも、どうやって?衣服の下に隠れているアザは見つける事が出来ない。指先に血が滲み、ぽたりと机に落ちる。どうにかしてクラスみんなの制服を剥ぎ取る事が出来たら…。 「大丈夫か?」  突然かけられた声に私は飛び上がる。振り向くと、宇佐木拓磨が隣の机に腰掛けていた。いつからいたのだろう。私は慌てて立ち上がる。 「あ…だ、大丈夫。ちょっと考え事をしていて。今は具合が」  悪いんじゃない、と言おうとした私を宇佐木は遮る。 「気をつけろよ。日辻さんには」 「え?」  予想外の言葉に、私は固まる。 「人と深く関わるとそれだけリスクが増える。特に女子は、そうだろ」 「…宇佐木君、もしかして」  まさか。凍り付く私とは対照的に、彼は穏やかな笑みを向ける。 「知ってるよ。矢森さんの病気の事」  
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

273人が本棚に入れています
本棚に追加