007 解決編

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007 解決編

「おかげさまで、もう解決編だぞ」 開口一番、先輩はそう言いだした。 先輩の家まで腕に捕まってもらっていると、玄関で待っていた3人は、三者三様のリアクションをくれた。 先輩は、変態を蔑むような眼だった。 うてなは、楽しそうな微笑みだった。 楢本君は、複雑そうだった。 違うんだよ、別に。その方が安全だったってだけだからね。 部屋に上がらせてもらうのは、初めてである。 先輩の普段の雰囲気では想像もつかないほどにかわいらしい部屋だった。 ここに座るのは、恥ずかしくもあり烏滸がましくもありという感じで少々躊躇ったが、他の4人が何の遠慮もなく普通に座ったので、まあいいかと僕も座った。 床に、西嚮して座るは楢本渉。 床に、北嚮して座るは虎野初音。 床に、東嚮して座るは僕こと、瀬川十哉。 床に、南嚮して座るは先輩こと、猪口未桜。 ベッドに、南嚮して座るは、外村うてな。 「それでは、解決編に入る前に、一つだけ確認させてもらおう」 あらかじめ虎野さんにアプリを起動してもらっておいてよかった。きっと、彼女も話についていけている。 そう言った先輩は、腕を組みながら楢本君に「彼女のデビュー曲を歌いなさい」と命令した。 彼は、とてつもなく恥ずかしそうにしながら、しかし微笑んで歌い上げた。 それが、引き金だったのか。 僕らは目の前で起こる事象に、それぞれ驚きながらも、ほんの少しだけ歓喜した。それは、彼女にとって面倒だったことの原因がはっきりしたということであり、解決への一歩だと思えたからだ。 「おー。まさか、こんなことになるとは」 うてなは、腑抜けた感じで驚いていた。これが彼女の、休日のデフォルトだ。学校ではハイテンションの彼女も、学校以外ではこんな感じなのだ。 「彼が鼻歌を歌えば、彼女はその時の状態になるのだよ」 先輩は我が物顔でそう言った。 「これで、法則はつかめたってことか。じゃあ、次は原因だね」 うてなは、話を前にもっていく。 「さあ、話してもらおうか」 僕は何が何だか分からなかった。しかし、この現象、彼らの表情から何かを察せられるほど、僕は大人になれていた。 ここから先は、口を挟まない。 話を聞いて、考える。 「これからお話しするのは、冬の話です」 僕は、息を呑んだ。 彼女らは、楽しそうだった。 「僕と彼女は、幼馴染でした。と言っても、幼稚園までの話です。小学校に上がるとき、僕は引っ越してしまって、それからは合えずじまいでした。小学2年の時です。たまたまテレビをつけると、そこには彼女が頑張っている姿が映っていました。まだ8歳くらいの同級生が頑張っている姿に、僕は感動しました。そして、親に頼み込んで連絡をとれるようにしてもらいました。 しかし、結果はだめでした。芸能活動に友達は入れないというのが、彼女のお母さんの方針でした。きっと、そうしてしまうと彼女が手を抜いてしまうと思ったのでしょう。 その時、僕は閃きました。どうしてそう思ったのか自分でもわかりません。ただ、彼女には頑張ってほしかったのでしょう。その支えに、少しでもなれればと、そう思ったのでしょう。 僕は、家庭教師を懇願しました。 初めは渋っていたお母さんも、『絶対に会わない』という条件で、許してくれました。 それからは、多分聞いたとおりです。同じクラスと嘘を吐き、つじつまを合わせ、僕も一生懸命勉強をし、彼女の支えとなれたことは本当に嬉しかったです。 そして、その日が来ました。 まさか、そんなことになるとは、思っても見ませんでした。 雪の積もるその日。僕は、その寒さに驚きつつも起きました。すると、携帯がすぐに鳴ったのです。相手は、彼女でした。 会いたい。 そう言われました。 僕は迷いました。迷って迷って、少しだけならと欲望がうずきました。僕は、会ってしまったのです。 それが、間違いだったのです。 会えた瞬間は、本当にうれしくて、再確認しました。 本当に僕は大好きだったのです。 しかし、それがSNSに流出したのです。 なるべく人ごみの少ないところを選びましたが、ダメでした。ネットでは個人情報の流出、仕事は激減。その所為で、彼女は引きこもり、僕は永久接触禁止令を敷かれました。 僕は、彼女の人生を壊したのです。 本当に会わないようにしようと思っていました。 しかし、そうは問屋が卸してくれませんでした。 まさか、同じ高校に通うだなんて。 僕は、謝りたいのです。 僕は、彼女に復活してもらいたいのです。 現象の原因を見つけて、解決して、復活してもらいたいのです。 どうか、宜しくお願いします」 彼の懇願は、彼女には届かなかった。 彼女が元の姿に戻ったのは、彼が帰った後だった。 「私らは、それが唯一の方法だと思う」 先輩は、彼にそう告げた。彼は、深く考えているようだった。何かを葛藤しているような、そんな雰囲気だった。 少女の姿となった彼女は、抱っこするうてなをぎゅっと見つめる。うてなは、お得意のスマイルで彼女をあやした。うてなの笑顔は、子供までもを虜にするらしい。 「彼女が何の音も聞こえなくなった理由。それは、彼女自身が何も聞きたくないと、そう願ったから。応援も批判も、その頃の彼女にとって害悪以外の何物でもなかった。それは、自分の曲でさえそうだったのだろう。真面目な彼女だからこそ、深くまで突き詰めてしまったということになる」 先輩は淡々と答えていく。すかさず、うてなが「まあ、要するに」と挟み、フォローした。 それが、彼女らしい部分である。 「いろいろ考えたくなーいってなることってあると思うんですよ。面倒だなーって思ったり、やりたくないなーと感じたり。それが、極度に出ちゃったってことなんだと思いますよ。トラウマみたいな感じで。そんなに深く考えることでもないと思います」 彼女は、あやす片手間で続ける。明るい声で、明るい表情で。 「別に、法を犯したわけでもないんですし。そんな重く深く黒く暗く考えることでもないんですよ。心の傷を癒すだなんて、そんな風に考えるから、もっと大きなことをしなきゃ、失敗なんかできないって考えちゃうんですよ」 そして、彼女は暗い空気の僕らを見て、はぁとため息を吐いた。先輩は、多分彼女の方の見方だ。 最後に、外村うてなは、こう締めくくった。 「人を救うのに、一発勝負であってたまりますか。制限時間は無いんですよ。何事もチャレンジ、チャレンジ」
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