000 プロローグ

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000 プロローグ

朝の日差しは、君の瞳。 いつものベッドは、君の匂い。 うんざりするほど、君で満ちている。 えもいわれぬ、君の名残。 幼い君も、大人な君も。 「愛してる」と告げた時の、驚いた表情。 「一緒が良い」と目をそらした、君の微笑み。 「美味い」と絶賛したときの、照れ笑い。 「縁側を造ろう」と張り切った、君。 「重い」と拗ねた、ベッドの上。 「悲しい」と呟いた、玄関先。 「嫌い」と言い合った、トイレの扉。 「くり饅頭」とせがんだ、台所。 「結婚しよう」と誓った、リビング。 こんなにも君色に染まった世界。 さあ、どうしようか。 知らない君に、死んでから伝えよう。 須く素晴らしい余生だと。 世界はこんなにも広いんだと。 そんな風に、語り合おう。 橘の香りがする、想い出の丘で。
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