その2

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その2

暗い穴の中② 「このことは、お前たちを育てている間も、トラウマとしていつも心の奥で抱えていたたことなんだ。明代も結婚して子供もできたし、この辺りで話しておきたい」 父の告白が始まりました…。 ... その防空壕の空間は、父の通っていた高校の校舎の1階に残っていたそうです。 廊下と階段が接するホール上の奥にある、コンクリートで覆われた暗い穴の中…。 そこを戦時中、空襲から逃れた住民が防空壕代わりにしていたということです。 「…”そこ”の入り口は、卓球台や跳び箱とかの部活動の道具置き場になっていて、普段はそれらで闇の空間は閉ざされていた。だけど、好奇心旺盛な年頃だし、恐いもの見たさの心理でみんなそこが気になっていた。で、あれは2年の夏休み中だったな…」 父はクラスの違う同級生数名から、防空壕につながるホールで卓球をやるから来てくれと誘われたそうです。 「そうか、お父さん、卓球部だったんだよね」 「ああ。その時はそう深くは考えず付合うことにしたんだ。だが、卓球台を広げると、防空壕の入り口は跳び箱とか他の用具でふさいでも結構隙間ができてね。要はピンポン玉を逸らせば、防空壕の穴に入ってしまう。まあ、台の向きを変えれば、別に問題はないんだが、連中はそれをしなかった…」 要するに、卓球のボールが”穴”に入るかもしれないスリルを味わう目的があったのでしょう。 しかし、父の話を聞くと、更に彼らには”別の”目的があったらしいのです。 ... 「その場には女子二人を含め4人いた。すると、リーダー格らしきAが耳打ちしてきたんだ。”Bと試合してくれ。手加減なしで頼む。ああ、穴側はBだから”とね。まあ、卓球部の人間ならスマッシュとかで打ち抜けば、ボールが穴の方に転がるのは目に見えてるよな」 父は彼らがなぜクラスの違う自分を誘ったのか、薄々気づいていたのでしょう。 でも、Aの言うとおりにBとは試合をしたそうです。 「案の定、試合開始早々、Bは俺のスマッシュを返せず、ピンポン玉は後ろの穴へ転がって行ったよ。まるで暗い闇の奥に吸い寄せられるように…」 そして、AはBに穴の中に転がったボールを取りに行くように指示したそうです。 ところが…。
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