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また、リア友さんが言うには、金曜から土曜までの追い込みのときには、もう泣きそうな声でわめく候補者などもいるらしい。勘弁して。 それを木曜の夜八時、十二時間に及ぶ音の残虐が終わったあと、彼女と電話したときに教えられた。 とっさに閃いた。 これは投票日前日まで、逃げよう、と。 お金がないので宿はカプセルホテル、逃亡先も、本好きだから神田神保町に限る。 やってみたかったことがあった。 本好きなら、品揃えがいい東京堂か書泉グランデ、このどちらかにでもずっと居てみたいと思う。できることなら二十四時間居たい。閉店から翌日開店までのあいだは夜間警備の名目で本を座り込んで読めたらどんなに幸せなことだろう。 そう、わたしは選挙カーの横暴な騒音が選挙に反映されるという国辱(こくじょく)ものの事態をなんだかなぁ、と思う。 カントの哲学研究で知られた中島義道先生の書かれた、『うるさい日本の私』を読めばたぶんわかってもらえるんじゃないか……。 しかしこれは四十八時間の亡命のようなものだ。 亡命なら亡命者らしくプランを立てよう。 なんて意気込まなくてもすぐに決まった。 神田神保町が小川町の境になる靖国通りと明治通りの交差点、駿河台下交差点のあの三角地帯(トライアングル)を目指す。そこにはまず古書店がある、文庫川村。そしてどちらもさりげない隠れ家のような喫茶店が二軒。さらには飲食店もキッチン・カロリーやカレーのエチオピアなど多数。 二日間、そこから出ない。──これはどうか? やってはみたいと思っていたから、これはいい機会。もちろん疲れを感じたり、飽きたらそこは神田神保町、いくらでも時間は潰せる。むしろ二日間では足りないぐらい。 けれど、七時半に家を出たので古書店は開いていない。 なのでまずは御茶ノ水駅聖橋(ひじりばし)口からすぐの喫茶店、穂高(ほたか)に寄ることにする。思えばここへは何度も訪れているけど、こんな早い時間に来たことはなかったっけ。
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