中島梓

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中学校に行かなくなったのは、行く必要がないと分かったから。 制服に着替えて外に出るけれど、それは、家政婦のおばちゃんが、親に言いつけると面倒だから。 「行ってらっしゃいませ」 深々と下げられる頭。顔を上げたら、どんな目をしてるんだろうな。 嘲るような? 呆れるような? ドアを開けた俺の髪は、朝日に輝く金色。 ゲーム機とスマホと、親のクレジットカードだけが入ったリュック。その紐を片方の肩に引っ掛けて家を出た。 「今日はどうすっかな」 5月。若葉が萌える季節。 公園に植えられた木に透けて見える光が眩しくて、目を細めた。 この時期の紫外線が一番強い、と聞いたことがある。 木漏れ日の中をダラダラ歩く俺と同じ方向に向かう、小学生と中学生。反対方向には駅があるので、大人はそちらに向かって歩いていた。 ゲーセンに行ったら補導されるだろうし。河川敷に行っても何もないし。 電車で隣町に行くのも飽きた。 「たまには、学校でも行ってみるか」 それはほんの気まぐれだった。 「学校に行く」といっても、学校の敷地内に行く、という意味だ。どこか、ゆっくりゲームができる場所でも見つかるかもしれないと思ったんだ。 中3になってから学校に行くのは、どれくらいぶりだろう。 普通の学生のように門をくぐり、でもそれからはみんなとお別れだ。 かくして俺は、あまり行ったことのない中庭に足を向けた。 部活動に励んでいた頃に、確か目立たないスペースがあるな、と中庭を横目に見た記憶がある。
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