中島梓

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中庭の隅に一本だけある木の影に仰向けに転がってみると、なかなか居心地が良かった。 涼しい風が吹くと、黄緑色の葉の間から陽の輝きが漏れる。その眩しさに時々顔を顰めていた。 ニャン 「……あ?」 いつの間にか眠ってしまっていた。腹に違和感を感じて目を覚ますと、黒猫が勝手に俺の上に登ろうとしているところだった。 「なんだよ」 頭の上で組んでいた手を解き、人差し指でそいつの額をグリグリ押すと、猫は上手に避けて、俺の手に頭を擦り付けた。 別に動物は好きじゃないけど、懐かれて悪い気はしない。金髪のソフトモヒカンで怖がられてる俺。猫から見たら人間の毛色なんて、区別がつかないんだろうな。 「野良猫か?」 返事があるはずはないのに、そう尋ねた。 「俺と一緒じゃん。いいよな、気ままで」 隣にある校舎から、チャイムの音。途端に気怠い気配が、いくつかの教室の窓から漏れ出てきた。 この中庭は校舎と武道場に挟まれている。特別教室のある棟と、柔道の授業がある時以外使われない武道場。 初めてここでサボるけど、案外いい場所かもしれない。 そう思った途端に、向こうから走ってくる音が聞こえた。 弾んだ、規則正しい足音。それは急にピタッと止まった。 顔だけ動かして見ると、丸眼鏡でひとつ結びの女子が俺を見て戸惑っていた。 「えっ? あ……ひ、樋口くんでしたか」 「俺のこと、知ってんの?」 「お、同じクラスですから!」 それが、中島梓との最初のやり取りだった。
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