中島梓

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教室にいることはあまりない。 二年生の中頃から不登校だ。偶にこうやって気まぐれで学校の敷地内に来ることはあるけど。既に勉強は遅れて、授業の意味が分からない。 かと言って、構われるのは嫌だ。偽善者みたいなクラスメイトが、俺を更生させようと注意したり、ノート貸そうとしてきたり。そういうの、鬱陶しくてたまらない。 そんなお節介は必要ない。 何も分かってないくせに、「助けてやらなきゃ」みたいな顔して近づくな。 夕方になって、少し冷えてきた。 俺はちんたら歩いて家路に着く。帰りたくもない家に。 五人家族なのに、あと三倍の人数が住めそうな豪邸。外から見た灯りも、所々しか付いていない。 金があると用心深くなるのが人の(さが)らしく、いちいち二種類の鍵を使って開けないといけない。 家に入っても、物音一つしない。長々とした暗い廊下を歩いて、奥のリビングダイニングに行く。 そこには誰もいない。 一人分の皿に、ラップがかけてあるだけ。 手作り料理。この家で雇われている、家政婦の。 冷蔵庫には明日の分の朝食と弁当箱が入っている。 ハンバーグをレンジで温め、鍋のスープと炊飯器のご飯をよそう。レンジの音が静かな部屋に響いた。 二階で物音がした。優秀な兄か姉が、トイレにでも行ったのかもしれない。 親と会ったのはいつだっただろう。 忙しい家族は、俺が毎日何をしてるかなんて知る由もない。 もし俺が死んだって、ニュースで見て知るか、数日後に発見するかのどちらかだろう。
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