中島梓

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昼休みのチャイムが鳴ると、やっぱり来た。昨日のクラスメイト。 「あ、樋口くん」 昨日と同じようにおどおどしている。猫が駆け寄ってくると、またその表情が緩んだ。 「樋口くんも、猫好きなんですか?」 しゃがんで缶の蓋を開けながら尋ねてくる。 「別に」 俺はようやく自由になった両手で、ゲーム機を手に取った。 遠くから聞こえる、耳障りな学生の笑い声。女子の悲鳴のような甲高い声。何が楽しいんだろう。 「樋口くんは、お弁当あるんですか?」 「ある」 この女には、俺も野良猫のように見えているんだろうか。もし、食い物がなかったら憐むんだろうか。 そう思った時、彼女の腹の虫が「ぐう」と盛大な音で鳴いた。 「…………」 「あっ、き、聞こえました?」 「まだ食ってねえの?」 「あ、後で……」 必死に腹を押さえて、音を何とか鳴り止ませようとする。なぜかピンと来てしまった。 「自分のパン代で、猫缶買ってきてるとか」 「…………」 俯いて、返事をしなかった。丸い眼鏡が光って、奥の目は見えない。 俺は溜め息を吐いた。 普通なら反吐が出るくらい嫌いな自己犠牲愛。けど、自分で言い当ててしまっては文句のつけようがない。 「明日からは俺が猫缶買ってくるから。お前、自分のメシ買えよ」 「だ、大丈夫です。一食くらい抜いても、生きられます」 細身のくせに強がる彼女。コイツの方が野良猫に見えてしまって、つい、柄でもないことを口走ってしまった。 「そんな、いつ死ぬか分かんねー猫より、自分のことちゃんとしろよ。親がお前のためにくれたカネだろーが」
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