8人が本棚に入れています
本棚に追加
「お兄ちゃん、友達がお見舞いに来てくれたよ!どうぞ」詩織の声が聞こえる。
友達?友達と呼べるような奴は……、生川か……、学校のプリントでも持ってきたのだろうか。あまり話したくないので俺は布団を頭から被って顔を隠した。
「どうも~」あれ、生川の声ってこんなにキーが高かったっけ?
しばらくの沈黙が続く。
「山本見っけ~!」その声と同時に掛け布団が一気に剥ぎ取られた。
「きゃー!!」俺はなぜか乙女のような悲鳴を上げてしまった。落ち着いて見上げるとそこには、昌子と恵の姿があった。昌子は布団を手に持ち笑っている。
「具合はどう?」恵が小さな声で聞いてくる。
「具合って、まだ文句があるのか!?」俺は起き上がると昌子から布団を奪い返した。
「……」恵の返答はない。
「あっ、これがもしかすると恵の?」昌子は棚に飾るように置いてある縦笛を指差した。
「「あっ!!」」俺と恵はシンクロするように声を上げた。恵は真っ赤な顔をして下を向いた。
「この少女漫画もそうか?で、体操服は?」昌子はなんだか嬉しそうに俺の部屋を物色している。
「体操服は……、引っ越しの時に捨てた。俺ずっと自分の気持ちしか考えてなくて……、天野を虐めてたつもりは無かったんだ、でも実際は……ゴメン」俺はベッドの上で正座して土下座するように謝った。
「私は、絶対に許さない。あの山本直樹にされた事を……」恵は目に少し涙を貯めている。
「ちょ、ちょっと恵……」昌子が珍しく困ったような顔をして恵を宥めようとしている。
「でも……、今のあなたは……、あの山本直樹とは、違う山本直樹君だと思う事にするわ」
「えっ!?」俺は彼女の言っている意味が理解出来なくて顔をあげた。
「恵、素直に好きって言っちゃいなよ」昌子が口を出す。
「ば、馬鹿な事を言わないで!私がこんな奴好きな訳無いじゃないの!!」恵は強烈に否定する。
俺は唖然としながら二人の顔を見ている。
「でも、山本も鈍感だね。恵の態度見てたら気持ち位解るでしょうに」昌子は呆れている。
「いや、でも、それは彼女の俺へのリベンジで……」
「最初はそうだったけれど、恵も山本を好きになっていったんじゃない。もう子供じゃないんだから二人とも素直になりなさい。恵が要らないなら、私が山本貰っちゃおうかな」そう言うと昌子は俺の隣に座ると腕を組んで胸を押し付けてきた。
「それは駄目!……あっ!!」恵は俺の腕を掴んで引き寄せる。なんなんだこのパラダイスは……。
「俺も、やっぱり天野の事が好きだ。あの頃からずっと……」俺の言葉を聞いて、恵は更に顔を赤らめている。
「お兄ちゃんがこんなにモテるなんて、きっと天変地異がくるわ」廊下の詩織が青い顔をして呟いていた。
こうして、俺のリベンジは達成されたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!