8人が本棚に入れています
本棚に追加
「ブッブー!!ブー!!!」その声に俺は目を開く。それは惠から発せられて言葉であった。
「えっ!!」意味が解からず俺の頭は混乱する。
「あんたバッカじゃないの!?本気で私の事を好きっていってるの?」惠はなぜか爆笑しながら呟く。
「あ、当たり前じゃないか!俺は小学生の頃からずっと君の事が好きで!君がお父さんの仕事の都合で引っ越した後もずっと君のことを・・・・・・・!」
「おいおい!ちょっと待て待て待て待て~い!!」掴んでいた俺の両腕を彼女は振り払う。「それ誰情報なの!誰に聞いたのよ!!」彼女は逆に俺の胸ぐら掴んできた。
「えっ!?何が!」俺は彼女の質問の意味が解からなかった。
「私が転校したのがどうしてお父さんの仕事のせいになっているのよ!!」さらにグイグイと胸ぐらを突き上げてくる。
「えっ!?違うのか!」
「私が転校したのは、あ・ん・た!あんたのせいでしょ!!!」突き飛ばすように俺の胸ぐらから手を離した。
「えっ、ええ!!」俺はその場に尻もちをついた。
「毎日、毎日、毎日、毎日!あんたに嫌がらせをされて、私は登校拒否になったんだよ!それで仕方なく転校することになったんだ!!あんたがいない学校にね!!」
「そ、そんな、俺が天野を虐めていただって!?」そんな事がある筈がない。俺はずっと天野の事が、天野恵の事が好きだったのに。
「本当にあんた覚えていないの!私の漫画、借りパクしたままでしょ!!」
「えっ、漫画・・・・・・!?」
「女の子が主人公の学園物のやつよ!」惠の顔が鬼の形相に変わっている。座り込んだままの俺を惠は上から人差し指で突き刺すように指さした。漫画、漫画!漫画と言えば母親の言葉を思い出す。
『本棚にある漫画の本とかもう読まないでしょう!一緒に処分しなさい!』
えっ!あれって俺が惠の漫画を・・・・・・!!
「まだあるわよ!私の体操服を盗んだの・・・・・・、あれもあんたでしょ!?」さらに指を前に突き出しながら惠を俺の顔を指さした。
「えっ!?」その言葉を聞いた途端、引越の日の母と詩織の会話が頭の中を過った。
『お母さん!もう、小学校の時の体操服すてるよ!!なんだかちょっと私のじゃないやつ混じってるし!』
『きっと間違えて誰かの持って帰ってきてたんでしょう!どちらにしても小学校の時の体操服なんて着れない物は捨てなさい!』
えっ!あれって俺が惠の体操服を・・・・・・・!!
「まだまだあるわよ!!私の縦笛!あれもあんたでしょ!!」もう彼女の指先は俺の顔面に突き刺さる勢いであった。
「えっ!?えっ!!」縦笛。そのキーワードで少し前の詩織との会話が蘇ってきた。
『お兄ちゃん、縦笛持っていたでしょう。明日の授業で使うからあれ貸してよ』
『駄目だ!駄目!駄目!あれは俺の宝物なんだ!絶対に駄目だ!』
えっ!あれって俺が惠の縦笛を・・・・・・・!!
ドレミフソラシド~♪あの笛の音が頭の中を響き渡る。
「このド変態が!!体操服盗まれるわ!縦笛盗まれるわ!毎日スカートめくられるわ!物盗まれるわ!普通の女の子ならノイローゼーになって当然よ!!」彼女の指はいつの間にかデコピンに変わっており俺の額を激しく弾いた。
「い、痛い!!!」思いの他強烈な彼女のデコピンに俺は顔を歪める。
「もう一度言うわ!このド変態!私がどんな気持ちで転校したと思うのよ!!もう地獄から逃げ出すような思いだったわ!そして転校したこの学校では絶対に虐められないように必死に努力したの!あんたを見返すぐらいに!」その彼女の努力が実って学園美女コンテストのグランプリまで成り上がったのであろう。「それで、春に転校してきたあんたを見て私はゾッとしたわ!またあの悪夢が始まるんじゃないかって!!」
「そ、そんな・・・・・」俺の頭の中を絶望感が駆け抜ける。
「でも、転校してきたあんたは何か勘違いしているみたいだったから昌子にお願いして様子を確認してもらったの。それが事もあろうか私の事を好きだなんて!?キモイ、キモイ、キモ過ぎるっちゅうねん!!」彼女はヒートアップしている。
「お、俺は本当に君の事が・・・・・・」ずっと好きだった。その言葉は出てこなかった。
「好きってか!?このド変態が!!」そう吐き捨てると彼女は後ろを向いて屋上を後にしていった。俺は彼女に突き飛ばされたままその場に座り込んでいた。額のデコピンの後がジンジンと疼いた。
最初のコメントを投稿しよう!