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花の園
(1)
「おはよう空、朝だよ」
「……あれ?翼?」
翼が僕の部屋に天音より先に来ていた。
「天音はどうしたの?」
僕が翼に聞くと翼は笑っていた。
どうしたんだろう?
翼に聞いていた。
柄にもなく今日着ていく服を深夜まで悩んでいたらしい。
そして深夜に両親の部屋に押し入って「下着くらい勝負下着の方がいいだろ!?愛莉の貸してくれよ!」と交渉したらしい。
「いくら私でも天音には大きすぎます。ダメです」
そういう問題か?母さん。
「じゃあせめてリップくらいさせて!」
「まあ、そのくらいならいいですよ」
母さんは承諾したらしい。
交渉は成功したがその代償が寝坊。
今慌てて準備してる最中だという。
「と、言うわけで空も早く準備した方がいいよ」
翼はそう言って部屋を出て言った。
天音がね……天音も女の子なんだな。
僕も着替えると準備をした。
今日は水奈と水奈の母さんと、美希さんの家……石原家の人達と栗林家の人とフラワーパークに行く。
花がいっぱい咲いてるらしい。
何が楽しいのかさっぱりわからないけど。
「まあ、空もそろそろ慣れておく必要があるかもしれない」
父さんが昨夜言ってた。
天音が張り切っているのは天音の彼氏候補の大地か粋か判断するから。
どっちが自分の彼氏にふさわしいか見極めるらしい。
好きな人と一緒にいるってこんなに楽しいんだって。
「翼、盛り付けお願い。私天音の準備手伝ってあげないといけないから」
「は~い」
翼はそういって弁当箱に料理を詰め込んでいく。
うちは大食いが4人いる。
量もすごい。
翼一人で大丈夫だろうか?
そういうのも手伝ってやるのが恋人だって誰かが言ってた。
「翼手伝おうか?」
「空こういうのセンス無いからいい」
却下された。
仕方ないので父さんとテレビを見てる。
呼び鈴がなる。
僕が出ると水奈と水奈の母さんがいた。
今日は水奈の父さんは試合がある日。
水奈と水奈の母さんも父さんの車で行くことにした。
そのあとに石原家と栗林家がやってくる。
急な呼び出しに多忙な美希さんの父親・石原望さんが来たのには、母親・石原恵美さんの一言があったらしい。
「息子の恋愛に協力するくらいしてあげてもいいでしょう!」
大地君の恋愛の為に地元の中小企業が何件か不渡りを出したらしい。
「連休に仕事をしないといけないような無茶なスケジュールを組む無能が悪いのよ」
というのが母親の弁。
「片桐君久しぶり」
望さんは父さんを尊敬しているそうだ。
父さんがいなかったら今の生活はなかったらしい。
そんなに凄い人なのだろうか?うちの父さんは。
「石原君こそ多忙なのに急にごめんね」
父さんが言う。
「いいのよ片桐君。片桐君の娘さんなら大歓迎よ。ついでに家の娘も引き取ってくれない?立派に育ててるつもりよ」
恵美さんが言う。
「そ、それは空の意向もあるし……」
父さんは返答に困ってるようだ。
「片桐先輩久しぶりです」
粋の両親も父さんの後輩らしい。
「うちの息子はどうも自由にさせ過ぎて天音さんに迷惑を……」
「気にしなくていいよ」
父さんはそう言っている。
どっちかっていうと迷惑かけてるのは天音だろうから。
「パパ、準備出来たよ」
いいタイミングで翼が入り込んできた。
そうして4家でフラワーパークに行く。
父さんの車には母さんと僕と翼と水奈と水奈のお母さん。
天音は石原さんの車に乗るそうだ。
粋も石原さんの車に乗るらしい。
色々話もあるんだろう。
出発した。
うちの両親と水奈さんの母さんが盛り上がってる。
父さんの運転はとても上手だ。
だから水奈は寝てた。
僕は翼と二人で景色を見ながら話をしてた。
フラワーパーク付近では渋滞していたけど、そんな時間すら翼と一緒なら平気だった。
そうしてフラワーパークに着くと水奈のお母さんが水奈を起こす。
そして入場して芝生の広場でシートを広げてお弁当を食べる。
粋と大地には特別に用意してあったらしい。
ただ問題があった。
天音の弁当の量の基準は僕達だ。
粋はともかく大地は小食。
食べきれるわけがない。
だけど大地君は無理して食べた。
大地君のお母さんの厳しい目線と天音の残念そうな目線がそれを許さなかった。
なんとか食べ終わった大地と粋にお茶を差し出す天音。
「どうだった?結構頑張っただけど」
「美味しかったです。ありがとうございます」
「さすが天音だな。めっちゃうまかったぜ」
2人とも賢明にアピールしていた。
そんなやりとりを僕達は見ていた。
冷やかす親達。
その時美希さんが僕の腕をつつく。
「私も空君のお弁当作ってきたんだけど」
忘れてた。美希さんにラブレターをもらっていたことを。
翼の目線が怖い。
そして心の中もどす黒くなっている。
ごめん、翼。
食べ物を粗末にするわけにはいかない。
「ありがとう、頂くよ」
「お前まだ入るのかよ!」
水奈が驚く。
翼には後でご機嫌とろう。
その必要はなかった。
「私も今度から空の弁当作るよ」
翼からの伝達。
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
僕も返事してやる。
翼は笑っていた。
「こんな事なら私も簡単なの作ってくるんだった」
水奈が言う。
「だから朝早く起きた方がいいじゃないのか?と言っただろ。夜更かしするから。何してたんだ?」
水奈のお母さんが言う。
「内緒」
水奈はそう言った。
弁当を平らげると、自由散策。
小学生にそんなことさせて良いのか?と思うけどこんな行楽地で誘拐なんてするやつはいないだろ?
それに父さん達を怒らせると大変なことになるらしい。
特に今回は石原家が絡んでる。
100倍にして仕返しをするらしい。
敵とみなしたら容赦しないのが父さん達のやり方なんだそうだ。
「じゃ、天音と大地君と粋君は気を付けて回っておいで」
父さんが言う。
僕も翼と回ろうかな。
あまり興味はなかったけど翼は興味あるらしい。
麗華と瑞穂は2人で回ってるらしい。
「翼、僕達も見て回ろうか?」
翼に手を差し出す。
「うん」
翼が僕の手を取ろうとした時だった。
「待った!!」
そう言ったのは水奈だった。
「水奈、どうしたの?」
翼が聞いていた。
「あの三人気にならね?」
「初めてのデートなんだし三人にした方がいいんじゃない?」
「どっちが相応しいか翼達も見ておくべきじゃない?」
水奈が断言する。
「そうね、私も気になる」
美希さんも言う。
「で、どうするの?」
翼が聞いていた。
「尾行しよう」
水奈が言った。
心を読まなくても分かる。完全に興味本位だ。
「まあ、天音が恋してるってのも気になってたし面白そうね」
翼が言うとにやりと笑った。
「と、言うわけだ空。見失わないうちに行こう」
僕と翼の二人きりのフラワーパークは夢となって消えた。
でもまたいつか来れるさ。
僕達にはこれから先長い時間があるのだから。
(2)
「もしもし?」
「あ、大地?私。多田水奈だけど」
「何で水奈さんがこの番号知ってるの?」
「天音に聞いた、ちょっと聞きたい事があってさ」
私は昨夜大地に電話していた。
大地に用があったわけじゃない。用件を手短に言う。
「美希の電話番号教えてくれないか?」
「なんで姉さんの電話番号を?」
「女同士の秘密の話があるから。美希に許可もらって」
「わ、わかった」
大地はそう言ってしばらくしてから美希の電話番号を言う。
「サンキュー。じゃあまた明日な」
大地と電話を終えると美希に電話する。
「もしもし?秘密の話って何?」
美希が電話に出た。
「美希も明日フラワーパークに行くんでしょ?」
「そうだけど?」
「ちょっと相談があるんだけどさ……」
「相談?」
「翼と空……あのままにして置いて平気?」
「そ、そうだね。最近特に親密になってるし」
美希も気づいていたか。
「でさ、向こうは空の事を翼と天音で守ってる。美希一人でやってたって勝ち目ない」
「そ、そうだね」
「あの二人つるんでるみたいだしさ。私が手を貸すよ」
「どういう意味?」
「とりあえず明日の件を考えたんだけど、自然に任せてたらどう考えても翼と空でデートになるでしょ?」
「うん……」
美希の声は沈んでいる。
「最優先事項はあの二人を引き離すんじゃなくて『あの二人だけに』させないことだと思う」
「そんな手段はあるの?」
「口実さえ作ればなんとかなる」
「口実?」
「大地と粋だよ」
「え?」
大地と天音と粋を見守るって口実で4人で行動していたら尾行は失敗しても翼と空を二人っきりにさせるということにはならない。
今できることはこれ以上あの二人が親密になるのを阻止する事だと説明する。
そうしていればいずれ冷めるだろ。そこから先は美希次第だと言った。
「わかった。でもそんなことして水奈にメリットあるの?」
それはわからない。
でもあの日から私の中に燻っている感情があった。
私もそれが何かを確かめたい。
「じゃ、そういう事で。あの二人特殊能力持ってる。物理的に一緒にいたってすぐに二人の世界に入ってしまう。それを阻止しないと」
「わかった」
「じゃあ、また明日」
電話を終えると一仕事終了。
天音、悪いが今回の件だけは私は敵に回る。許して。
あとはあの二人が冷めていく方法を考えなければ。
考えていたらなかなか眠れなくて翌日車の中で寝ていた。
天音の父さんの車の運転はとても気持ちがいい。
だからすぐ眠ってしまう。
レースさせたらうちの馬鹿よりは速いらしいけど。
そしてフラワーパークについて作戦を実行した。
(3)
多田さんから電話を受けてテンションが上がってた。
あの三人に対抗する手段がある。
私にもチャンスがまだ残ってる。
そう思うと俄然やる気が湧いてきた。
気持ちが興奮していて眠れない。
若干寝不足だった。
服を着替えてダイニングに行く途中、弟の大地に声をかけようとした。
大地の恰好を見て目が覚めた。
そして叫んでいた!
「あなたなにやってるの!?」
「あ、姉さんおはよう」
おはようじゃないでしょ何その格好!?
まるで七五三か入学式でも行くのかというような恰好。
このままいかせたら間違いなくどんな恋の炎も覚めてしまう。
姉としても弟の恋を叶えてあげたい。
「いいからその服を脱ぎなさい!お姉ちゃんが服を選んであげる!」
そう言って大地が服を脱いでる間にクローゼットの中から適当に服を見繕う。
デニムのジャケットにボーダーのTシャツ、下はジーンズ。
これならいくらかましだろう。
「こんな普通の恰好でいいの?デートだよ?」
正確には天音が粋とどっちがいいか選ぶ判断するために行くらしいけど
「そうよ、デートだよ!お見合いするわけじゃないんだから。ちょっと来なさい!」
そう言って洗面所に連れていくと寝癖を直した後父さんの使ってるワックスを使って髪形をセットしてやる。
いくら私達が作戦を練ったところで基礎から崩されたら元も子もない。
私も自分の身支度をして。朝食を食べると空君の為にと昨日作っておいたお弁当を盛りつける。
「美希、あなたも頑張りなさい。2人共片桐家と結ばれたら石原家は安泰よ!」
母さんが言う。
父さんは苦笑いしていた。
あまりこういう事には口出ししてこない。
教育方針は母さんが独断で決めているようだった。
独断なのは教育方針だけじゃない。父さんの仕事のスケジュールも母さんの意のまま。
私の出産に無理矢理立ち会わせて決裁が遅れて傾きかけた中小企業があるらしい。
「お前の命は尊いものだよ。色々な意味で。大事にしなさい」
父さんはそう言っていた。
準備が終ると父さんの運転で空の家に向かう。
空達も準備を済ませたみたいで、家から出てくる。
天音ちゃんが大地の隣に座ると車は空君のお父さんの車を追いかける。
その後ろから粋の車がついてくる。
粋は私たちの車に乗っていた。
空君のお父さん・片桐冬夜さんは運転がとてもうまい。
後にも目がついてるんじゃないかというほど父さんを気づかって車を進める。
大地は緊張していた。
何も言おうとしない。
その反面、粋と天音は話が盛り上がっていた。
「花なんか見て何が面白いんだろうな」
「だよな!遊園地とかの方がまだいいぜ」
「遊園地はこの前行ったんだ」
「誰と!?」
「水奈達だよ」
そんな感じで盛り上がっていた。
「大地も何か言う事無いの?」
私も手助けした。
だが、母さんの悪気の無い一言が空気を冷やす。
「天音ちゃんは普段大地にどこに連れて行ってもらえてるの?」
天音ちゃんは回答に苦しむ。
無理もない。大地がデートに誘ったことなど一度もないのは私も知ってる。
粋もだけど。
しかし大地は一言も喋らない。
あなたが喋らないと始まらないでしょ!
「大地、もっとリラックスしないと天音さんもこまっちゃうよ?」
父さんが言う。
そして大地が余計な一言を言った。
「きょ、今日が初めてのデートなんだ……」
「なんですって?」
母さんの声音が変わる。
「じゃあ、帰りに家まで送ったりは?」
「天音は水奈やお兄さんたちと帰るし帰る方向が逆だし……」
「休日に何してたの?」
「特に何も……」
メッセージのやり取りすらしてなかったらしい。
「大地は新條に何を教わったの!?何を聞いてたの!?まさか学校でも喋ってないとか言わないでしょうね!?」
「片桐さんの周りには、竹本さんとか三沢さんとか、桐谷君とか栗林君がいて……」
「言い訳になってない!それでよく天音ちゃんが好きだなんて言えるわね!もっとアピールしないとダメでしょ!?」
「恵美、その辺にしとこう。せっかく天音さんが来てくれたんだし」
父さんが仲裁に入るけど父さんが仲裁に入って収まったことは一度もない逆に燃料を投下することになる。
今回もそうだった。
「望は黙ってて!大体あなたにそっくり。デートはしてくれない!どうせ誕生日も知らないとか言うんでしょ?そもそも今日誘ったのは片桐君達のほうなのよ!」
「わ、私もまだ大地君とは決めてないし……
「天音ちゃん?栗林君とはどうなの?」
「粋も何もしてこないですね」」
「ダメよ!そういう弱弱しい根性は早いうちに叩き直しておかないと後々後悔するわよ!」
父さんは黙ってしまった。
いつものパターンだ。
「大体、メッセージすらろくに送らないってのが気に入らないのよ『声が聞きたいから』とかも言えないわけ!?」
「私は翼と同室だから」
天音が大地を庇う。
母さんは一度火がついたらなかなか鎮火しない。
大地を叱る母さんとそれを聞いて小さくなる大地と大地を庇う天音ちゃん。
現地に着くまでそれは続いた。
こんな日に限って車は渋滞して母さんの説教は長引いた。
車を降りると母さんは収まった。
そしてお弁当を広げる。
天音は料理が得意らしい。そして今日も張り切って作ったらしい。
大地には多すぎる量だ。
大地は途中でもう食べられないとシグナルを出した。
そんな事は許されない。
そう母さんの表情が物語っていた。
大地は頑張って食べた。
我が弟ながらよくやったと褒めていた。
そして忘れてた。
私も弁当を空君に作っていたことに。
「私も空君のお弁当作ってきたんだけど」
そう言って空君に弁当を渡す。
さすがに食べきれないかな?
空君は躊躇っていた。
どうやらお腹が満腹になっていたからではないらしい。
翼の顔色を窺っていた。
そして覚悟を決めて食べてくれた。
美味しかったと言ってくれた。
その後自由行動になった。
大地と天音と粋は三人で自由行動。
そして翼と空君もふたりで回ろうとしたとき。
「待った!!」
水奈が二人を呼び止める。
大地達を尾行しよう。
水奈が二人に言う。
2人は承諾した。
しかし二人を尾行するのは難しい。
大地は人の気配をすぐに察知する。
だが翼と空君はその上をいっていた。
大地が気づく領域を的確に把握して気づかれないぎりぎりの距離を保ちながら行動する。
3人は楽しそうに花を見て回ったりお土産を見たり食べ物を食べたりしてた。
ていうかまだあれだけ食べてまだ入るの!?天音!
私達は気づかれないように行動している為店に入ることはできない。
そんな状況で三人の行動を正確に把握できたのは翼と空君の能力のおかげ。
私は気づいた。
水奈は気づいているのだろうか?
三人のデートを尾行するという事に捕らわれて当初の目的を忘れてないか?
この二人は尾行という行動すらデートにしてしまっている。
その証拠に二人は手をつないで楽しそうに交わす言葉はないけど心で通じ合ってる。
私は気づいたがゆえに空しくなってきた。
そして大地達のデートは終盤を迎える。
花のアーチの下にあるベンチ。
3人はベンチに腰掛け記念にと交互に写真を撮っている。
天音と粋はは密着していた。
その様子を4人で見守っている。
天音ちゃんは何かを期待しているようだ。
その事は遠めに見ていても分かった。
水奈も勘づいたらしい。
気づいてないのは大地と粋だけ。
そして水奈がしびれを切らした。
「何やってるの二人とも!」
翼達の制止を振り切り三人に接近する。
「い、いつからいたの?」
驚く大地。
「最初っから見てたよ!お前それでも男!?こんなムードでキスも要求できないの!?」
「こんなに人が多い所で無理だよ!」
「折角場所をセッティングしてもらえたんだからもっとアピールしなさい」
「多田さん達に見られてるのにしろっていうの!?」
「見てなかったらしないで逃げるでしょ!」
天音が二人に愛想を尽かしたら計画が崩れてしまう。
大地と水奈の口論が続くと天音ちゃんが立ち上がった。
翼にスマホを渡す。
「翼、写真撮って」
そう言うと大地の腕を引っ張ってベンチに座らせる。
翼は感づいたようだ。
「じゃあ、撮るぞ!はい、チーズ!」
天音はまず大地と密着して写真を撮ってもらい、その後に粋とも撮る
満足そうに翼からスマホを受け取ると写真を確認するとそれを大地と粋に送る。
「記念にとっとけ」
そう言って笑う天音ちゃん。
まあ、結果良ければすべてよしか。
今日はこれで終わりだと思っていた。
だけど、それだけじゃ済まなかった。
天音ちゃんが言う。
「空は誰と撮るの?」
水奈が主張する。
ここで無理に主張すると翼と関係がこじれるんじゃないか?
そう悩んでる私の顔をみて翼は言った。
「天音、3人分お願いしていいかな?」
そこに空君の意思はなかった。
水奈と翼が撮ると次は私の番。
天音ちゃんが私にスマホを渡すように要求する。
躊躇う私に翼は言う。
「写真くらいで文句言わないよ。私と空はそんな関係じゃないんだから」
写真の一枚や二枚で揺らぐ間柄じゃない。
翼はそう言う。
翼の言葉に甘えて撮ってもらうことにした。
空君とベンチに座る。
空君の体が密着する。
空君は3人目だから何とも思って無いようだ。
これでいいの?
このままでいいの?
翼に同情されてるだけで私はいいのか?
父さんは言ってた。
「ラーメンはのびないうちに食え」
決めた。
「じゃあ撮るよ……はい、チーズ!」
その瞬間私は初めてのキスを空君にあげた。
空君は驚いてた。
私の翼に対する細やかな抵抗。
私だってやるときはやるんだよ!
そう主張した。
翼は当然怒ると思った。
だけど翼は何も言わなかった。
キスの一つや二つくらい何ともない。
そう言いたいのだろうか?
悔しい。
けれど言ってた。悔しいからこそ人は成長すると。
翼にはできないけど私に出来る事。
必ず翼から空君を奪い取ってみせる。
写真を撮り終えると親たちと合流して帰った。
帰りの車の中。
天音は疲れたのか眠りについている。
天音は一体どちらを選ぶのだろう?
今日の大地達の行動で判断できるのだろうか?
そう思いながら窓にもたれかけて眠りについた。
(4)
突然の美希さんからのキス。
まずい!
こんな事する子じゃないと思っていたのに。
でも翼は何も言わない。
心の中も穏やかだ。
なぜだろう?
その事を考えながら歩いていた。
「考え事しながら歩くと危ないよ」
翼が言う。
「答えは帰りに教えてあげる」
翼が僕の心にそっと教えてくれた。
天音は帰りも美希さん達の車に乗っていた。
僕と翼は最後部席に座る。
粋は栗林家の車で帰るらしい。
そのまま家に帰るのだろう。
そして車が走り出した。
走り出すと同時に水奈は親子共に眠っている。
それを確認すると翼は言う。
「知りたいんでしょ?答え」
僕はうなずいた。
すると翼は突然僕とキスをする。
母さんたちも驚いていた。
「まだ冬夜さん心の準備出来てないみたいだからこっそりやりなさい」
やったらダメと言わないのがさすが母さんだと思った。
「これが答えなの?」
翼に聞いたらうなずいた。
「口実が出来たから」
「口実?」
「そう、空とキスする口実。空の唇が誰かの唇で染まったら私の唇で上書きしてあげる」
そう言って翼は微笑む。
「翼も頑張ってるのね」
母さんも笑ってる。
父さんにはショックだったみたいだ。
運転がやや乱れてる。
「運転替わりましょうか?」
母さんが言う。
「だ、大丈夫」
動揺を隠しきれない父さん。
「ねえ?空」
「どうした?」
「私達は双子の姉弟、恋人とは言えやれることは制限される。結婚はできないし子供も作れない」
「そうだね」
「でもやれることだってある」
「例えば?」
「そうね、近親相姦自体は罪に問われないそうよ」
翼が言うと車が大きく乱れた。
翼が笑ってる。
「翼、それはまだ早いわ。もう少し心も体も育ってからにしなさい」
やっては駄目と言わないのが流石母さんだった。
父さんはショックが大きかったのか何も言わない。
今夜もおじいさんと飲むのだろうか?
「とりあえず今できることをやってもいい?」
翼が聞いてきた。
「うん」
僕がそう言うと翼は僕の肩にもたれかかる。
「一度やってみたかったんだ。こそこそ隠れずに堂々といつの日かできるといいなって」
翼の言ってることに嘘はなかった。
翼の心は幸せに染まっていたから。
翼は眠りにつく。
そんな翼の暖かな心に触れながら、僕の心も翼の優しさに包まれていた。
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