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未来導く光
(1)
子供たちを連れて街に来ていた。
天音は江口家のパーティの呼ばれているのでいない。
空も今日は水奈とデートのようだ。
夕食の後中央通りを歩いて花火大会の会場まで歩く。
冬吾達が疲れると僕がおんぶしてやる。
会場に着くと混雑していた。
冬吾達は愛莉と一緒に出店に向かう。
僕の分も買ってきてくれた。
それを食べながら花火が打ち上がるのを待っていた。
打ち上げが始まると子供達も空を見上げている。
音に怯えて泣く冬莉。
「大丈夫だよ」と冬莉を宥める冬吾。
花火が終ると僕達はバス停に向かう。
冬吾と冬莉は僕と愛莉の背中で眠っていた。
バスに揺られて家に帰る。
子供たちは順番に風呂に入って部屋に戻る。
僕はリビングでテレビを見ていた。
バラエティ番組。
父さんは司会が気に入らないと文句を言っている。
僕も正直好きじゃなかった。
番組が終わりとニュースが始まる。
物騒な話題ばかりが流れる世の中。
もうすぐU-20女子W杯が始まる。
水島桜子の娘、みなみも出場する。
冬吾は観たいと言っていた。
幸いにも時差的に夜のゴールデンタイムにある時間だったので許可した。
夏休みだし少々夜更かししてもいいだろ。
そう愛莉に助言してやった。
もっとも我が家でサッカーに興味があるのは冬吾だけなんだけど。
家事を終えた愛莉が隣に座る。
「お疲れ様」
そう愛莉に声をかけてやる。
愛莉は微笑んで返事した。
深夜番組も特に面白いのが無いし何より僕は明日から仕事だ。
早めに寝る事にする。
「天音は?」
寝室に入ってベッドに入る時に愛莉に聞いた。
「今日は大地君とお泊りみたいです」
「そうだったんだ」
父親というのは子供の事情にどうしても疎くなる。
日頃仕事で子供たちと接する機会がないから。
子供達も年頃みたいであまり親と話さなくなるから。
うちはそれでも夕食の時に子供たちが一日の出来事を話してくれる。
それを叱りつける事はしない。
ただ、何があったのかを聞く。
僕の子供達は法に触れるような真似はしない。
深夜に遊んだりしているけど、カラオケくらいだ。
空はそろそろ徹夜で騒ぎたい年頃だろう。
それでも今年は受験があるからと控えめにしている。
「20歳になったらまず父さん達と一緒に飲む」
空はそう言ってくれた。
精一杯の親孝行をするんだと言っている。
あの二人はきっと大丈夫。
だから高校卒業したら、大学卒業したらとっておきのプレゼントをしてやろうと思う。
「楽しみにしとけ、俺もそうだったから」
父さんがそう言う。
父親にとって息子と酒を酌み交わすのは特別な意味があるらしい。
今ならなんとなく分かる気がする。
腕の中で眠っていた子供が大人になって酒を飲める歳になる。
今でも、空と天音は昔の僕と愛莉を見ているように育っている。
どれだけ嬉しい事だろうか。
法律上ではあの二人はもう成人だ。
ここまで素直に育ってくれた。
それだけで十分だった。
「お疲れ様です」
愛莉がそう言ってくれる。
「まだまだこれからだよ」
天音が白いドレスを着る時まで。
冬吾や冬莉が成人する時まで。
苦労もするだろうけどその先に喜びがあることを知ったから頑張れる。
それに空は僕の会社を継ぐ意思があるらしい。
2人に色々と教えてやらなければならない。
あの子達にちゃんとバトンタッチするまで頑張らないと。
空は今自動車学校に通っている。
順調に言っているみたいだ。
大学生が丁度免許を取る時期だから混んでるみたいだけど。
「あの子たちもいよいよ僕たちの手から離れるんだね」
「寂しいですか?」
愛莉が聞いた。
「寂しくないといえば嘘になるけど、でもちょっとほっとしてる」
「そうですね、立派に育ってくれました。自慢の子供達です」
そしてそれは僕のおかげだという。
僕も愛莉のおかげだよと返す。
とはいえ、身分はまだ学生。
ここからが最後の仕上げだ。
そして僕達が動けなくなる時まで見守ってあげなくちゃならない。
2人の未来を導く光にならなければならかった。
(2)
空が迎えに来た。
私は化粧台の鏡で最後の確認をすると部屋を出て玄関に向かう。
「じゃ、2人とも気をつけてな」
なんだったら今日帰ってこなくてもいいぞ。
母さんはそういう。
「ちゃんと送り届けますので……」
空は真面目だ。
誠実という言い方もあるけど。
「うちの娘に何か不満でもあるのか!?神奈がちゃんと指導しているはず……いてぇ!」
「まあ楽しんで来い」
父さんと母さんは相変わらずだ。
父さん達も誠司達を連れて花火を見に行くらしい。
バス停でバスを待つ。
バスに乗ると空と話をしていた。
「自動車学校の方はどうだ?」
「とく問題ないよ、学科で引っ掛け問題に騙されるくらい」
順調なのは順調らしい。
空は実技は「君達親の車運転してたりしてたろ?」と怪しまれるほどだったそうだ。
美希も善明も通っている。
順調にいけば夏休みが終わる前には免許が取れるだろう。
部活をしているやつら、大区工業組は若干遅れるらしい。
部活をしてる連中はだいたいインターハイに出場するから。
そしてその後に国体を控えてるやつはもっと遅くなる。
街にちょっと早めについて夕食を食べた。
中央町にある店を空が予約しておいたらしい。
お酒は飲めないのでソフトドリンクで乾杯する。
料理は美味しかったけど……。
「財布大丈夫なのか?」
私も少し出そうか?
「今日は特別だとちゃんと両親から貰って来たよ」
空はそう言って笑った。
夕食を食べると会場に向かう。
その間も話をしていた。
しっかりと手を繋いで歩いた。
麗華と光太は会場近くのラブホから見るらしい。
18歳になったとはいえ無茶をする。
花火会場に着いてからも二人で話をしていた。
「水奈は高校生活楽しい?」
「ああ、祈達もいるから」
そんなに中学校と変わらないと説明する。
「そっか。まあ、大体防府に行くよね」
「ああ、おまけに皆近所にいたんだぜ」
どこから現れたのか分からないくらいだ。
花火が始まった。
私達はじっと花火を観ていた。
一言も話さないまま見とれていた。
花火が終ると皆帰り出す。
バスに乗って家に帰る。
空は私を家まで送ると帰って行った。
家に入ると「早かったな」と母さんがいう。
22時過ぎてるんだけどな。
「早く風呂に入りなさい」
母さんに言われた通り風呂に入って部屋に戻る。
部屋に戻ると少しずつでも宿題を進める。
中学と高校の違い、それは必ず進級できるわけではないという事。
成績が悪かったら留年してしまう。
中学でも進級できない場合があるけどそれは出席日数が足りなくて生徒が望んだ場合だ。
さすがに留年は避けたい。
天音達は夏休みの宿題など7月に終わらせてしまうらしいが私にはそういう才能は無い。
高校の夏休みの宿題は面倒なのが多い。
それでも空に助けてもらってるから、大分進んでるほうだ。
楽そうな社会の宿題ですら「日本国憲法全文写してこい」とかいう学校もあるそうだ。
前文じゃなくて全文。
そんなものに何の意味があるのかわからないけど「やってこなかったら留年」と言われたらやらざるを得ない。
高校は卒業するのが当たり前。
高卒は最低条件。
だけど、形式は「私達は勉強したいから通ってる」だ。
義務教育の様に嫌々行くなんて言い訳は通用しない。
「いやだったらやめれば?」と普通に言われる。
不登校も文句を言われることはない。
ただ出席日数が足りないと進級できないだけ。
勉強の内容もやはり難しくなる。
進学クラスだから塾に通ったり予備校に行く者もいる。
盆休みにはキャンプに行く。
盆休みが終れば夏休みはすぐ終わってしまう。
だからそれまでに片づけたい。
何の憂いもなくキャンプを楽しみたい。
それでも日付が変わる前には寝る。
生活リズムを崩したくないから。
朦朧とした頭で勉強するよりは朝スッキリしているうちに勉強した方がいい。
空に「おやすみ」と送ると返事が返ってくる。
それを見て私はベッドに入る。
そして週末は空とデートする。
その代わり平日はきちんと予定を立てて勉強する。
それが空との約束。
そんな日を続けていた。
(3)
「皆揃ったか?じゃあ、行くぞ」
渡辺君が言うと僕達は酒井リゾートフォレストに行く。
自動車学校があるので空は参加しない。
その代わりいつも海外に行ってた純也と茜が参加する。
遠坂家は相変わらずこの時期は旅行に行ってる。
酒井リゾートフォレストに着くと渡辺君が子供たちに説明している。
説明が終ると自由行動になる。
フリーパスのチケットを持ってゲートに並ぶ。
僕達はゆっくりと入っていた。
冬吾達がアトラクションで遊んでいるのを観ていた。
昼になるとジンギスカンを食べながら話をしている。
「これで飲めないとか拷問だぜ!」
「夜まで我慢しろ!」
多田夫妻がそんなやりとりをしている。
水奈は来なかった。
空と一緒にいたいそうだ。
「週末にデート行くからいい」
水奈はそう言っていた。
昼食を終えると再び園内を周る。
そして夕方頃になるとゲートに集まり車に乗り込む。
キャンプ場に移動してテントの設置を始める。
夜になるとBBQを始める。
飲んで食べて騒ぐ時間。
冬吾達も食べまくっていた。
誠司はどちらかというとジュースを飲んでいたけど。
肉が無くなるとそこで宴は終わる。
子供たちが花火をしているのを見ながらビールを飲んでいた。
花火が終ると子供たちはテントに入る。
そして酒と話題が尽きる頃僕達も寝た。
朝起きてテントを出ると相変わらず酒井君と石原君が早い。
挨拶をして顔を洗う。
2人は悩み事があるらしい。
それぞれの子供、善明と美希を恋人と結婚させるつもりらしい。
「どうせ結婚するんだから多少早くても問題ないでしょ?」
「せめて同棲させてしばらく様子を見てみたほうがいいんじゃない?」
「あの二人では不安だといいたいの?私達だって学生婚したでしょ」
「大学に入ってすぐはしてないよ。それに2人とも仕送りだけで生活するんだ。僕達はバイトしてきた。全然違うよ。2人とも自立してる気分にはなれない」
せめて二人が20歳になるまで待つ。
交渉の末それで妥協したらしい。
どうせ18で結婚したからといって子供はすぐ作れない。
育児しながら授業を受けるなんて到底無理なのは恵美さんや晶さんが一番知ってるんじゃないのか?
そう言って二人を納得させたらしい。
大変だな。
「片桐君のところはどうするんですか?空と水奈」
石原君が聞いていた。
「水奈が大学卒業してからじゃないかな」
「普通はそうですよね」
石原君はそう言って笑った。
「片桐君も娘の花嫁姿見たいですか?」
「それは大地次第だろ?」
「……天音の事は大地に責任もって交際させますので」
そんな話をしていると皆起きて来た。
朝食をとり、片づけをすると地元に戻る。
ファミレスで昼食を取ると解散した。
家に帰ると誰もいない。
キャンプ道具を片付ける。
大分道具が増えた。
使って無いのは空達にやるとするか。
片づけが終ると家に入る。
子供達は部屋で過ごしているようだ。
「冬夜さん、今日はお寿司でいいですか?昨日お肉食べたし」
「ああ、いいよ」
愛莉とそんな話をしていると空が帰って来た。
今日は高速教習があったらしい。
光吉から別府までの間を高速を走る。
教習者を煽るという無謀な輩がいるらしい。
2人は全く気にも止めず80キロを維持したそうだ。
そんな奴に付き合って単位取れなかったらそれこそ馬鹿だ。
救急とかも終わったらしいし順調に進んでる。
後は試験を受けるだけだと言っていた。
空は焦るあまりに引っかけ問題にすぐ引っかかるらしい。
試験は〇×で答える問題。
「してもいい」とか「してはいけない」と語尾を変えるだけで正解が変わる。
過去問を解いているだけだと思い込みを生じて引っかかってしまう。
空はそれで失敗しているそうだ。
皆揃うと愛莉が寿司の出前を取る。
夕食が済むと順番に風呂に入って部屋に戻っていく。
父さん達とビールを飲みながらテレビを見ていた。
家事を終えた愛莉も混ざる。
「お疲れ様」
愛莉のコップにビールを注いでやる。
「ありがとうございます」
愛莉はそう言ってビールを飲む。
番組が終ると「先に寝る」と言って父さん達が部屋に戻る。
父さんももうすぐ定年。
父さん達はまだ大丈夫と言ってるけど、老後の世話は愛莉に任せる事になる。
父さん達はそれでいいとして愛莉のおじさんやおばさんはどうする?
そんな話を愛莉としていた。
将来は純也と茜が見てくれると愛莉は話を聞いているそうだ。
それに何かあったら直ぐに駆け付けられる距離だから気にしないでいいと愛莉は言う。
話をしていると日付が変わっていた。
「私達も寝ましょうか」
愛莉が言うので僕達も寝室に行くとベッドに入る。
キャンプの疲れと家事の疲れですぐに眠る愛莉。
明日一日はゆっくりさせてやろうと思った。
(4)
僕は免許センターに来ていた。
善明や学も一緒だった。
手続きをして、適性検査を受けて受験料を払って試験の時を待つ。
教本を読みながらパンを食べていた。
似たような問題が出たときに思い込みで間違えてしまう可能性があるから。
駐停車禁止の区別や交差点の優先順位等を確認するだけにしておいた。
アナウンスが流れる。
指示された部屋に入る。
高校入試も学科試験もそんなに変わらない。
まず落ちないと言われてる学科試験だけど100問中90問は正解していないといけない。
問題用紙と回答用紙が配られる。
合図が告げられると一斉に問題を解き始める。
思い違いの無いように一問ずつ確認していく。
だけど制限時間は50分。
1問にそんなに時間をかけてる余裕はない。
暫くすると一番最初に退室したのは僕だった。
「ただの〇×で何度も見直してもろくなことがない」
父さんがそう言ってたから。
学や美希、善明は時間ぎりぎりまでねばったようだ。
「あんなに早くて大丈夫なの?」
美希が聞くと余裕でうなずいた。
結果は1時間も経たずに発表される。
皆合格していた。
13時から説明と免許証の発行があるらしい。
時間に余裕があったので、ショッピングモールまで歩いて昼食を食べた。
時間になると部屋に入る。
30分程度の講習がある。
その後免許証が1人1人手渡される。
そして自動車学校に戻り、家に帰る。
父さん達に免許証を見せた。
「お疲れ様」
父さんがそう言った。
その週末お爺さん達と車屋さんに車を選びに行く。
買う車種はきめてあったのだけど、綺麗な車を目の当たりにすると悩んでしまうもの。
それでも最初に決めてあった車を選んだ。
ちょっと大きな4WDのシルバーの車。
手続きをしている間に実際に運転席に座らせてもらう。
教習者よりも車高が高くて見渡しがいい。
中もゆったりしていた。
家の近所は狭い道が多いから大変じゃないか?とお爺さんは心配していたが。父さんはその心配はしてないみたいだ。
納車までは1カ月くらいかかると聞いた。
色々オプションをつけたから仕方ない。
リビングで天音達と持って帰って来たカタログを見ている。
茜も一緒に見ていた。
改造する気でいるらしい。
「せめて普通に走れる程度でお願い」
僕は茜に言っていた。
あとは買い物に出かけるくらいの使用頻度。
どういう風に整備したりいじるか茜は考えていた。
「空の車はいつ頃納車されるの?」
「一ヶ月くらいかかるって」
フルにオプションをつけても僕が買った車の3分の1の値段。
その夜善明たちにも聞いていた。
善明と美希は海外から取り寄せなので紅葉狩りにぎりぎり間に合うかどうからしい。
それでもかなり急がせてるらしい。
最大で1年かかる車なんだそうだ。
もう一台の方はもっとかかるらしい。
そっちはどう見積もっても高校卒業後になるそうだ。
しかも維持費がとんでもなくかかるらしい。
よくそんな車買う気になったな……。
車が来たら父さんが隣に乗ってもらって試乗しなさいと母さんが言う。
納車されたら最低でも週に1度は運転しなさいと父さんが言う。
納車されるまでは父さんの車を使いなさいと言う。
翌日父さんの車を借りて水奈とドライブに行った。
近場をちょっと回っただけだけど。
水奈は喜んでいた。
夜間走行も試して置いた。
自分で運転するのと後部座席にいるのとでは全然違う。
そうして徐々に車に慣れていく。
でもどうせ自分の車が来たらまた慣れなくちゃいけないんだけど。
父さんが言ってた「アクセルを踏み込んだら車が体の一部になる」の意味が分かった気がする。
家に帰ると天音が「今度私も乗せろ!後部座席で我慢してやるから!」と言う。
「車が来たら乗せてやるよ」
僕はそう答えた。
その日が来るのを待ち遠しく感じていた。
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