いつか辿り着くから

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いつか辿り着くから

(1) 今日は毎年恒例の渡辺班の紅葉狩り。 いつもの大吊橋に行く。 空と水奈は友達と耶馬渓に行くらしい。 空の運転なら大丈夫だろう。 「こうしてこれから皆で遊びに行くことがなくなるんでしょうね」 愛莉が寂しそうに言う。 「そうだね」 年末は家で受験生らしく年を越すそうだ。 クリスマスは友達で騒ぐと聞いた。 イブは2人で夕食にでも行っておいでと勧めた。 晶さんからもらったホテルの招待券がある。 2人は喜んでいた。 イブは天音も大地と過ごすと聞いた。 その天音は今車の中で寝ている。 茜は車の挙動を確かめているようだ。 純也と冬吾は景色を楽しそうに見ていた。 冬莉は一生懸命スマホで写真を撮ってる。 高速を降りると近くのコンビニに寄る。 最近は、高速で飛ばして奥さんに怒られるという構図はみれなくなった。 「そろそろ体力の限界を感じてね」 木元先輩がそう言ってた。 運転は予想以上に疲れる。 限界もわからないような危険な運転をしてる集中力はそんなに続かない。 皆その事を分かってきたようだ。 誠は違う理由があった。 プロのサッカー選手の卵。 そんな希望を乗せて危ない真似はしないと誓ったそうだ。 子供の存在はやはり大きい。 桐谷君ですら事故を起こしてから運転が変わった。 恋とも和解で来たようだ。 もう二度と同じ過ちは繰り返さないと誓ったそうだ。 恋は桐谷君に対して口うるさく言ってはいるものの世話をしているらしい。 亜依さんはそんな光景をみて安心して仕事が出来ると言っている。 もう以前のような喧嘩を見ることはないだろう。 買い物と休憩が済むと九酔渓を上っていく。 途中で渋滞に捕まる。 車が止まってる間に茜は写真を撮っていた。 冬吾も写真を撮っていた。 瞳子に送るんだろう。 渋滞を抜けると次は駐車場の空車待ち。 冬吾と天音と冬莉は早く夢バーガーが食べたいとわくわくしている。 車を止めると売店の前に皆集合した。 「2時間後にここに集合で」と渡辺君が言うと3人は夢バーガーを食べに行く。 天音ももう高校生。 冬吾達もしっかりしてるし3人で大丈夫だろう。 僕達は吊橋を渡る。 橋を渡ると皆で記念写真を撮る。 毎年してる事。 そしてまた橋を渡って売店の前に行くと僕も夢バーガーを食べる。 その後にソフトクリームを食べて時間を潰すと予定の時間になる。 「この後はいつも通りで」 そういうと渡辺君の車を先頭にレストランへと向かう。 僕達は家族が多いので一つのテーブルを占拠してた。 昼食が終ると地元に帰る。 ファミレスで夕食をとるとみんな解散していく。 家に帰るとまだ空達は帰ってないようだ。 冬吾達が先に風呂に入る。 その間に茜や天音が風呂に入っていく。 そしれ僕が最後に入る。 風呂から出ると空達が帰っていた。 お土産を買ってきてくれたらしい。 2人は風呂に入ってそして自分の部屋に戻る。 時計は0時を回っていた。 明日は月曜日。 僕達もそろそろ寝ようと愛莉に言う。 厳しい母親だけど僕の前では愛おしい妻に切り替わる。 何年経っても僕に甘えてくる。 そんな愛莉を優しく受け止めて夜を明かした。 朝起きると愛莉がベッドにいなかった。 忙しい主婦の時間になったようだ。 皆それぞれ慌ただしい朝を迎える。 そんな皆を見守りながらパンを齧っていた。 (2) 水奈の家に着くと水奈に連絡を入れる。 それからしばらくして水奈と水奈の両親が出てきた。 「いい車乗ってるじゃないか」 水奈の父さんに言われた。 「だけど一つだけ不満がある」 なんだろう? 「広さは申し分ない。だがスモークくらい貼ってやるくらいの気遣いを見せて良いんじゃないか?」 俺の父さんも同じ事言ってたけどなんでだ? 「言っとくけど水奈は純粋な子だ。決して露出狂なんかじゃない……いてぇ!」 水奈の母さんにどつかれていた。 「気にしなくていいからな。ただ水奈を大事にしてやってくれ」 水奈の母さんに言われた。 「わかりました」 水奈が助手席に座りシートベルトをすると挨拶をして集合場所に向かう。 「……あの馬鹿の言う事気にしなくていいからな」 「気にするも何も何を言ってるのかさっぱりわからないんだけど」 「それならそれでいい」 集合場所の光吉インター付近のコンビニに到着すると皆で相談していた。 高速を利用するのと国道を走るのとでは30分くらいの差がある。 しかし俺達はまだ高校生。 高速料金をなるべくなら節約したい。 どうしようか男性陣が悩んでいる間に女性陣は買い物を済ませていた。 今の時間から考えて早めに紅葉を見て昼飯を食べて帰りは国道でゆっくり帰ってくればいい。 そういう結論に達した。 車に乗り込むと光太が先頭を走る。 高速に入ると皆一斉に飛ばしだす。 僕は最後尾を走っていた。 「何で追い抜かないんだ?」 水奈が訪ねて来た。 「大切な水奈を乗せて馬鹿な真似できないだろ?」 「私なら平気だ、怖くないから」 「僕は事故を起こして水奈を傷つける事が怖いんだ」 決して遅い事はない。 周りの車にあわせて適度な速度で走っている。 そう説明すると水奈は納得した。 「空は優しいんだな。父さんと全く違う」 「女子ってやっぱり飛ばしてる方がかっこいいとか思うの?」 「まあ、そういうのもあるかな。でも空の運転は安心できるから好きだ」 「それでいいよ。リラックスして。なんなら少し席を倒してもいいよ。横にレバーがあるから」 そう言うと少しだけ席を倒した。 「前から思ったけど、この車すごく座り心地良いな。なんかふわふわしてる」 「まあ、そういう車を選んだからな」 高速は勾配が激しい所もあるけど基本直線だ。 日出ジャンクションを越えるとひたすら山道になる。 「何か聞きたい曲とかあるなら聞いててよ」 そう言うと水奈はシートを起こしてバッグからスマホを取り出すと、USBケーブルを繋ぐ。 流れてくるのは1970年代の洋楽だった。 もっとメタルとか激しいのを選んでくると思ったが。 「眠くなったりしないか?」 水奈が聞いていた。 「大丈夫、水奈の好みってこういうのなんだ」 「空はどんなのが好きなんだろうって天音に聞いたりしてたんだ。。気に入って貰えるといいんだけど」 水奈は嬉しそうだった。 玖珠インターを降りると国道を走っていく。 耶馬渓に着くと先に光太達が着いていた。 「えらいゆっくりしてたな」 「光太が速すぎるんだよ」 僕達の後ろにまだいたらしい。 善明の車だ。 初心者マークを張ってるわりには高級な車。 まだ納車が終わったばかりで慣らし運転すらしてなかったらしい。 それで遅かったのだという。 幸い外車の高級車だったので誰も煽ったりしてこなかったらしい。 そのあと俺達は紅葉を見ながら初めて青の洞門をくぐった。 これを人の手で掘ったのかと思うと嫌でも感動する。 水奈はつまらなさそうだったが。 「もっとテーマパークの方が良い?」 「いや、戸惑っているだけだ」 ちょっとだけ背伸びしている感じがしてどう表現したらいいか分からないらしい。 他の女性陣は皆写真を撮ったりしてはしゃいでいた。 一通り見ると車に戻って相談する。 昼ごはんどこで食べる? ちゃんと考えてるよ。 しっかり何が美味しいのか調べて来た。 そんなに離れていない場所にある蕎麦屋に向かった。 空はあっという間に平らげる。 「やっぱり蕎麦じゃ腹膨れないか」 そんな事を言っていた。 帰りにから揚げ屋に寄ってから国道を走って地元に帰る。 「私も18になったら免許取るんだ」 「もう買う車決めてあるのか?」 「ああ、天音が買う車決めた時から決めてた」 それは某走り屋漫画でよく出る車だった。 「私が免許取ったら今度は空が隣に乗ってくれる?」 「わかったよ」 若干怖いが仕方ない。 「……なんてな。空と一緒にいる時は空に運転任せるよ」 私は助手席専用だ。 水奈はそう言った。 「1人で運転する時も気を付けてね」 「母さんにも同じ事言われた」 ゆっくり帰っていたので地元に着く頃には夜になっていた。 ファミレスで夕食を食べる。 「次はクリスマスだな」 光太が言う。 それで今年遊ぶのは最後だ。 あとは大学入試まで遊ぶのはお休み。 皆必死に受験勉強しているだろう。 その代わり卒業して皆合格したら卒業旅行に行こう。 修学旅行は北海道だったから卒業旅行は沖縄行こう。 「五月の連休も予定空けておいてよね」 美希が言う。 皆で別荘に泊ろうという。 善明は苦笑いしていた。 何があるんだろう? 夕食を食べ終わると皆彼女を家に送り届ける。 僕も水奈を家に送り届ける。 「今日は遅くなってごめんね」 「気にするな。こっちこそありがとうな」 「じゃあ、今日はゆっくり休んで」 「さっき言ってた事なんだけど……」 水奈は何か言いたい事があるらしい。 「どうした?」 「クリスマスは予定あるみたいだけどイブはどうするつもりなんだ?」 「……ちゃんと水奈とデートするって予定入れてあるよ」 「そっか。じゃあな」 「おやすみ」 水奈が家に入るのを見ると車を出発させる。 そして家に帰る。 父さんがリビングでテレビを見ていた。 「意外と早かったね」 父さんがそう言った。 「これでも遅くなったと思ったんだけど」 「長時間の運転で疲れただろうから、ゆっくりお休み」 僕は風呂に入って部屋に戻ると水奈にメッセージを送って寝る。 水奈から返事が返って来た。 まだ起きてたんだな。 ベッドに入るとすぐに眠れた。。 高校生活最後の仕上げまであとわずかとなっていた。 (3) ショーウィンドウもクリスマスモードに入っていた。 クリスマスのバーゲンセールもやってる。 美穂たちの買い物に付き合っていた。 コートやらブーツやら色々物色している。 紗理奈も何か目ぼしいものはないかと漁っていた。 そんなもみくちゃにされた服を着るのか?と思っていたけど。 買い物が終るとバス停に向かう。 デパートの前からも乗れるけど定期が使えない。 だから歩いて駅前に移動していた。 途中で洋菓子屋さんがある。 洋菓子屋もクリスマスケーキの予約とかで忙しいのだろう。 すると一人の女子生徒が立ち止まった。 相馬絢香。 私達の中でも彼氏がいないというちょっと寂しい組だ。 もちろんケーキに目がくらんだわけじゃない。 ケーキを作っている職人に目が行ったみたいだ。 一目惚れ。 誰が見ていても分かってしまう、人が恋に落ちる瞬間。 私もその職人を見た。 まあ、常識的に考えて年上だ。 爽やかな好青年。 彼女くらいいるんじゃないのか? だけど誰も「やめとけ」と言わない。 やってみなきゃわからないことだってある。 「絢香、ついでだからケーキ見ていこうぜ」 そう言って絢香の手を引っ張って店に入る。 「いらっしゃいませ」 閉店間際で片づけで忙しいみたいだ。 「お前が何か言わないと始まらないぞ?」 そう言って絢香の背中を押してやる。 「あの!」 「はい、どれをお求めですか?」 店員が聞き返した。 「あなたを私に下さい!」 絢香が言うと店員が驚いている。 絢香は続けてこう言った。 「一目惚れです。付き合ってもらえませんか?」 「お客様……この場ではちょっと困ります」 「ダメですか?」 「君、自転車で来たの?」 「いえ、バスです」 「じゃあさ、もうすぐ店閉めるから隣のコーヒショップで待っててもらえないかな?」 「わかりました」 ただ告白して帰ったんじゃ悪いから私達がケーキをいくつか買う。 店を出ると絢香は私達と別れてコーヒーショップに入った。 「天音は脈ありと分かっていて絢香を後押ししたの?」 美穂が聞いてきた。 「そんなわけねーじゃん」 ただ言いたい事言えずに年越すのも嫌だろ? スッキリして新年迎えた方がいい。 ただそれだけ。 後はなるようになれ。 きっと神様も応援してくれるよ。 (4) コーヒーショップで1時間近く待っているとさっきの店員がやって来た。 無理言って定時で帰らせてもらったらしい。 冷静に考えたらこの時期に洋菓子屋さんが暇なわけがない。 彼に迷惑かけたかな。 私服の彼も素敵だった。 彼はコーヒーを買ってきて私のテーブルの向かいに座った。 コーヒーを一啜りすると先に彼の方から話しかけてきた。 「君、名前は?俺は東山吉生」 「私相馬絢香で。絢香でいいです」 「じゃあ、俺も吉生でいいよ。絢香は今いくつ?その制服桜丘だよね?」 「16歳。今高1です」 「16歳か……同い年の子に好きな子とかいないの?」 遠回しに拒絶されてるのだろうか? 「いません……あの、私じゃ迷惑ですか?」 普通に考えたら迷惑だろうな。 「あ、いや。そういうわけじゃないんだ。ただ俺22だからさ女子高生からしたらおっさんなんじゃないかって」 「そんな事無いです。素敵な方だと思います」 「ありがとう。で、俺を選んだ理由は?」 単なる一目惚れだと告げた。 偶然店の前を通って偶然吉生をみかけただけ。 「あの、彼女がいるとか私じゃ子供だとかそういう理由ならはっきり言ってください。諦めますから」 諦めるしかないんだろうな。 「大丈夫。心配するような事はない。ただこれまでそういう交際とかしたこと無かったから」 一途にパティシエの道を歩んできたらしい。 世界的な賞も受賞したんだとか。 「私、吉生の邪魔になる?」 「絢香は何でも否定的に捕らえるんだね。違うよ。僕はもっと別の事で悩んでる」 別の事? 「とはいえ、悩んでいても仕方ないよね。家まで送るよ」 そう言って吉生は席を立つ。 そして吉生の車まで歩いて車に乗り私の家に向かう。 私の家の前に車を止めると何故か吉生も車を降りて呼び鈴を鳴らす。 「おかえり……隣の方は誰?」 母さんが訝しげに吉生を見ている。 吉生は自己紹介して事情を説明する。 それを聞いた母さんはとりあえず家に上がってくださいと言った。 リビングには父さんと母さんがいる。 吉生は再び事情を説明した。 「いきなり押しかけてすみません。ただこういう事はきちんとしておいた方がいいと思ったので」 吉生は私と真剣な交際をしたいと言った。 それが答えなんだ。 私も吉生と一緒に両親に頭を下げた。 「まあ、そういう事ならしょうがないですね。誘ったのは娘の方らしいし」 父さんはあっさり承諾する。 父さんも吉生なら大丈夫だと思ったのだろう。 「ありがとうございます。不慣れなので失礼をするかもしれませんがよろしくお願いします」 「こちらこそ娘をよろしく頼むよ」 昔なら結婚できる年齢。娘が選んだ男性なら文句は言わない。 父さんはそう言った。 挨拶を済ませた吉生は家を出る。 「待って吉生!」 慌てて吉生を呼び止める。 「連絡先くらい交換しないと」 「あ、そうだね。ごめん。本当に慣れてないんだ」 連絡先を交換するとじゃあまたと言う。 まだ駄目だよ。 車に乗り込もうとする吉生の手を取るとキスをする。 吉生にとっては初めてだったそうだ。 「じゃあ、気を付けて帰ってね」 「ありがとう、じゃあ。またね」 そう言って吉生は帰って行った。 私も家に戻ると夕食を食べて風呂に入って部屋に戻ると皆に連絡する。 「おめでとう、よかったね」 そんなメッセージで溢れていた。 それからしばらくメッセージをやって最後寝る前に吉生に「おやすみ」とメッセージを送る。 「おやすみ」と返って来た。 朝になると「おはよう」とメッセージを着信していた。 返信すると制服に着替えて準備をして家を出る。 バス停には皆が待っていた。 私を見るなり「今度から美味しいケーキ食えるな!」と天音が言う。 「友達に割引してもらえるように言っとくよ」 「頼む!」 そしてバスが来てバスに乗って学校に向かう。 クリスマスはきっと忙しいだろうけど。 年末くらいは一緒にいられるといいな。
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