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祈りの声は叫びに変わる
(1)
僕は水奈とホテルのレストランにいた。
今日はクリスマスイブ。
父さん達からのプレゼント。
親の同意書も書いてもらってる。
高いクリスマスディナーを食べていた。
さすがにアルコールは断ったけど。
2人で雰囲気と料理を楽しんで部屋に戻る。
バスルームは十分な広さがあった。
2人で交互にシャワーを浴びるとベッドに寝そべってテレビを見ていた。
クリスマスアイスショーをやっていた。
小さな頃からアイススケートをやっている少年少女だ。
父さんもアイススケートが上手いと母さんが言っていた。
明日は皆で騒ぐからと着替えもちゃんと準備している。
「空、夜景が綺麗だよ!」
水奈が外を見て言っている。
僕は水奈の隣に立って夜景を一緒に見ていた。
今夜は聖夜。
そして夜景を眺める2人。
2人の視線はやがてお互いを見る。
そして……。
薄暗い照明の中で僕達は眠っていた。
水奈は僕にしがみ付いている。
今幸せの絶頂だって教えてくれる。
「やっぱり空も男なんだな。ごめん、うちの馬鹿のせいで……」
「僕の家でも無理なんだから同じだよ」
「そっか……じゃあ、空が大学生になるまで我慢するしかないな」
そう言って水奈は笑ってた。
明日遊んだら、入試が終るまで遊ぶのは封印。
そう決めていた。
受験生らしく過ごそう。
その代わり受験が終ったら皆で遊びにいこう。
それが最後になるかもしれないから。
就職するもの。県外の大学に進学するもの。
皆それぞれの道を行く。
きっと皆で会えるのはもうないかもしれない。
それでも皆約束するんだろう。
「また会おう」って。
「私はずっと空の側にいてもいい?」
水奈が聞いてきた。
「あたりまえだろ?僕を一人にしないで」
「分かってる……絶対に離さないって約束したから」
どんな時でも2人で乗り越えよう。
そう誓いあって聖夜を過ごした。
(2)
大地と丘の上のレストランに来ていた。
夜景が綺麗なレストラン。
どうせ明日も大地とパーティだ。
今年も大地はドレスをプレゼントしてくれた。
花柄のドレス。
首元が寂しいかもというのでネックレスもプレゼントしてくれた。
夕食を楽しんだ後は大地の家に向かう。
お風呂に入って大地の部屋でテレビを見て過ごす。
定番の音楽番組を見ていた。
だいたいがジャニタレばっかりで飽きるんだけど。
大地はゲーム機とかそう言う類のものは持ってない。
「退屈だ」
ストレートに気持ちをぶつけた。
「確かまだ見てないDVDがあったはずなんだけど」
そう言って取り出したのはコンサートのDVD。
しかしその内容はクリスマスとは程遠いものだった。
復讐劇を歌ったもの。
大地のセンスを疑うぞ!
「もっと、クリスマスらしいものはないのか!」
「ちょ、ちょっと待って」
大地はラックを漁っている。
「こ、これならいいかも」
大地が取り出したのは第二2次世界大戦の話。
どこがクリスマスなんだ!?
だけど見ているうちに引き込まれる物語。
恋愛ものではない。
クリスマスが敵国との友情の始まりと言うお話。
2時間と言う時間があっという間に過ぎてしまった。
時間はもう0時を過ぎていた。
「そろそろ寝ようか?」
永遠に眠らせてほしいのか!?
「大地君はクリスマスイブに彼女と一緒にいて何もせずに寝てしまうのかな?」
こみ上げてくる怒りを抑えて笑顔で言ってみた。
「そ、そう言うわけじゃないけど……」
スマートに誘う事が出来なくて寝ようと言ったらしい。
大地らしいといったら大地らしいか。
私は何も言わずベッドに入る。
誘えないなら行動で示せ!
大地は行動に出た。
私を背後から抱きしめる。
「……いいかな?」
「女子に最後まで言わせるな。……明かりくらい消してくれ」
別についていても平気だけどその方が大地もやりやすいだろ?
事が終ると大地は私を抱きしめていた。
「いつもごめんね。どうしても慣れなくて」
「心配するな。大地は気づいてないかもしれないけどちゃんと成長してるよ」
なんならおばさんに伝えてやろうか?
「それは困るな」
大地はそう言って笑っていた。
男子って生き物は事が終ると疲れるらしい。
少し喋っている間に眠っていた。
そんな大地を抱きしめて私も寝る。
朝、大地は私の頭を撫でながら優しく起こしてくれた。
(3)
いつもの通りホテル最上階のレストランで夕食を楽しんでいた。
ドレスコードのある店なのでそれなりの恰好で来ていた。
海璃も着飾っていたのであった時に褒めておいた。
海璃は喜んでいた。
褒め方を間違えていなかったらしい。
そしてレストランでクリスマスプレゼントを渡す。
そんなに大きなものじゃなかったからね。
「ありがとう、私からもプレゼントあるんですよ」
そう言って小箱を取り出す。
「これから大学生ですから。相応のものをつけて欲しくて」
まだ大学入試に合格したわけじゃないんだけど。
夕食を楽しむと部屋に戻る。
「ちょっとバーにでも寄りませんか?」
そんなことが言える歳ではない。
せいぜいコンビニで買ってきたジュースを飲みながらテレビを観るくらいだ。
民放は特に面白い番組が無かったので国営放送にしてみた。
誰も普段気にも留めない疑問を解き明かしていく番組の特番。
CGのキャラクターが言う一言が印象的な番組。
ぼーっと見ていた。
深夜になってもテレビを見ていた。
海璃は退屈そうにベッドに横になってスマホを弄っている。
そろそろ頃合いかな?
テレビを消して明かりを落とすと海璃を抱く。
海璃は僕の顔を見て目を閉じる。
「ねえ、善明」
別にタバコを加えているわけじゃないよ。
SHでは喫煙者はいないからね。
「どうしたんだい?」
僕は全裸でペットボトルのジュースを取って飲むという間抜けな行動をしていた。
「私、魅力ない?」
ジュース吹いた。
「僕、何かやらかしましたか?」
「そうじゃなくて。ただ、こういう特別な日じゃないと誘ってくれないから」
高校生が毎日のようにやっていたら問題だと思うよ。
まあ、そういうアニメもあったそうだけど。
結末は悲惨だったみたいだね。
主人公が刺されて死ぬというちょうど殺人事件と最終回が重なって放送中止させられたそうだよ。
「ナイスボート」
今でもよく聞く言葉だね。
そんな事はさておいて海璃を不安にさせていることは間違いない。
「もう一回やる?」
って明るく言えばいいのかな?
絶対やめた方がいいような気がするので止めておいた。
「海璃の考えすぎだよ。海璃はとても美しい女性だよ」
「でも……」
「海璃、僕達は大学に合格したら同棲するそうだよ」
ご丁寧に家まで用意してくれるそうだ。
「それが何か?」
「大学生となれば僕だって自分で責任を取れる年頃だ。それに僕だって一応男だ。好きな女性と夜を一緒に過ごして平然としてられるほど聖人君子じゃないよ」
「期待してもいいってこと?」
「海璃に恥をかかせない程度にはがんばるよ」
海璃はくすくすと笑っている。
「心配しないで下さい。女性にだって性欲くらいありますよ」
それは男性に負けないほどあるという。
うん、普段の海璃の行動見てたら分かる。
天音と大地を見ててもはっきりわかる。
空と水奈はそう言う話をあまり聞かない。
理由は何となくわかる気がするけど。
この世界では女性は常に強い。
「それじゃ、明日はパーティだ。早いうちに寝ましょう」
「パーティは夜からですよ?」
「大地は毎年ドレスを天音にプレゼントしてるらしい、僕にもそのくらいさせておくれ」
「ありがとうございます」
そうして二人で抱きあって寝た。
午前中にチェックアウトするとパーティドレスを海璃にプレゼントしてそして江口家へ向かった。
(4)
学の車で展望台に来ていた。
綺麗な夜景を見ながらファストフード店で買ってきたフライドチキンとケーキを食べる。
周りには同じようにカップルで来ている車が沢山いた。
みんな肩を寄せながら夜景に見とれている。
もちろん皆年上の人ばかりだったが。
「こんな夕食しか用意できなくてすまん」
「気にしないで。あまりこういうの食べないから。……私は好きだよ」
何せクリスマスには行列が出来ていて、予約分しか作っていないと言われてるくらいだから。
でも気になることがあった。
「どうしてこの場所を選んだの?」
去年は普通にレストランで食べたろ?
「ああ、レストランを予約するという手段も考えはしたんだ」
だけど学だってまだ高校生。
車を持っていることですら脅威なのに夜景の綺麗なレストランなんて予約できるわけがない。
それにホテルのレストランを用意したところで美味しいワインを飲めるわけもない。
味を取るか夜景と言う思い出を取るか?
悩んだ結論がこの場所らしい。
夜景も綺麗だが星空も綺麗だった。
海の先に見える製鉄工場の光と星が交わっている。
海岸沿いを走る車のライトが流れるように見える。
崖下にも高速道路を走る車が見える。
「外に出てみませんか?」
私がそう言って、学と私は車を降りる。
少し寒いけど大丈夫。
冷たい空気に触れながら生の夜景を楽しんでいた。
写真を撮ったり、学と話をしたり。
学は寒かったようだ。
「あまり長居すると風邪引いてしまう。そろそろ行こうか」
車に戻ると学は器用に車をバックして方向転換をする。
砂利道を通って国道に出る。
その時水たまりらしきところを通ると車がずるッと滑った。
凍結していたらしい。
「すまん、うかつだった」
「気にしないで」
帰りは海沿いまで降りて海岸線沿いを通って帰った。
街の中を通る。
イルミネーションが綺麗だった。
「あ、一つ寄りたいところがあるんだが構わないか?」
時間は大丈夫か?と学が聞いてきた。
私は母さんに連絡する。
その返事を見て笑うと学に答える。
「今日はイブだから帰ってこなくてもいい。ただ学の財布の心配しなさいって」
「い、いや。そういうところによるわけじゃないんだ。クリスマスだし飛び込みじゃまず無理だ」
「やけに詳しいんだな?」
「光太が言ってたんだ『クリスマスや特別な日は予約しとけ。あと料金が高く設定されるから財布も気をつけろ』ってな」
なるほどね。
ちょっと残念だった。
学は家へ帰るルートを大きくそれてひたすら海沿いの道を走り続けた。
そして大在あたりで右折すると道なりに進む。
やがて右側に派手な電飾の家に着いた。
そばの道路に車を止めるとその家を眺める。
人が見てもいいように装飾してるらしい。
見物はご自由にと看板が立てられてある。
写真を撮る者もいた。
私も写真を撮っていた。
「どうしてこの場所を?」
私は学に聞いた。
「父さん達も来たことがあるらしい。年々派手になっているんだそうだ」
クリスマスデートならお勧めの場所だ。
そう言われたそうだ。
庭にも入って良いみたいなので入ってみる。
3か月くらい毎晩点灯されているらしい。
よく住宅街に行くと競い合うようにクリスマスの電飾を張りあっているけどそんなの比べ物にならない。
電気代大丈夫か?と心配になるくらいだ。
それを見ると家に帰る。
折角だからとショッピングモールのイルミネーションも見て楽しんだ。
そして家が近づく。
これで終わりか。
だけど折角のクリスマスデートだ。
もっと一緒に過ごしたい。
そのとき学のスマホがメッセージを着信した。
遊からだ。
「兄貴すまん、今日だけは帰ってこないでくれ」
遊はなずなと夜を過ごすらしい。
学はため息をついた。
「この後どうするの?」
「美希を送ってあとはネカフェにでも泊っていくよ」
「良かったら、どうせなら私の家に泊まっていかない?」
このチャンスを逃す手はない。
「お泊りの準備してないんだ」
「そんなの必要ないから」
「それに、年頃の娘の家に泊めてもらえるわけないだろ」
そんな学の声を聞きながら母さんに連絡していた。
「是非そうしなさい!」
母さんならそう言うと思った。
「じゃあ、お言葉に甘えるとするか」
そう言って学は家の車庫に車を止めると車を降りて家に入る。
「急にすいません」
「気にすることないの。大事な娘婿なんだkら。風呂の準備は出来てるわ。ゆっくり楽しみなさい」
母さんはそう言ってリビングに戻っていった。
学を部屋に案内すると「先に風呂どうぞ」と言う。
「悪いな」と言って学は風呂に入る。
その間にキッチンに言ってコップとジュースを取り出し部屋に戻る。
暫くして学が風呂から戻って来た。
「じゃあ、私も浴びて来るね」
そう言って私も風呂に入った。
風呂から入ると、リビングで母さんに呼び止められる。
「こんな機会滅多にないんだから精一杯楽しみなさい」
「分かってます」
そう言って部屋に戻るとジュースを飲みながらテレビを見ていた。
もう深夜になりあまり面白い番組をやっていない。
これ以上見ても無駄かな?
「そろそろ寝ませんか?」
学にそう言って私はベッドに入る。
その後に学が入ってきて私を包み込むように抱く。
「俺も本当はこんな時間が欲しかった」
「それは良かったです」
「来年には俺も一人暮らしだから」
「あら、私は一緒にいたらいけないの?」
「え?」
「私だって18だもの、家を出てもおかしくない」
それなら二人で暮らした方が楽しいでしょ?
「……きっと苦労をかけるぞ?」
「苦楽を共にする仲になりたいと言えばわかってもらえますか?」
「……ありがとう」
それから学は優しくしてくれた。
朝になって目を覚ますと学が服を着ている。
私も服を着る。
学は朝食を食べて帰ると言ったが、私が学を引き留めた。
「パーティは夜なんだろ?せめて昼までゆっくりしていって」
「美希の希望叶えてあげて?滅多に我儘言わない子だから」
結局、学は夕方まで一緒にいてくれた。
「じゃあ、次は忘年会だな。俺の車で迎えに来るよ」
「楽しみにしてる。受験勉強頑張ってね」
「ありがとう、美希もな」
一緒に大学生活送るんだろ?
そう言って学は帰って行った。
今年ももうすぐ終わろうとしていた。
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