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汚れの無いときめきを
(1)
クリスマス。
天音は江口家のパーティ。
空は友達と遊びに行った。
僕達は残った家族と冬吾の誕生日を祝っていた。
愛莉の作った料理とケーキを食べながらテレビを見ている。
愛莉に連絡があったらしい。
空は今日は帰らないそうだ。
入試前に馬鹿な真似はしないだろう。
僕はそう信じてる。
愛莉は少し寂しそうだったけど。
料理を食べ終えると順番に風呂に入る。
僕が一番最後。
風呂から出ると残っていたシャンパンを飲んでリビングでくつろぎ父さん達と話をしている。
家事の済ませた愛莉も混ざった。
茜は遠坂家に帰った。
遠坂家のおじさん達は年末また海外旅行に行くらしい。
毎年仲の良い事だ。
「冬夜さんは寂しいですか?」
愛莉が聞いてきた。
「そんな暇はないよ。まだ純也や茜。冬吾や冬莉がいるんだし」
「それもそうですね」
「とはいえ、空ももうあと少しで成人式だ。お前も少しは楽になっただろう?」
父さんがそう言うと頷いた。
「天音もそんなに手がかからなくなったし大分楽になったかな」
「お疲れ様」
母さんが言う。
「ありがとう」
そんな話をしながらテレビを見ていた。
ニュースを見ていた。
相変わらずの野党の自分勝手な質疑が繰り返し映されていた。
ニュースが終ると皆自分の寝室に戻る。
愛莉も火の確認等を終えると寝室に入って来た。
明日は日曜日。
とはいえ、徹夜で遊ぶほどの体力は残っていない。
愛莉と一緒にベッドに入る。
当然のように愛莉が抱き着いてくる。
そんな愛莉の髪を撫でてやるとうっとりと愛莉は目を閉じる。
「愛莉は寂しいかい?」
僕が愛莉にさっきの質問を返していた。
「そうですね、いきなり2人も子供がいなくなったのですから」
「愛莉のおじさん達はそんな様子全く見せなかったみたいだけど」
「パパさんは心配してたそうですよ。りえちゃんが宥めてたみたいです」
愛莉はそう言って微笑む。
あの二人はもう第2の人生を満喫してるんだろうな。
遠坂のおじさんも今年度で退職するらしい。
退職金もたくさんあるし年金もかなりもらえるそうだ。
再就職先も警察で用意してくれるらしいけどのんびり過ごすと話をしていた。
「その為に冬夜君達を育ててきたんだ」
そう言って笑っていた。
父さんもまだ継続できるらしいけど、そろそろ身体がきついらしい。
父さんは「まだやれる」と言ってるけど父さんの面倒くらい見れるからゆっくり余生を過ごして欲しいと考えてる。
愛莉も母さんの心配をしている。
最近は家事に加えて母さんの世話もしているそうだ。
食事も両親には特別の料理を作っている。
僕達ももう42。
だけどまだ42歳。
冬眞達の世話もしなければならない。
もっと頑張らなくちゃ。
「あまり無理しないでくださいね。それと……」
愛莉は僕をぎゅっと抱きしめる。
「偶には私にも構ってください」
女性の性欲は40代でピークを迎えるんだそうだ。
子育てに忙しい間はそんなゆとりはないけど冬吾達も自分の事は自分で出来るようになってきた今愛莉にゆとりができたらしい。
そんな愛莉の要求を拒絶したことはなかった。
育児に追われる中での愛莉の愉しみを叶えてやる事が亭主の務めだと思ってたから。
「わかってるよ」
「嬉しいです」
こうして愛莉の相手をしてやっているから愛莉は全く老いを見せないのだろう。
僕ももう少し頑張らないとな。
まだ「年を取った」なんて言っていられる年齢ではなかった。
(2)
「今夜は寝させないからな!」
光太が言うと皆盛り上がっていた。
SAPのパーティルームを貸しきって盛り上がるSH高校生組。
江口家のパーティに行ってる連中は来れないけど仕方ない。
残った皆で歌って騒いでいた。
今日は皆何もかも忘れていた。
自分が受験生という身分であることも、まだ18歳と言う事も。
「SHもいよいよ社会に進出だな!」
光太はやる気らしい。
今年卒業する者は大体地元大学に進学するつもりなんだという。
学部は違うけど。
それでも大半が経済学部を狙っていた。
「学は美希と同棲するの?」
学に聞いた。
「卒業したら家を探すよ。俺が大学卒業したら結婚しようと思う」
学が言うと皆がまるで時計が止まったかのように動きを止めた。
「結婚!?」
美希も初耳だったようだ。
「ああ、いつまでも同棲なんて立場にしておけないだろう?」
決して今飲んでる飲み物のせいじゃないよな?
光太に無理矢理飲まされたらしいけど。
「くそっ!負けてられるか!?麗華、俺達も高校卒業したら結婚しよう!」
「そんなお金どうやって作るつもり!?ノリでプロポーズされても嬉しくないよ」
「ダメか……」
落ち込む光太に麗華が優しく言う。
「私にも心の準備をさせてよ。二十歳になったらちゃんと受けてあげるから」
それってもう受け入れてるじゃん!
そんな話を聞いてみんな自分の彼女にプロポーズしてた。
父さん達は学生婚を当たり前のようにしてた。
子供はちゃんと大学卒業してから作ったらしいけど。
「結婚かあ……」
「羨ましい?」
「まあな……なんか取り残された感はある」
「……水奈が大学する前にちゃんと伝えるから」
「え?」
水奈は僕の顔を見た。
驚いたんだろう。
「水奈の誕生日を考えたら水奈が卒業してからじゃ間に合わないから」
「空はずるいぞ……それってほとんどプロポーズじゃねーか」
「ダメだった?」
「……後悔するなよ」
水奈は嬉しそうに笑っている。
汚れの無い未来の手を。
宴は盛り上がり、徹夜で行われた。
そして、皆朝になると家に帰る。
家に帰ると、皆もう朝食を食べていた。
「空もご飯食べる?」
母さんが聞いてきた。
「昼まで寝てる」
「あまり不規則な生活してはいけませんよ」
母さんはそう言った。。
その後昼まで寝て、昼ご飯を食べる。
ここからは受験生の時間。
勉強を始める。
初詣には行くつもりだけどそれ以外は外出しない。
そんな日々を過ごして年末を迎えていた。
(3)
今年も酒井リゾートフォレストで渡辺班の忘年会が行われてた。
僕は水奈を迎えに多田家に寄る。
カウントダウンが終ったらそのまま大宰府に初詣に行くつもりだ。
もちろん合格祈願の為。
それと少しは水奈とデートしてやりたいと思ったから。
普段一緒にいてやれない分こういう時に一緒にいてやりたい。
「高速のPAでやるなんて絶対に許さないからな!」
「お前はその頭を108回どつかれないと直らないのか!?」
水奈の父さんの言う事はたまに理解できない。
理解しないでいいと水奈が言うので放ってるけど。
観光ホテルのパーティホールを貸し切っての大宴会。
IMEの所属歌手もライブを行っている。
その為に国営放送の毎年恒例の歌番組も断るほどだ。
それを口実にフレーズのボーカルも地元に戻ってきている。
テーマパークは酒井グループの一部門だが、ホテルは酒井グループと如月グループの二つのグループが別々に運営している。
今年は如月グループのホテルを利用していた。
料理が上手い。
そして光太は父さん達と一緒になって騒いでた。
僕は断った。
「これから運転する奴に勧めるの?」
飲もうとしていた水奈にも注意した。
水奈は不満そうだったので話をしてみた。
「水奈が卒業したら同棲しようって言ったよね」
「それがどうかしたのか?」
「水奈は僕一人飲むって寂しい真似をさせるつもり?」
「……しょうがない奴だな」
人ひとり殺すくらい造作でもないだの、シベリアに送り飛ばすだの物騒な世の中で未成年の飲酒くらい大目に見てもらえるだろう。
そうして楽しんでいるとあと5分で年が変わる時間になった。
MCが始まる。
そのして残り1分になるとカウントダウンが始まる。
そして新しい年を迎えた。
クラッカーが鳴って外では花火が打ち上がっている。
皆「おめでとう」と挨拶をしていた。
一通り挨拶を済ませると父さん達と水奈の両親に「じゃあ、今から行ってくる」と言う。
「寒いからやるときは暖房付けるんだぞ……いてぇ!」
「誠と空をいっしょにするな!」
「新年最初が肝心だって言うだろ!?」
「まあ、眠気を感じたら大人しくPAで仮眠しろ。それと山間部を通るんだ。凍結には注意して運転しろよ」
水奈の母さんが言う。
地元の車は冬でもノーマルタイヤで走っている者がほとんどだ。
スタッドレスタイヤに交換する地域なんてごくわずかだ。
そうして俺達は出発した。
山の中にあるので早速凍結していた。
そんなに長い区間走るわけじゃないし、万が一の時はチェーンをつけたらいい。
AWDなのでなんとか通過出来た。
湯布院ICから高速に入る。
高速には凍結防止剤がばらまかれ、また車も通るのでそんなに凍結してる事はない。
ただ路面が光っていたら気をつけろ。
そう聞いていた。
そんな注意をしながら運転をしていたらさすがに集中力が低下する。
言われた通り途中のPAで車を止めて仮眠することにした。
多分そうなるだろうと毛布を用意しておいた。
水奈にも一枚貸す。
すると水奈は抱き着いてきた。
「こうした方が暖まるだろ?」
朝まで寝ていたら水奈がホットコーヒーを買ってきてくれた。
「少しは眠気飛ぶかなって」
福岡に近づくに連れて車の量が増えていく。
大宰府に着く頃には長蛇の列ができていた。
それは高速を出ても続いた。
駐車場に止める頃には昼になっていた。
お参りを済ませると昼ご飯を食べて給油して帰路に着く。
「がんばれよ」
水奈がそう言った。
「ありがとう」
そう返して僕は車を走らせる。
夕食も外で済ませて水奈を家に送る。
「卒業旅行楽しみにしてる」
「ああ、僕も楽しみにしてるよ」
だからそれまではデートはお預け。
家庭教師のバイトも休ませてもらう事にした。
メッセージくらいは送るよ。
そう言って家に帰る。
家に帰ると風呂に入って勉強を始める。
水奈も遠慮してかあまりメッセージをしてこない。
だから寝る前に「おやすみ」と送ってやる。
「おつかれ」と返って来た。
センター試験が目前に迫っていた。
(4)
今日は父さん達とおでかけ。
空の合格祈願に出かける。
3学期が始まればすぐに入試が待っている。
どこでもいいなら確実に受かる大学を目指せばいい。
試験を受けたら落ちる方が難しいと言われている大学だってある。
だけど空は地元大を目指している。
落ちたらそこで終わり。
空はずっと必死に勉強していた。
水奈にマメにメッセージを送りながら。
今日はただの気分転換。
一方空は固くなっていた。
年が明けてずっと思いつめている。
父さんや母さんも「もう少し肩の力抜きなさい」と言っても無理らしい。
今も天音と父さんや母さんが雰囲気を和ませようとしている。
そうしている間に目的地にたどり着いた。
高塚地蔵尊。
地元でも結構有名な祈願成就の場所。
地元大学合格と書いた紙を持って階段を上がっている。
そしてその紙をそっと置くと祈っていた。
それが終ると「さて、何食べようか?」と天音が空に聴いている。
「全部食べちゃおうか?」と空は作り笑いを作っている。
皆に心配かけたくないのだろう。
「帰りに日田焼きそばも忘れるなよ!愛莉」
天音が言う。
出店で食べ物を食べて日田による。
日田焼きそばの有名な店によって焼きそばを食べると家に帰る。
家に帰ると空は黙って部屋に戻る。
きっとこれからまた勉強なんだろう。
天音もあまり騒がないように気を使っていた。
父さんとテレビを見ながら夕飯が出来るのを待つ。
夕飯を食べてお風呂に入って部屋でゲームして瞳子にメッセージを送る。
「お兄さん大丈夫?」
「多分大丈夫だよ」
「凄い自信だね」
「空は毎日頑張ってるから。今日もお地蔵さまにお祈りしたしきっと合格するよ」
「そうだね!」
こんな時だけ神頼みだけど。
恋愛成就の神様がいるのなら学業成就の神様だっているはず。
高校生活最後の難関が空を待ち受けていた。
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