永遠は君の中

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永遠は君の中

(1) 「いやあ、悪い悪い」 駅に最後にやって来たのは光太と麗華だった。 「駅に一番近い所に住んでる光太たちがどうして一番最後になるんだ?」 学が質問していた。 「駅からは近いけど交通手段が車使えないとなると皆無なんだよ。バスもそんなには知ってるわけじゃないし」 光太は徒歩で来たらしい。 原因はまだあった。 3月の沖縄。 気温が分からないから麗華が服装に悩んでたらしい。 「とりあえず、Tシャツの上に何か羽織っておけばいいんじゃね?」 「Tシャツとか衣装ケースにしまったばかりだよ」 で、遅れたそうだ。 「まあ、学のいう事もわかるけどそろそろ電車出ちゃうんじゃないかい?」 善明が言うと「それもそうだな」と電車に乗り込む。 行先は博多。 博多からタクシーで福岡空港に行ってそこから那覇空港まで飛行機で行く。 その後昼ご飯食べて国際通りを散策してホテルに泊まる。 それが1日目の日程。 移動中も色々話をする。 地元大学組は色々準備をしているそうだ。 県外組も大きな荷物は配送した。 旅行が終ったらすぐに発つと言っている。 SH組は大体が1人暮らしか同棲を始めたそうだ。 光太はさっそく麗華から苦情が出ていた。 休みの日くらい掃除をしろというのに部屋でごろごろテレビを見ていると麗華が言う。 麗華が「邪魔だから寝室に行ってろ」というほどだ。 那覇に着くとホテルに荷物を預けて国際通りに向かう。 沖縄そばを食べると女子の買い物に付き合う。 女子が買い物に夢中になってる間に光太が何か言う。 「今夜予定空けとけよ。女子には内緒だからな」 何があるんだろう? 買い物が済むとホテルにチェックインして皆で夕食を食べて部屋で寛ぐ。 シャワーを浴びると僕のスマホが点滅している。 メッセージを見る。 「水奈には内緒で抜け出してこい」 無理だよ。その水奈が今隣で見てるよ。 その事を教えようとすると水奈がそれを止めた。 「どこに行くの?」 水奈が僕のスマホを操作している。 光太は画像を送って来た。 いや、それはまずいだろ。 水奈は自分のスマホにそれを転送して他の女子に教える。 「あ!そういえばあいつ部屋出て行って戻ってこない!」 僕は何も悪い事をしていない。 そんな僕を見て水奈は言う。 「空も行きたかったのか?」 はいと言えるサムライを見てみたい。 ちなみに僕には無理だった。 ただ首を振る。 「ちょっとロビーで待ってて」 水奈は僕のスマホを操作する。 「急げよ。女子に気付かれる」 もう手遅れだよ。 「じゃ、いこうか?」 女子は全員ロビーに行って浮かれている男子をこっぴどく叱っていた。 善明は目的を確認するのを忘れていたらしい。 海璃に必死に弁解している。 学は部屋を出ようとしたときに美希に捕まったそうだ。 「どこに行くの?」 「いや、ちょっと野暮用だ」 「彼女を残して一人でお楽しみですか?」 「いや、光太達も一緒らしいが……何で知ってるんだ?」 美希は学に水奈からのメッセージを見せる。 一日目の夜からよくやるよ全く……。 「空は一人で外出するの禁止!」 水奈に怒られた。 (2) なぜか学と美希は朝食には来なかった。 せっかく食えるのにもったいない。 腹の調子でも悪いんだろうか? 「学達だって恋人同士だから色々あるんだよ」 水奈がそう言うならまあいいや。 二日目は観光地を巡る。 首里城や平和祈念公園、海中道路なんか。 真っ直ぐにどこまでも伸びる海中道路はレンタカーを借りて通った。 皆思いっきり飛ばしてた。 こんなにいい景色なんだから飛ばしたくもなるのは分かる。 午後からは水族館なんかを見て回った。 女子って本当に水族館好きだな。 沖縄の海を再現したその水族館は地元では見れない魚が沢山いた。 水族館を見て公園を周って、公園を出るとまた観光地を見て回る。 多分光太が企んだ事だろう。 ビール工場なんてところも入った。 「卒業取り消しになったらどうするの!」 麗華に怒られていた。 一通り回るとホテルに戻る。 明日はアメリカンビレッジに行って沖縄を発つ予定だ。 面白い所が沢山あったけど、未成年ではまだ楽しめない事が沢山あった。 それは北海道も一緒だけど。 「サッポロビールは美味いよ」 父さんが言うくらいだからさぞおいしいんだろう。 「子供に何を吹き込んでるんですか!?」 母さんに叱られてた。 「で、でもジンギスカンとビールの組み合わせは本当に良かったんだよ愛莉」 「冬夜さんはジンギスカンでも焼肉でも関係ないじゃないですか!」 2人とも本気で言い争ってるんじゃない事くらい僕でも分かる。 そんな風に言いあえる仲に僕と水奈もなりたいなと思った。 「また大人になったら来ようね」 水奈が言う。 「そうだね。行ってみたいところは沢山あるんだ」 「例えば?」 「光太が言ってた『今度皆で夜の別府を楽しもうぜ』って」 「絶対ダメだ!!」 「……地獄めぐりとかじゃないの?」 「夜行く必要ないじゃないだろ!」 「ほら、リゾートホテルで食い放題もまた行ってみたいな」 「……光太達の言っている意味わかってるのか?」 違うの? 「わかってないならそれでいい。空は私だけを見てたらいいんだ」 「それと『夜の別府』どどう関係あるの?」 「だからそれは分からなくていい!」 これ以上言っても水奈を怒らせるだけだから止めておいた。 でも別府で後楽しむと言ったら焼肉と関アジ関サバと後何があるんだろう? どれも別府である必要はまったくないんだけど。 むしろ臼杵のフグとか杵築の城下カレイの方が魅力的だな。 杵築と言えば美味しい焼肉屋さんがあるって言ってたな。 今度水奈と行こうかな。 「明日も早いんだし早く寝よう?」 「早すぎない?」 「私に興味を持って欲しいって言わなかったか?」 なるほどね。 僕達はベッドに入ると照明を落とす。 沖縄最後の夜を楽しんだ。 (3) 定刻を過ぎた。 そろそろか。 荷物はもうまとめてある。 この歳まで署長でいられたのが不思議なくらいだ。 当然、再就職の道もあった。 だけど年金もあるし退職金ももらった。 梨衣との時間を出来る限り作るつもりだ。 それにはまだ時間がかかる。 純也の面倒を見なければならない。 それを考えると再就職もありだったのだろうか? 「長い間お疲れ様でした」 署長室に一人の男が入って来た。 細長いちょっと嫌味のある男。 現場には一度も出向いたことのないいわゆるキャリア組。 俺がこれまで出来るだけ現場が動きやすいように手配したこともこの男の手によって水の泡と化すのだろう。 しかし俺に出来ることはない。 「……あとの事は任せた」 「警察のあるべき姿に戻して差し上げますよ」 警察のあるべき姿か。 何を持ってそう言うのだろう。 純然たる国家権力の犬。 この男はそう思っているんだろうな。 「皆待ってますよ」 次期署長の内村総一郎が言うと俺は部屋を出る。 下の階に降りると皆が整列していた。 婦警が俺に花束をくれる。 「これまで本当にお疲れ様でした」 「……ありがとう」 警察署の玄関まで見送られて俺は南署を去る。 家に帰るとテーブルに書置きが残されてあった。 「片桐家で待ってます」 俺は片桐家に向かう。 リビングに案内されるとクラッカーが鳴る。 「遠坂さんお疲れ様」 片桐正人が言う。 彼とは職業は違うけど正義を信じて共に戦ってきた仲間だ。 「……ありがとう」 「おじさんお疲れ様」 純也や茜も祝ってくれた。 正人は明日も仕事なので今日は早めに切り上げた。 家に帰るとリビングで寛ぐ。 梨衣がビールを用意してくれた。 時計を見る。 まだ純也は起きてる時間だろう。 「純也を呼んできてくれないか?」 「は~い」 梨衣は純也を連れて来た。 純也にソファに座るように言う。 純也が座ると俺は静かに話した。 「純也は警察官になると言っていたね?」 「うん」 「では、警察官に必要な物は何だと思う?」 純也は考えていた。 力、冷静さ、勇気。 数えられないほどの能力を必要とする職業だが何よりもまず必要な資質。 「正義?」 純也なりに導き出した答だろう。きっとこの子ならそう答えると思っていた。 だから敢えて試してみる。 「純也は何をもって正義を主張するんだい?」 「え?」 再び純也は考えだす。 様々な角度から見て誰もが認める正義。 それは何だとまだ15歳の子供に尋ねてみた。 「……人の為になる事。助けたいと思う気持ち」 「……その通りだよ」 俺は純也の頭を撫でる。 「純也はきっとおじさんより上の立場に時が来るだろう。そんな時でも決して忘れちゃいけない。弱い立場の者を気づかってやれ」 決して己の保身に走るな。 あの男のように官僚気取りの警察官にはなるな。 「……分かった。ありがとう」 「時間を取ってすまなかった。あまり遅くならないようにね」 「うん」 純也はそう言って自分の部屋に戻っていった。 「今日何かあったんですか~?」 「……俺の後継はやっぱり内村になったよ」 「……そうですか」 俺の力不足だ。 もっとこの時が来るのを考えてしっかりした奴を育成しなかったツケが回って来た。 これからこの地元の治安がどうなるのか不安だった。 だけど、純也という希望の種がある。 未来という向こう側に何があるのか誰も知らない。 しかしいつかきっと芽吹くだろう。 それを今は見守るだけ。 いくつもの朝をむかえ、幾つもの夜を越えて。 (4) 朝食を食べると皆部屋で寛いでいる。 女子は色々準備が大変だったみたいだけど。 僕だって顔洗ったりくらいはするよ。 ただ女子の洗顔はただ洗顔するんじゃない。 色々大変みたいだ。 その間のんびりとテレビを見ていた。 「悪い、遅くなった」 水奈が後ろから抱き着いてくる。 「まだ時間あるからのんびりしてよう」 「わかった」 それから水奈と二人でテレビを見ていた。 時間になると荷物を持って部屋を出る。 荷物を空港のロッカーに預けてアメリカンビレッジに向かった。 水奈と相談していた。 アメリカン風お好み焼きと本場のインドカレー。 どっちを食べるかについて。 僕だけなら両方食べるで事は済む。 だけど皆がいる。 どちらかに絞らなければいけない。 ちなみに皆は「どっちでもいい」だった。 「とりあえずヴィレッジ内なら各自自由行動にしないか?」 学が提案した。 反対する者は特にいなかった。 そうなると僕達はまずお好み焼きを食べに行く。 もんじゃもあるそうなので食べる。 その後インドカレーを食べる。 ついでにタイ料理にも興味があったのでそこにもいく。 最後だからと沖縄そばも食べる。 フィリーチーズステーキも食べた。 自慢のラーメンとやらがあるのでそれも食べる。 買い物は特にしなかった。 とりあえず食べて時間を過ごした。 ちなみに水奈は飲み物だけ飲んでた。 「空、一つだけお願いしてもいいかな?」 水奈が言うので聞いてみた。 観覧車に乗りたいらしい。 断る理由が無かったので2人で観覧車に乗った。 時間がギリギリになってしまった。 皆揃ったところで空港に向かう。 そして飛行機に乗って沖縄に別れを告げる。 福岡空港に到着すると博多駅へ向かう。 そして特急に乗って地元へ戻る。 光太達は歩いて帰る。 善明たちはバスが無いので仕方ないからタクシーで帰る。 19時台までしかバスがない所に良く住む気になったな。 学も乗るバスが違うのでバスターミナルで別れる。 他の皆も電車で帰るようだ。 僕と水奈も時刻表を確認する。 まだ時間はあるみたいだ。 夕食にラーメンを食べた。 「空と付き合うなら少し運動することも考えないとだめだな」 水奈はそう言って笑っていた。 店を出るとちょうどいい時間になった。 バスに乗り込む時に水奈の荷物を持ってやる。 バス停を降りるとゆっくり歩いて帰る。 昨日までの僕達の夢を信じてただ走り抜けてきた。 終わりの無い物語でもかまわない、君が僕を見つめ続けてくれるから。 いくつもの朝を迎えてもいい、いつかきっと掴んでみせる。 いくつもの夜を越えてあの星を掴んでみせる。 その向こう側に何も無くてもいい。 かけがえのない君の優しい笑顔を信じている。 その向こう側に悲しみが待っていたとしても信じてる。 だけど本当は誰も向こう側に何があるのかわからないんだ。 子供の頃の小さない思い出を時が壊していくけど、瞳に焼き付いた星空は忘れない。 君が僕の心の中にいる限り感じる生命の鼓動。 その向こう側に何も無くてもいい、いくつもの朝をむかえようといつかきっと掴んでみせる。 いくつもの夜を越えて掴んでみせる。 例え悲しみが待っていたとしても信じて欲しい、君の涙を見たくないから。 水奈を家に送り届けると僕も家に帰る。 その先にあるのが悲しみだったとしても僕達は歩き続ける。
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