蒼く輝く炎で

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蒼く輝く炎で

(1) 7月に入る。 私と茜は必ず愛莉に怒られる。 「制服を洗濯機に入れなさいといつも言ってるでしょ!」 何のために数着用意してるのですか! 一日着替えなかったくらいで死にはしねーよ。 特別汚してるわけでもないし。 茜は「下にキャミソール来てるから汗の問題はない」と抵抗する。 茜は誰に似たのか段々ずぼらになってきてる。 「そんな事だと壱郎君に嫌われますよ!」 茜は少々汗臭くても構わず来てる。 そして窮屈だからと部屋の中を下着もつけずに過ごすことがある。 まあ、暑いからしかたないんだろう。 しかし冬吾がいる事を分かっていないらしい。 そのまま浴室に向かったりキッチンにジュースを取りに行く。 さすがにパパ達も目を背けていた。 愛莉も頭を悩ませているらしい。 今は制服を着て学校に向かっている。 「紗理奈達は家の中ではどう過ごしている?」 「どうって?」 紗理奈に茜の事を説明した。 「うちは母さんが似たようなもんだから父さんが困ってる」 そんな話をしていると皆がいるバス停に向かう。 美穂や美砂にも聞いてみた。 美穂や美砂は不満があるらしい。 裸族という部類ではないらしいのだが、彼氏の家に泊まった時それらしい下着やパジャマでいる。 だけど教師という職業がそうさせるのか分からないけど一向に気づいてくれないらしい。 私はまだ子供扱いされている。 美穂や美砂はそう受け取ったようだ。 それは別に美穂や美砂だけじゃないと私は言う。 大地も言わないと気づかない。 男という生き物はなぜいざという時になると及び腰になるのだろう? バスが来るとバスに乗って駅前に向かう。 バスの中はこれでもかというくらい冷房が効いている。 一枚薄手のカーデガンでも羽織りたいくらいだ。 そして駅前に着くと列を作って支払いをする。 ただICカードをかざすだけだからそんなに手間はかからないはずだ。 だけどそいつはICカードを持っていなかった。 慌てて千円札を両替機に入れて小銭に変えている。 慌てていたんだろう。 小銭を思いっきりばらまいてしまった。 本人はパニックになっていたようだ。 しょうがないな。 私も一緒に拾ってやる。 夏はさすがに暑いから少しスカートの丈を短くしてる。 別にみられることに抵抗はない。 馬鹿じゃねーの?とは思うけど。 拾った小銭を渡してやるとその女子はお金を払ってバスを降りる。 私も精算をしてバスを降りた。 「ありがとう」 その女子は礼を言った。 制服は私達と同じ様だ。 驚いたことに同じクラスだったみたいだ。 名前を聞いてみる。 鈴木光香というらしい。 多分そうだろうな?と思った私は光香に聞いてみた。 「光香彼氏いるだろ?」 「いるけどどうかしたの?」 「その彼氏防府だろ?」 「なんでわかったの?」 大体そういうもんだと光香に話をする。 理由は分からない。 常識では分からないことがこの世界では度々起こる。 教室にはいると流石に暑い。 冷房はあるけど全く効かない。 なんかのアニメで氷水をバケツに入れて足をつけるというのがあったな。 どうせ男子なんていないしブラウスを脱いでキャミソールで授業を受けたいくらいだ。 校則違反だけど。 法律を違反している物語で校則程度違反したくらい問題ないだろ。 昼休み光香を呼ぶ。 彼氏がいて防府に通ってるならやる事は一つだ。 SHに招待する。 「光香放課後空いてる?」 「特に予定はないけど?」 「金持ってる?」 「そりゃ多少は持ってるけど」 なら話が早い。 「バスセンター行こう。ICカード買うぞ」 一々細かい金を払うのは面倒だ。 毎日のように街に通うのだからあって損は無い。 ついでに書類も用意して定期券付きにしとくといい。 「わかった」 光香は納得したようだ。 帰りにICカードを作る。 偶にはデパートの中見て回るのも悪くないな。 そう思ってデパートの中を見て回る。 制服でくるのは場違いだったようだ。 一階の化粧品売り場で怯んでしまった。 そして売っているのもバーゲン中とはいえ高い。 基本が高いんだから仕方ない。 ブランド物がほとんどだ。 生憎と食い物の物産展とかは今はやっていなかった。 小物や雑貨を見て回って帰る。 デパートの中では涼を楽しんだだけだった。 家に帰ると部屋に入って着替える。 すると愛莉が来る。 「どうせ明日も同じの着ようとか思ってるのでしょうけどそうはいきませんからね!」 「毎日洗ってると生地が傷むんじゃないのか?」 「その時は新しいの買ってあげます!」 「そんな金あるなら小遣い増やしてくれ!」 「どうせ食べ物に使うだけでしょ!」 かき氷が食い物になるのかはわからないけど。 愛莉は私から脱いだブラウスを取りあげると茜のブラウスも取り上げて部屋を出て行った。 不思議と冬莉は毎日洗濯機に入れるそうだ。 毎日シャワーを浴びて髪の毛の手入れをしている。 茜は余程の事がない限り風呂に入らなくなった。 暑いのに熱い風呂に入る意味が分からないと言っている。 そして下着もつけずに体を拭いて家の中を歩いて部屋にもどり冷房を全開にする。 当然パパやお爺さんも見ていてビールを吹く。 それに気が付いた愛莉が部屋にやってきて説教をする。 私もさすがに裸はどうかと思ったのでアドバイスしてやった。 「ブラが窮屈なのは分かるけどせめて下はパンツくらいはいとけ」 それに上から大きめのシャツ着とけばとりあえず目くじら立てられることはないだろ? 「なるほどね」 「茜は壱郎の前でもそうなのか?」 「同棲始めたらきっとそうなんだろうね」 相手が大地ならまず無理だろうな。 少しはましになったけど。 暑い日はまだ始まったばかり。 毎日のように最高温度を更新する日々が続いた。 (2) 下校中突然絡まれた。 「お前今ガンくれたろ?」 このご時世でそんなセリフを聞くとは思いもよらなかった。 ちょっと目があっただけなのに。 そしてそんなご時世の服を着ていた。 夏だから暑いのだろう。 短い丈のスカート。 でも熱くないのだろうか? ローファーの踵が隠れるほどの大きなルーズソックス。 幸いにも肌は白かった。 黒かったらどうしようか悩んだところだ。 笑いをこらえるのに一苦労したことだろう。 そんなことをぼんやり考えていると胸ぐらを掴まれた。 「お前私らなめてんのか!?」 息がタバコ臭い。 一緒に居る男の服装と髪形も似たような感じだった。 こんな暑い日にイライラしてると余計にイライラするだろうに。 「で、お前らにガンとばしたらどうなるか教えて欲しいんだけど」 私に絡んでくる奴等よりもっと質の悪いグループが現れた。 校門という場所が悪かったのだろう。 その集団は……文化遺産でいいか。文化遺産に絡むという行動に出た。 「そんなに暇してるなら私らが相手してやるよ。何すればいいんだ?」 赤髪の女子が積極的に絡んでいる。 赤髪の女子こそ私が通う学校最強の問題児片桐天音。 成績もどうして桜丘を選んだんだというくらいに良い。 運動部に入らないのがもったいないくらい運動能力が高い。 そしてその高い基本性能を無駄な事に惜しむことなく注いでいる。 「お、お前らには関係ないだろ」 この文化遺産達も天音の事は知っていたらしい。 「そうだね関係ないね」で済ませるような人たちじゃない事は知らなかったようだけど。 「私の友達に手を出して関係ないは通用しないね」 私は友達になった覚えはない。 しかし誤解した文化遺産は私を解放する。 天音は関係ないとばかりに文化遺産を睨みつける。 絶対に目をそらさない。 むしろ文化遺産がそらしていた。 「ほら?どうするんだよ?付き合ってやるから続けて見ろよ」 「てめぇ女子だからと思って甘く見てたらつけあがりやがって」 男子が立ち上がり天音を怒鳴りつける。 「女子だから優しいと思ったら大間違いだからな。お前らまとめて袋叩きにしてグラウンドにも埋めてやらぁ!」 本当に遺跡にするつもりらしい。 暑くてイライラしてるのに鬱陶しい真似しやがって。 文化遺産より質の悪い言いがかりをつけている。 男子と天音のにらみ合いは続く。 後にいた渡辺紗理奈と茉里奈。金髪とピンクと緑はやる気全開だった。 しばらくして文化遺産達はどこかへ去って行った。 「ありがとう」 お礼くらい言っておかないと私が標的になりそうだ。 「気にするな、友達助けただけだ」 「あの……」 「あ、そうだな。連絡先教えろよ」 私の主張を聞くつもりはないらしい。 私はだまってスマホを取り出し天音と連絡先を交換する。 そしてSHに招待された。 「よし、じゃあ遊びに行くぞ」 「宇佐、何があったんだ?」 私の彼氏の青崎陽司が来た。 当然のように陽司も巻き込まれてSHに入った。 天音が向かった先はかき氷屋だった。 美味しいと評判の店。 天音の感想は 「やっぱ氷だと食った気しねーな」 味は関係ないらしい。 「で、2人の馴れ初めは?」 天音が聞いてきた。 私達は口をそろえて言う。 「なんとなく」 この世界には数えるのも面倒なほどカップルがいる。 男女が交際するのにいちいち理由がいるのか?と開き直るほどいる。 入学式の日に会って、帰り道が一緒で登下校を一緒に繰り返しているうちに意気投合していた。 ただそれだけの事。 「なるほどな」 自分で聞いておいてあまり興味が無さそうな天音。 他の女子は陽司に興味があったみたいだ。 色々聞いてる。 戸惑いながらもそれに答える陽司。 そんな言わなくても良い事まで言わないで。 陽司のクラスにもSHのメンバーがいるらしい。 話が一通り終わると私達は家に帰る。 先にバスを降りるのは私達だった。 「じゃあ、また明日」 そう言ってバスを降りると家に帰る。 「なんかとんでもない事に巻き込まれた気がするんだけど」 陽司が言う。 そんな気がしなくてもきっと巻き込まれてるよ。 「じゃあ、また明日な」 私の家の前に来ると陽司はそう言って家に帰る。 部屋に戻ると着替える。 夕飯を食べてお風呂に入るとスマホが頭ッと鳴り続けていることに気付く。 SHのグループチャットだ。 朝まで続くのだろうか? 些細な事で大盛り上がりする皆が羨ましく思えた。 そしてそんなグループに入ったことに対する希望が湧いてきた。 今日で全てが崩れ去るとしても、人は明日を夢見る。 人は夢を欲しがる。 信じてるものが心にあればそれだけで人は生きていく。 声を殺し泣いた遠い記憶。 未来は誰の為にある? 滅びゆく世界を駆け抜ける嵐。 運命の物語に私達は選ばれた。 (3) 海開き。 地元じゃあまり海で遊ぶ人間はいないけど僕達は折角だからと遊びに来た。 一泊二日のキャンプ。 3連休だけど1日くらいは身体を休めたい。 僕達はいいけど、光太達は仕事なんだから。 参加したのはSH社会人・大学生+水奈。 テントは実家から二人用の奴を貰って来た。 お昼はファミレスで食べて、午後に海についてテントを設置する。 あまり僕達の年頃で海で水着になる者はいないけど水奈達は関係なく水着に着替える。 今年の新作の水着を選びに連れて行かれたのは毎年同じ。 テントをはると皆でビーチバレーしたリして遊んでいた。 そして夜になるとBBQの準備を始める。 肉を焼き始め、そして全員に飲み物がいきわたると光太が挨拶をする。 「えーと。まずはみなみW杯優勝おめでとう!」 皆拍手する。 「他の皆も新生活で色々大変だと思うけど今日は楽しもう!」 光太が挨拶を終えると早速肉を食べ始める。 僕の肉は水奈が焼き加減を確認してから取る。 レアの方が美味いと思うんだけどな。 「空達はどうだい?一人暮らし」 善明がやってきた。 「2人っきりって時間を作れるようにはなったかな」 「それはよかったね」 「善明たちはどうなんだ?」 水奈が聞いている。 「まあ、慣れたというか色々あってね」 「喧嘩でもした?」 「滅相もない!そんな事したら大変だよ」 「あら?善明私に何か落ち度があった?」 海璃が来た。 「い、いや。きっと普通の僕くらいの年頃の男性なら極楽のような生活なんだろうけどね」 「あ、そういうことか……」 水奈は何か気付いたようだ。 「水奈はどうなんだ?通い妻やってるんだろ?」 光太が水奈に聞いていた。 「どうもこうもねーよ。良くも悪くも何もない」 水奈は何か不満があるようだ。 それを海璃が聞いていた。 「普通男の部屋にいったら一つや二つ出るだろと思ったんだけど全くねーんだよ!」 「別にないならいいじゃん」 「私がいない間、空は欲求をどこに吐き出してるんだと気にならないか?」 他の女でも連れ込んでるんじゃないか? それが水奈の主張だった。 海璃は笑いながら説明する。 「空に限ってそれはないよ。善明だって同じだし。一緒にいても私が行動しないと一週間くらい何も無いよ」 「海璃の言う意味分かる。学も同じ。毎回苦労してるんだから」 ここから先は女子トークになりそうだから余計な口を挟まずにただ肉を食ってる。 一方善明は光太に絡まれていた。 「お前に足りないのは勢いだ!今日は飲め!」 下手に口を出さない方がいいのはこっちも同じ様だ。 「お互い苦労してるようだな」 学が話しかけてきた。 時として女子の要求は男子の想像を超える場合がある。 そんな時にどうしていいのか分からない。 それは学も一緒だったようだ。 学と苦労話をしていると突然善明が叫んだ。 「海璃!!」 何事かと海璃が善明の方を見る。 というか皆が善明を見ていた。 「僕達はもう18歳だ!結婚だって堂々と出来る!親も反対してない!」 善明の顔は真っ赤だった。 美希はにやりと笑ってポケットの中で何か操作してる。 「でも、まだ自分で稼いでないから早いと言ったのは善明だよ?」 「そんなもの関係ない!どうせ今も結婚していると変わりない生活をしているんだ!」 空っぽの恋愛で時間をすり減らすのはやめにしよう。 「帰ったら僕と指輪を買いに行こう!」 「指輪だったら。以前貰ったのまだはめてるし」 「改めて海璃に求婚したいんだ!海璃、愛してる!結婚してくれ」 止めた方がいいんじゃないかと学と話していたけど美希が「いいから」と言うので放っておいた。 「……盆に入る前に婚姻届出しに行こう?」 「ありがとう!」 そう言って海璃を抱きしめる善明。 そして寝てしまった。 僕と光太で善明を支えてテントに運ぶ。 光太は学に叱られていた。 善明がああなったのは多分光太の仕業だから。 「海璃はいいよな。私はまだ当分結婚できないんだ」 水奈が愚痴をこぼす。 「水奈が卒業するまで待つ話したろ?」 「空には私の気持ちが分かってもらえねーよ」 「まあ、そういうな。悩みがあるなら聞いてやるから」 「そうか。じゃあ聞いてくれ」 そう言って水奈は僕と二人で話を始めた。 実際に僕の家に言ってもテレビ観て夕食食べて勉強してゲームするだけの毎日。 週末は泊まりなんだと意気込んでとっておきの下着をつけても気づいてすらくれない。 私は僕の彼女じゃないのか? 私に魅力がないのかと部屋を探っても妙はDVD等は出てこない。 どうしたらいいのか分からないらしい。 そんな風に思っていたんだな。 水奈の不安を一つずつ取り除いてやった。 「夏休みになったら泊りにおいで」 「泊っても何もしてくれないじゃないか」 「それは謝る。ただ、女子というのを理解してなくて毎回求めてたら嫌がられるんじゃないかと思って」 「空に求められて嫌がるわけないだろ?」 「だからそれを確かめたいんだ」 「……わかった」 水奈は納得したようだ。 肉を食べ終わると女性陣は片づけを始める。 善明は起きてこなかった。 皆で花火をしたり遊んでいた。 そして夜食を食べる。 片付けの手間になるのでカップラーメンにした。 夜食を食べ終える頃にはそれぞれテントに入ったり2人で散歩をしたりしている。 毎年来ていたこの海もメンバーが違うだけでこんなに変わるんだなって思った。 親がいない解放感もあった。 水奈と流木に座って星空を眺めながら話をする。 「空が生きている限り空は一つの事を思い続けて欲しい」 水奈がそう語る。 与える事と受け取ることは一緒の事。 だからお願いだから分かって欲しい。 一夜限りの愛なんていらない。 私は恋の駆け引きなんて求めていない。 私が望むのは僕を抱き締めたときの魔法。 それは一夜限りの愛よりも大切な事。 僕の手を握った時に感じるあの感覚が欲しいの。 私の時間を空っぽの恋愛ですり減らさないで。 私はこれから自分の為に時間を使っていくから。 「空が好きだ。心が締め付けられる程に」 全てを分け合える場所を探そう。 始まりの魔法の光を求めよう。 だけどもうすでに魔法の光は消えている。 僕が水奈の恋人になった時に魔法は役目を終えている。 もう僕達を止める者なんていない。 「そろそろ寝ようか?」 「わかった。その前にお願いがあるんだけど」 「わかってるよ。行こう?」 「ありがとう」 水奈と一緒にお手洗いに行くと水奈を待ってそしてテントに戻って寝た。 (4) 海だ! 僕達は船に乗って海を渡っている。 「あんまりはしゃぎすぎると、海に落ちてしまいますよ」 母さんに注意される。 僕達は佐賀関から船にのって無人島のキャンプ場に向かっていた。 テントはいらない。バンガローがあるから。 食材と水着と飲み物だけあればいい。 無人島に着くと荷物をバンガローに運びそして水着に着替える。 着替えを終えると海に行く。 「あまり遠くにいったらいけませんよ」 母さんが注意する。 ここなら人もそんなにいないと母さんも水着に着替えていた。 父さん達は釣りをしている。 天音姉さんたちも釣りをしていた。 最初は「暇だ!」と不満をこぼしていた天音だったけど魚が大量に釣れると「これ食い放題だよな!」とはしゃいでいた。 そうなると僕も誠司も釣りが気になる。 そうなるだろうと思って父さんが小さい釣竿を用意してくれていた。 面白いくらいに釣れる。 誠司と勝負していた。 茜や冬莉達は暇だったようだ。 バンガローで本を読んでる。 日が暮れる頃には大量の魚を確保していた。 母さん達は野菜を切ってる。 魚を捌くのは父さんの役目。 天音姉さんも手伝っていた。 「いてっ!」 誠司の父さんが指を切ったらしい。 指の先っぽをほんの少しだけ。 「この馬鹿!普段やらないことをやろうとするからそうなるんだ!余計な手間とらせやがって!」 「冬夜さんも気をつけてくださいね」 「大丈夫だよ愛莉。ちゃんと覚えてるから」 父さんは本当に何でもこなすな。 「何でパパは魚捌けるんだ?」 料理した所なんて見たことないと天音が不思議がっていた。 まだ僕や天音が生まれる前の話だった。 母さんが身重で動けない時に父さんは料理を覚えたらしい。 「冬吾も覚えておくかい?瞳子ちゃんに何か作ってあげたらきっと喜ぶよ」 「冬吾には私が教えますから」 まだ小学生の僕に包丁は持たせられないと母さんは言う。 「私は冬吾の歳の時には包丁持ってたぞ!」 天音が言う。 ちなみに水奈は来ていない。 今頃空と楽しんでるはずだ。 食材の準備が整うと宴が始まった。 「大量にあるんだからそんなに綺麗に食わなくていい。美味しい所だけ食っとけ」 誠司の父さんが言う。 食べ物を粗末にするのは良くないと父さんは言っていたけど。 肉と魚と野菜と米を堪能してジュースを飲む。 その後シャワーを浴びてバンガローに入る。 トランプをしたり遊んでいた。 茜や冬莉は寝ていた。 「冬吾も早く寝ておきなさい」 父さんが言う。 どうしてだかわからなかったけど、きっといいことがあるんだろう? 僕達は早めに寝る事にした。 大人同士の会話もあったのかもしれないと思ったから。 スマホの電波が届かない場所で、瞳子は今頃何をやっているんだろうとか考えながら眠りについた。 (5) 朝早く起きた。 それ以上に空が早く起きてた。 水奈は夜遅くまで起きていたらしい。 まだ寝ていると教えられた。 海璃もまだ寝ている。 空がお湯を沸かしていたので頂いてコーヒーを飲む。 少し頭が痛い。 光太のせいだね。 空がコーヒーを飲んでる僕に「おめでとう」と言った。 何のことを言ってるのか分からなかったので空に聞いてみた。 「覚えてないの!?」 空は驚いている。 さっぱり覚えていない。 「差し支えなかったら教えてもらえないかい?」 「良いけど、間違っても『記憶がない』とか海璃に言ったらだめだよ」 「わかったよ」 すると空が驚愕の事実を言った。 僕は海璃にプロポーズをしたらしい。 やってしまったようだ。 美希あたりがボイスレコーダーに記録しているだろう。 空の説明によると夏休みに入ったらすぐ入籍する手はずになってるらしい。 嫌な予感がしたのでスマホを見る。 母さんから「やっと、覚悟を決めたのね。挙式の手筈は任せない。でも子供は海璃の負担を考えて大学卒業してからにしなさい」とメッセージが残っていた。 今さら「記憶がないのでなかったことにしてください」なんて言えない。 父さんとは事情を察したのだろうか?「まあ、頑張って」としか言わない。 頭を抱える僕。 「おう!善明!早朝って気持ちいいよな!」 光太がやって来た。 君のせいで僕はこの歳で妻を取ることになったそうだよ。 まだ働いてもいないのに夫だよ。 どうしてくれるんだい? その後も学が起きて来て相談をしていた。 出た結論は「いい加減覚悟を決めろ」 そうなるよなあ。 光太は完全に僕を揶揄ってる。 「式はやっぱりゴンドラとか乗るのか?」 今時そんな式聞いたこと無いよ。 するとほかの人も起きてきた。 海璃は上機嫌だ。 「あら、先に起きてたのなら起こしてくれてもよかったのに」 「いや、海璃の幸せそうな寝顔を見てたらそんな気が起きなかったよ」 「それはそうだよ。私は今も幸せなんだから」 僕は朝からマリッジブルーというのに襲われているよ。 女性陣が朝食を作り出す。 といっても、パンとインスタントのコーンポタージュと昨日の肉の残りで作った焼きそばと目玉焼きとコーヒーだけど。 女性陣は同棲してるだけあって手慣れた手つきで作り上げていく。 それを食べ終えると女性陣が食器等を洗っている間にテントを解体する。 荷物を車に積むと銭湯に行く。 何を話しているか分からないけど女性陣が騒いでいるのは分かった。 きっと海璃を中心に盛り上がっているのだろう。 男性陣は僕を慰めるのに必死だったよ。 「まあ、男だったら言ったことに責任持たないとな」 まるで他人事のような光太。 お通夜みたいな状況だったので話題を変えてみた。 「みんなは夏休み何か予定を入れてるのかい?」 最初に答えたのは空だった。 「8月の連休は光太達が休みだろうから、その後に水奈と一泊して来ようと思ってる」 高校生の夏休みは短い。 空のお母さんに「偶には水奈を休ませてあげなさい。いつも水奈にお世話になっているのでしょ」と言われたそうだ。 光太も忙しいらしい。 今中学校の改修工事に入ってるんだそうだ。 学校の改修工事は学校が長期休暇の間に終わらせなければならない。 そして盆の連休に仕事に出る事は基本志水建設では許されない。 盆があけたらすぐに2学期がはじまる。 当然急ピッチで作業を勧められているらしい。 今日も本当は仕事をしているんだそうだ。 新人の自分が休んでいいのか悩んだけど「ああ、亀梨君達はいいよ。折角の連休なんだし遊んでおいで」と上司に言われた。 同僚の克樹からも「お前何者なんだ?」と言われるくらい優遇されているらしい。 志水建設副支店長の息子。 そして渡辺班に所属している。 志水建設で優遇されないはずがない。 大卒よりも高待遇だそうだ。 「善明は何か予定あるの?」 空が聞いてきた。 「ああ、盆が明けたら空と同じように旅行に行くつもりだよ」 「へえ、善明達の事だから海外旅行でも行くんだろうね」 空はきっと冗談のつもりで言ったんだろう。 でも図星だった。 フロリダに一週間ほど行く予定だ。 飛行機もビジネスクラス。 大学生のロングバーションの過ごし方じゃないよ。 ある意味これが新婚旅行なのかもしれないけど、多分それで許してくれるはずがないだろう。 母さん達がとんでもない旅行先を探しているかもしれない。 下手すりゃ「ちょっと宇宙を体験してらっしゃい」くらいの事は言い出しかねない。 恐ろしい事はフロリダの旅行も仕送りを溜めた資金で行けてしまう事だ。 「まあ、客としては酒が大っぴらに飲める歳になってから指揮を上げて欲しいな」 光太が言う。 光太はどうせいつやっても普通に飲んでるんじゃないのか? 風呂を出てしばらく待っていると女性陣も出てきた。 ファミレスで昼食を食べて解散になる。 「じゃ、次は盆休みな」 光太が言うと皆車で帰り出す。 僕達も家に帰る。 本当に家だ。 誰も大学生が同棲している場所とは思わないだろう。 器具の片づけを終える頃、海璃がコーヒーを入れてくれた。 覚悟を決めろか……。 しかし決意が決まらない。 そんな事情を察してくれたのか海璃が言う。 「昨夜の件ならお気持ちだけでも嬉しいから焦らなくても大丈夫ですよ」 そんな事を言われて「なら、そうするよ」とか言って許してくれるような親じゃない。 覚悟を決める。 「期末テストが終わってからでいいかい?」 「本当にいいんですか?後悔しませんか?」 「ここで後悔するようなら同棲なんかしないよ」 「嬉しいです」 そんな喜んでいる海璃を見ていると思わず言ってしまうんだ。 「……これからでかけないかい?」 「どこにでかけるんですか?」 「指輪、買うって約束したろ?」 (6) 早朝4時に冬吾を起こした。 眠そうな冬吾だけど「おいで」というと素直についてくる。 船着き場にはもうみんな既についていた。 釣竿をもって座っている。 昨日のような釣果はあげられず退屈そうにしていた。 冬吾はこんな時間に起きているのは初めてだからだろう。 楽しそうに釣り糸を眺めていた。 そろそろ頃合いかな。 冬吾に釣竿見ているように頼むとバンガローに戻る。 カップラーメンにお湯を入れて蓋をすると船着き場にいる冬吾に一つ渡す。 もうそろそろ食べごろだろう。 冬吾と一緒に食べる。 まだ少し肌寒く、そして海で食べるカップ麺は格別だ。 冬吾も満足しているようだ。 陽が上る頃女性陣が起きて朝食の準備を始める。 朝食を食べ終えると冬吾にはまだ早起きは早かったらしい。 バンガローで眠っていた。 その間にある程度荷物をまとめる。 迎えの船が来る時刻に冬吾を起こす。 船に荷物を積み込みそして乗り込んで佐賀関に戻る。 「初の試みだったがどうだった?」 渡辺君が聞いてる。 「あの島丸ごと買い取るのもありかもしれないわね」 恵美さんが言うと本当にやりそうだから怖い。 「まあ、使うシーズン限られてるからそこまでしなくてもいいんじゃないか?」 渡辺君が言うと「それもそうね」と考え直したらしい。 佐賀関に着くと荷物を車に積み込む。 ファミレスに寄って昼食を食べる。 今年は天音も免許を取る。 もうこの大型車は処分してもいいかもしれないな。 昼食を食べると解散して家に帰る。 家に着くと荷物を倉庫に片づける。 「茜!服は部屋で脱ぎなさいと何度言ったら分かるのですか!」 愛莉が茜を叱ってる。 誰に似たんだろうか? 夕食は出前で寿司を頼んだ。 夕食が済むとみんな風呂に入って最後に僕が入る。 そしてテレビを見ていた。 時間になると愛莉と寝室に戻る。 「今日はお疲れ様でした」 「愛莉もお疲れ様」 子供たちはもうじき夏休みに入る。 今のうちに夏休みを楽しむと良い。 ただ、ぼんやりとしているのもいいだろう。 こんな大型連休があるのは子供のうちだけなのだから。
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