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震える愛
(1)
「じゃあ、行きますよ」
「はい」
海璃が言うと僕はエンジンをスタートさせる。
エンジンの音からすでに凶悪なパワーを感じさせる。
まさにモンスターと言っても過言ではない車を出そうとアクセルを踏む。
忘れていた。
その車が3秒足らずで時速100キロに到達する化け物だという事を。
物凄い勢いで飛び出す車に慌ててブレーキを踏む。
「きゃっ」
海璃が驚いたようだ。
「ごめん」
「ううん、大丈夫」
今度は少しだけ優しくアクセルペダルを踏む。
ゆっくり走らせることが難しい車で僕達は初めてドライブに出る。
一度走らせるだけで新卒の月給が飛んでいきそうな車なんだけど海璃が「是非一度乗ってみたい」と言うので走らせることにした。
最古速度380キロ以上という日本の法律を無視した車はリミッターを外すと42秒で400キロに到達するという恐ろしい運動性能をもつ。
熱対策もばっちりでアフリカでも平気で走行できるそうだ。
幸いにも初心者マークは外せる時期になっていたけどそのいかにもなフォルムに誰も近寄ろうとしない。
余程の度胸がないと煽る事すらできないだろう。
当然高速に入る。
県内の高速道路は制限速度80キロ。
それをはるかに超えるスピードで楽々と坂を上っていく。
加速だけじゃない。
コーナーリング性能もブレーキ性能もトップレベルだ。
最高速度から停止まで僅か10秒ほど。
美希は隣で喜んでいた。
助手席が右側にあるので少しは怖がるかと思ったけどそんなことはなかった。
ジェットコースターみたいだと喜んでいる。
女性という生き物がそうさせるのか、分からないけどハンドルを握ってる僕は生きた心地がしない。
空は車と対話すると聞いたがこのじゃじゃ馬とどう向き合うのか少し興味があった。
そんな恐怖も1時間もすれば薄れていく。
なんとなくこの車の走らせ方を理解した。
しかしやはり疲れるのでSAで少し休憩を取る。
海璃が買い物に行ってる間に少し休む。
海璃がスポーツドリンクを買ってきてくれた。
それを飲むと再び走り出す。
如何にもな車が後ろにぴたりとくっついた。
自分の車のエンジン音で分かりづらかったが、微妙に違うサウンドがうなりを上げる。
煽っているらしい。
ハザードランプをつけて先に行くように意思を伝えるが一向に右に行かない。
ようやく右車線に出るとあっという間に駆け抜けていった。
すると海璃がとんでもない事を言い出した。
「善明、あの車追いかけて!」
美希はおしとやかな性格……だったはず。
そんな海璃が凄い剣幕で言うのでどうしたのだろうと思った。
「何か気に入らないことがあったのかい?」
海璃はSAであった事を説明してくれた。
若いカップルがいたそうだ。
そのカップルがこう言ったらしい。
「車だけ派手で中に乗ってる人間はださっ。きっと車オタクだよね」
「いるんだよな。自分につり合い取れてないの自覚してないで高そうな車に乗ってる奴」
「しかも外車で街の中を飛ばすだけのテクニックが備わってないんだよな」
外車というのは左ハンドルだからそう判断したんだろう。
「観たことない車だし大した車でもないんだろうけどさ」
そう言って笑っていたらしい。
追い越して言った車はちらりと見た。
国産のスポーツカーだ。
とはいえ大衆車と変わらない程度の値段の車。
僕の車でそのくるま何十台買えるか知ってるのだろうか?
庭が車で埋まってしまうくらいは軽く買えるよ。
そんな庭持ってればの話だけど。
しかし困った人を怒らせてしまった。
ここで僕が「いやあ、危ないからやめておこうよ」とかいって海璃の不満を解消しなければたちまち親の耳に入って怒鳴られるだろう。
「自分の嫁に恥をかかせて何とも思わない男に育てた覚えはない!」
車はすでに福岡にはいって制限速度は100キロになっている。
何の気休めにもならないけど。
この先にオービスがあるという話も聞いたことは無い。
念の為探知機はつけているけど。
そしてここから鳥栖ジャンクションまではほぼ直線。
仕方ないな。
「ちょっと怖い思いをさせるかもしれない。怖くなったらすぐに言うんだよ」
「はい!」
車のモードを切り替えてリミッターを外すとアクセルを踏み込む。
車は狂気の速度にあっという間に達する。
相手の車が見えると少しだけアクセルを緩める。
それでもあっという間に後ろに追いつく。
こんな車の後ろについている方が危険だ。
さっさと抜き去る。
相手も加速したようだが、1500馬力は伊達じゃない。
カーブは無いけどあっというまにルームミラーから消えていった。
「善明さんすごーい」
運転手の腕にしがみ付くのはどうかと思うよ?
今の速度分かってる?
免許取り消しじゃ済まない速度だよ?
「……母さん達には内緒だよ」
「わかってる」
その後は特に変な車に絡まれることもなく北九州から地元へと戻っていった。
ガソリンはかなり減っていた。
減っていたってレベルじゃない。
途中で何度も給油した。
最高速度で走り続けるとリッター1キロを切る。
100Lの燃料をわずか12分で消耗する計算になる。
質の悪い事にハイオクを使うようになっている。
ハイオク仕様車にレギュラーガソリンを入れると故障の元になる。
そしてメーカーは保証してくれない。
燃費だけで生活できるような車だ。
出来るだけ出かけるときはもう一台の車にしようと思った。
「また行こうね」
海璃には気に入って貰えたようだ。
(2)
私達は成田空港に居た。
ワシントンD.C.行きの飛行機を待っている。
新婚旅行じゃないけどせっかくの夏休みなので旅行に行くことになった。
どこに行くか考えていたら善明の母さんが「本場のテーマパークでも楽しんできなさい」というのでフロリダに行くことにした。
毎月少しずつ仕送りを溜めていた……ということは無い。
善明さんはどこか浮かない顔をしている。
あまりこう言うテーマパーク好きじゃないんだろうか?
高校の修学旅行の時はそんな感じはみせなかったけど。
「英会話なら大丈夫ですよ」
「それは僕も心配してないよ」
「じゃあ、どうしてそんなに不安そうにしているんですか?」
「大学生が小遣いで旅行に行く場所なんだろうか?って気がしてね」
そう言えばサイトで予約をするときから表情が引きつっていた。
「……新婚旅行は2週間のクルーズだそうですよ」
「それって僕の母さんから聞いたのかい?」
「ええ、善明さんの母さんが手配してくれてるって」
だからこのくらい大したことないよ。
そう言って安心させようとしたつもりなのだけど善明は更に頭を抱えてしまった。
何を悩んでいるのだろう?
そろそろ時間だ。
出国手続きをしてラウンジで待機する。
ブラックカードの特典だ。
コーヒーでも飲んで落ち着いて下さい。
時間になると飛行機に乗り込む。
飛行機が飛び立つと善明も覚悟を決めたようだ。
一緒にパンフレットをみてくつろいでいる。
席は当たり前のようにビジネスクラスだった。
機内食を食べてワシントンD.C.に着く。
そこからさらにオーランドに向かう。
専用車に送迎してもらいホテルに泊まる。
海外旅行の場合大抵朝と夜の食事はついてない。
自分たちで自由に食べる。
フロリダではメキシコ料理が有名らしい。
ガイドを見ながらタクシーを拾い案内してもらう。
アメリカでは飲酒は21歳から。
ジュースで我慢して夕食を楽しむ。
ホテルに戻るとシャワーを浴びる。
善明もシャワーを浴びてテーマパークのパンフレットを見ている。
2人で行って見たい場所を挙げていく。
でも本当は悩む必要は無かった。
だって4日間滞在するのだから。
大体の場所は回れるだろう。
それでもこうやって善明さんと相談してる時間を楽しむことにした。
明日から2人で色々回るんだろうな。
早めに寝る事にした。
(3)
家に帰ると良い匂いと「あ、吉生。おかえり~」と明るい声が俺を出迎えてくれる。
俺は独身だ。
彼女もつい最近初めてできたばかり。
しかし仕事が忙しくてあまり構ってやれない。
そしてもう一つ問題があった。
彼女の歳はまだ17。
未成年だった。
だけどあまりそういうのはこだわらないらしい。
実際彼女の家に挨拶に行った時も揉めることはなかった。
彼女とは何もないまま過ごしていた。
未成年だから手を出すわけにはいかないと自粛していた部分もあるのかもしれない。
それ以上に仕事をやっていて一緒に居る時間がなかった。
俺の仕事は菓子職人だ。
当然休日はかき入れ時。
盆休みも仕事だ。
世間では3連休や5連休だと言われている。
それが終ってようやく明日休むことが出来た。
それを知った彼女、相馬絢香は今日泊まりに来ると言った。
彼女だからいいや、と合い鍵を渡していた。
そして今家に帰ると夕食を用意して待っていてくれた。
食卓にはご馳走が並んでいる。
絢香は調理科だ。
料理には自信があるらしい。
2人で席に座ると一口食べる。
「どう?」
「美味しいよ。ありがとう」
「よかった~」
実際美味しかったけど、家を出てずっとコンビニ飯だったので愛情のこもった手作り料理は格別の物だった。
夕食を終えると2人で食器を片付ける。
「吉生先に風呂入ってきなよ。疲れてるんでしょ?」
「悪いね」
絢香のお言葉に甘えて先に風呂にはいる。
俺が出ると絢香が風呂に入る。
その間あることで悩んでいた。
絢香の寝床どうする?
俺はリビングのソファで寝て絢香にベッドで寝てもらうか。
そんな結論を吹き飛ばす格好で絢香は風呂から出てきた。
Tシャツ一枚で下は何も穿いてない。
正確にはパンツは履いてるらしいが。
絢香は寝るときはブラをつけないのか。
そんな悠長な感想を言っている場合じゃない。
「絢香、寝間着どうした?」
「それが忘れてきちゃって、まあ吉生だからいいよね」
「俺のパジャマ貸すよ」
「いいよ、暑いから」
そういう問題じゃない。
俺だって男だぞ。
そういう事をしたことは一度もないけど。
そんな俺の悩みなどきづいてくれるはずもなく、絢香は俺の隣に座ってテレビを見ている。
隣で良かった。
真正面に座られたらきっとちらりと見えるパンツが気になってそれどころじゃないだろう。
隣でも問題はある。
こんなに女性に近づかれたのは初めてだ。
ほのかに漂うシャンプーの匂い。
目線を落とせば襟の広いシャツから見える胸の谷間。
最近の子は発育が良いという話は本当らしい。
さすがにテレビに集中しろというのには無理があった。
見とれている俺の視線を察知した絢香が俺の顔を見て言った。
「吉生、女性とお泊り初めて?」
「ああ、初めてなんだ」
情けない話だけど。
しかし絢香は嬉しそうに俺の腕に抱き着く。
「よかった。私も初めてなんだよ」
そういう問題なのだろうか?
「明日どこに行きたい?」
「そうだね~、吉生とデートなんてほとんどないし……。あ、吉生車持ってるよね」
「あるけど」
「じゃ、行ってみたいところがあるんだ」
絢香が希望したのは水族館だった。
その後は適当にドライブして夕食でいいと絢香は言う。
明日の予定を相談が終ると良い時間だった。
「そろそろ寝ようか。絢香は俺のベッドつかっていいよ」
「え?」
絢香は聞き返して来た。
なんか俺まずい事言ったかな?
「ごめん、こういうの慣れてなくて。男のベッドは嫌か?」
汗の臭いとか気にするんだろうか?
「いや、そうじゃなくてさ。吉生は何処で寝るの?」
「ここで寝るから大丈夫だよ」
「……吉生は私じゃ物足りないの?私やっぱり子供かな?」
なんでそうなるのか意味が分からなかった。
言ってる意味が分からない。
「あ、そっか。吉生も初めてだったんだよね。でもこういうのって男の人から誘ってくれるんじゃないの?」
何となく察した。
だけどさすがに17歳に手を出したら犯罪じゃないのか?
法律上は遊びはだめだけど本気の交際なら問題ないとされている。
何をもって本気なのか遊びなのか基準があいまいだけど。
結婚を前提とした関係なら問題ないらしい。
将来どうなるか分からないのにそれでいいのだろうか?
しかし断る理由もなかった。
「絢香はまだ子供だから」
そんな理由じゃ絢香を傷つけるだけ。
俺に心の準備が出来てない。
あ、それならいいかも。
「ごめん、心の準備が出来てないんだ」
「そんな女みたいなこと言わないでよ。私は泊まって良いと言われた時から準備してるよ」
最後の手段だ。
「その……ゴム買ってきてないんだ」
ゴムなしじゃまずい事くらい絢香の歳ならわかるだろ?
大きなお腹で学校には通えない。
絢香は分かってくれた。
初めから分かっていたから絢香は余裕の笑みを浮かべた。
「そんな事だろうと思って吉生の代わりに買っておいたよ」
ご丁寧に3種類のサイズを用意してくれたらしい。
ここまで準備させておいて断るのはさすがに絢香を傷つける事になりかねない。
覚悟を決めるか。
「……言っとくけど俺初めてだから」
「私だって初めてだよ」
絢香がそう言うと2人でベッドに入る。
多少痛がっていたけど「平気」と笑顔を作る。
感想を聞いたりするのはマナー違反だとどこかに書いてあったので聞かなかった。
初めてだと言っていたしよくわからないだろうし。
俺も初めてなのでよく分からなかった。
無我夢中で自己中心的な行動になっていなかったらいいけど。
その心配はなかったようだ。
「私今幸せだよ」
そう言って抱き着いてくる絢香。
「それはよかった」
「ねえ、あともう一回だけ」
「ごめん、ちょっと疲れてしまったみたいだ」
そういや、女性は2回目からが本番だって乗っていたな。
男も2連戦やれないことはないけど少し休憩時間が欲しい。
「しょうがないな。じゃ、代わりにお願い聞いて」
「なんだい?」
「私今からシャワー浴びて来るからその間起きてて、一緒に寝よう?」
「わかったよ」
「あ、一緒にシャワー浴びるって手もあったか」
「俺は遠慮しとくよ」
普通のシステムバスに2人はきつい。
「男の人は事が終ると冷たくなるって言うけど本当だね」
「そんな事無いよ。ちゃんと起きててやるから」
「は~い」
そう言って小ぶりなおしりを振りながら裸で浴室に向かっていった。
バスタオルを巻いて浴室から出てくるとバスタオルを取ってベッドにもぐりこむ。
「下着とかつけなくていいのか?」
「今さら恥ずかしがることもないでしょ」
案外大胆な子なんだな。
女子ってみんなこうなんだろうか?
絢香は俺に抱き着いて、そして眠りについた。
俺もそんな絢香の頭を撫でながら気が付いたら眠っていた。
女子高生を抱いて寝る。
文章にするとちょっと犯罪っぽくある夢のような夜を過ごした。
「吉生!朝ごはん出来たよ!」
目を覚ますと絢香は着替えている。
俺も着替えると朝食を頂く。
俺が片づけをしてる間に絢香は支度をしていた。
絢香の仕度を終えるとでかける。
時間的にはちょうど開館時間についた。
女性は水族館などが好きだと聞いていたけど本当らしい。
楽しそうにしている。
そんな絢香を写真撮ってやったりしてた。
昼食は水族館のレストランで食べる。
連休を過ぎたとはいえまだ子供たちは夏休み。
レストランも混雑していた。
「ドライブは北と南どっちがいい?」
「う~ん……」
絢香は悩んでいる。
多分海と山と聞いたら海って答えるような気がしたからじゃあどっちにいく?と聞いてみた。
南だと地元に帰る方向、北だと国東を一周して帰るルート。
どうせ混んでるのはこの周辺と市街地だけだ。
帰りの混雑は高速を使えば問題ない。
「北にする!」
確かに北の方がすぐに海岸線に出れる。
入り組んだ道を走るのも悪くないだろう。
水族館を出ると別府方向に走る。
思った通り混んでるのは水族館の当たりだけ。
あとはすいすいと進める。
別府を越えて国東半島を一周する。
途中昭和の町に寄った。
令和となった今平成の町なんてのも出来るのだろうか?
帰りは予定通り高速を使って帰る事にした。
地元に入るとレストランに寄って夕食を食べて絢香を家に送る。
「一度言ったから何度行ってもいいよね?」
「ああ、いつでもいいよ」
「じゃあ、通い妻になろうかな?」
「勉強もしっかりやれよ」
「は~い」
そう言って絢香に見送られて家に帰る。
仕込みの時間とかも考えるとそんなにゆっくりしてられないな。
家に帰ってシャワーを浴びるとすぐに寝た。
絢香との初めての夏の終わり。
絢香は将来どんな夢をみているのだろう?
10年後の自分をどう想像しているのだろう?
願わくば10年後も絢香の隣に俺がいれたらいい。
そんな事を考えていた。
(4)
「空、おまたせ」
水奈が後部座席に荷物を積むと助手席に乗り込む。
僕は車を発進させる。
昨夜は遅かった。
準備をする時間もあったのだけど大きな問題があった。
今日の昼食について。
高菜ご飯にするか赤牛丼というのにするか?
カロリーとかそういう問題じゃない。
どっちの方がレア度が高いかだ。
どっちも同じくらいだと判断した僕は「両方食べちゃえ」という結論にでた。
先にがっつり赤牛丼を頂く事にした。
今からだったらゆっくり行っても開店時間には間に合う。
のんびりと車を走らせる。
阿蘇に入るとすぐにお店が見つかった。
丁度いい時間だったので店に入る。
水奈は料理が来ると写真を撮ってる。
僕はその間に食べる。
美味しい。
父さんにも教えてやろう。
食べ終わると少し竹田の方にもどる。
そこに高菜めしの店があった。
高菜めしと馬刺しのセットを頼む。
水奈は馬刺しを少しつまんだ程度だった。
夜はオーベルジュでフランス料理を食べる。
フランス料理ならそんなに量ないし昼にがっつり食っておこう。
水奈とそう話していた。
オーベルジュとはレストラン付きのホテルの事。
そのオーベルジュはおまけに家族風呂がついているらしい。
部屋にバスルームがあったけどどうせならたまには広いお風呂も良い。
混浴は今さらな話だ。
もちろん翼や天音以外の女子と入ったことは無い。
まだ翼や天音が小さい頃の話だ。
天音に恥じらいが芽生えたのか知らないけど天音から一人で入ると言い出した。
水奈以外の女性に興味はないのかと言われると難しい。
例えば美希なんかを見てる胸大きいなとか思う事がある。
今は8月。
宿泊施設に入るにはまだ時間があったので動物園によるとまだ露出の多い服を着てる女性がいる。
そんな女性に見とれることだってある。
でもなるべく意識しないようにしてる。
それでも不可抗力というものがある。
僕だって一応健全な男子だ。
そして水奈に小突かれる。
それから水奈のご機嫌を直すのに時間がかかる。
水奈は十分魅力的な女性だ。
どうして周りの男性が声をかけないのか不思議なくらいい。
僕と同い年だと言ったらきっと誰もが信じるだろう。
まあ、僕にぴったりくっついてるのが理由なんだけど。
それでも水奈は自分の体形に納得いかないらしい。
胸はある。
ウェストのラインも申し分ない。
ただ、お尻が少し乏しいだけ。
それを水奈は気にしているらしい。
動物園を出るとコンビニに寄る。
どうせ夕食だけじゃ足りないと食料とジュースを買い込む。
オーベルジュに着くと手続きを済ませて部屋に案内してもらう。
部屋に入るとベッドにダイブする。
ずっと運転してるとやはり肩が凝ったりする。
それを水奈がマッサージしてくれる。
「お疲れさま」という水奈の気持ちが伝わって心も体も癒される。
夕食の時間になると食堂に行く。
やっぱり量が足りなかった。
さすがにこういうムードの中で飲み物はおかわり出来てもご飯は無理。
夕食が終ると予約していた家族風呂の時間までテレビを見ていた。
そして風呂に入ると部屋に戻って買ってきた食料を食べる。
お腹が満たされたら一緒に寝る。
ベッドは二つあったけど今さら別々に寝るなんてことはしない。
十分大きいベッドだったし。
疲れていたのですぐに寝てしまった。
朝起きると隣で寝ていたはずの水奈は下着を身に着け服を着ている。
僕も服を着る。
朝食もなんか物足りなかった。
こんなぺらぺらの生ハムじゃ満たされるはずがない。
またコンビニで何か買うか。
朝食が終ると荷物をまとめて早めに出発する。
今日のスケジュールも結構時間ぎりぎりだ。
コンビニで食料を調達して阿蘇山を上る。
結構な勾配を上りながら草を食べてる牛を眺める。
水奈は普段ミニスカートでいる事が多い。
だけど今日だけは特別らしい、ジーパンを穿いていた。
理由は水奈の母さんに「草千里に行くならスカートは止めておけ。後サンダルも」と言われたそうだ。
その理由はすぐにわかった。
地面が少し柔らかい土だから。
しかもぬかるんでる。
馬に跨って一周するのもスカートでは難儀しただろう。
最後に馬に餌をやって。
阿蘇山の火口に行く。
今日は近くまでいけるようだ。
近づくと綺麗な色をしていた。
いつまでも見て居たいけど時間があまりない。
出発すると上って来た道とは反対の方へ降りる。
狭い国道を抜けると高千穂に着く。
とりあえずお腹空いた。
水奈と相談する。
夕食はチキン南蛮と決まっていたけど昼食を決めていなかった。
肉か蕎麦か。
宮崎と言えば和牛。
しかし高千穂の名水で打ったそばも捨てがたい。
悩んだ末両方食べる事にした。
どちらも滅多に味わえないものなのだからありだろうと思った。
腹を満たすと水奈のパワースポット巡りに付き合う。
今さら神様にお願いする事なんてあるのだろうか?
ああ、来年受験だったな。
パワーをもらって何に使うんだろう?
単にリフレッシュしたいからと観光目的なんだそうだ。
心も体も洗われる気分になれる。
まあ、水奈とこうやって観光してる気分は悪くないので不満は無いけど。
大体の神社を見て回ると延岡に向かう。
観光していた時間も結構あったので延岡に着く頃には日も暮れていた。
夕食には丁度いい頃合いだ。
父さんに言われた店に寄ってチキン南蛮を食べる。
美味しかった。
車の方もエンプティ間近だったので給油する。
給油している間に水奈と相談する。
帰りは国道を通るか高速を利用するか?
どうせ明日も休みだ。
空の疲れは私が癒してあげるから国道走ろう?
水奈がそう言うので国道を走ることにした。
山道を走って行く。
途中温泉のある道の駅があったので寄った。
家族風呂を水奈がスマホで予約していた。
出来る限りいつも一緒に居たいらしい。
風呂で水奈が肩を揉んでくれた。
犬飼に辿り着く頃には日が暮れている。
中判田のラーメン屋でラーメンを食べて家に帰った。
風呂は途中で入ったからいいや。
さすがに2日も運転していると疲れる。
部屋着に着替えてベッドに入る。
時計は23時を回っていた。
僕達の年頃ではまだ早いかもしれないけど疲れていたので寝ようとした。
だけどそれを水奈は許してくれなかった。
「空は昨日私に構ってくれなかったんだから今夜くらいいいだろ」
そう言って僕の上に覆いかぶさる。
そういや昨日も疲れてすぐ寝たんだったな。
水奈の背中に両手を回すと水奈はにこりと笑う。
この二日間は水奈の疲れをいやすためのもの。
だから最後まで水奈の我儘につきやってやることにした。
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